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第34話 レグルス対策を思いついた

 再び、いつもの宿屋に戻ってきた。


「……いや、普通に強かったな、あいつ」


 ベッドに腰を下ろしながら、俺は天井を見上げた。


 レグルス。


 正直、もっとこう、勢いだけのやつかと思っていた。だが実際にやってみると違う。あいつ自身が強いというより、ちゃんと相手に合わせてモンスターを選んでくるのが厄介だ。


 今回も、最初のゴーレムは一撃で倒せた。


 だが二匹目のあの三つ尾のチーターは駄目だった。速すぎる。バルの速度じゃ追いつけないし、俺が投げても当たる気がしない。アンカーで一発逆転を狙ったが、結果は見ての通りだ。


「……あのまま普通にやってても、たぶん負けてたよな」


 俺がそう呟くと、横でバルが少しだけ気まずそうな気配を出した。


 さっきの最後を思い出しているのだろう。


 新スキルの使い道がわからないまま実戦投入した結果、俺が真正面から打ち抜かれた。バルからすれば、自分のせいで負けたと思っているのかもしれない。


「いや、そんな顔するなって」


 俺は笑って、バルへ声をかけた。


「バルもお疲れ。いい戦いだったぞ」


 バルが小さく揺れる。


「新スキルは使い道がわからなくて失敗したけど、ゴーレム分の経験値は得られたし、結果的には悪くなかったと思うぞ」


 ベッドの横に置いていた袋から、れいにゃが選んだ餌を取り出す。


「ほら、これでも食って気を取り直せ」


 さっきまで微妙な空気を出していたくせに、餌を見た瞬間、バルは露骨にそっちへ寄ってきた。


「現金なやつだな、お前」


 そう言いながら床に置くと、バルは何事もなかったかのように食べ始める。


 切り替えが早い。いや、むしろ俺の方がうじうじしすぎなのかもしれない。


 実際、そこまで深刻な負けでもないのだ。


 レグルスからは離れられたし、俺たちにはデスペナルティもない。失ったものは特にないし、経験だけはしっかり残った。


「そう考えると、別に何も問題ないんだよな」


 バルは黙々と餌を食っている。


「毎回違うモンスターを出してくれるなら、レグルスと戦うのも悪くないかもしれん」


 実戦経験になるし、相手もそこそこ強い。対策を考える材料としてはちょうどいい。


 とはいえ、二匹目でまったく手も足も出ない状態になったのも事実だ。


「……いや、それはないか」


 俺は苦笑した。


 そんな都合よく、毎回新しい経験値袋みたいに出てきてくれるとは思えない。あいつだって、次はもっと勝ちに来るだろう。


「ただ、そうなると考えないとなぁ」


 俺はバルを見た。


「レグルスに限らず、お前の速度を上回る敵にはどうにもできないってわけだし」


 バルは速い方ではある。


 でも、突出して速いかと言われると違う。直線の突進力はある。そこは強い。だが、追いかけっこになると分が悪い。


 今回でそれがはっきりした。


「アンカーで一発逆転を狙うか……」


 あのスキル、使い方さえ間違えなければ十分強いはずだ。


 射出した時の速度はめちゃくちゃ速かった。あれで相手を仕留められれば、かなり強い。


 問題は、どうやって当てるかだ。


「逆に、俺が打ち抜かれたみたいに相手プレイヤーを打ち抜く……?」


 そこまで言ってから、自分で首を振る。


「……いや、それは流石にルール無視すぎるか」


 やれなくはないのかもしれない。


 でも、やっていいかは別だ。お悩み相談室のこともあるし、人間相手にモンスターをぶつけるのは、その辺の線引きがどうにも怖い。


「もっと全体攻撃的な技とか、せめて範囲攻撃系があればいいんだけどなぁ」


 そう言ってバルを見る。


 見た目も性質も、どう考えてもそういう方向じゃない。


「……覚えなさそうなんだよな」


 バルは餌を食べながら、微妙な揺れ方をした。


 否定なのか抗議なのかはわからないが、少なくとも自信満々ではなさそうだった。


「とりあえず、次ぶつかったらアンカーで一発逆転を狙う方向で考えるか」


 バルは小さく揺れる。


 それでいいらしい。


 問題は、そこまで考えても、明日からもレグルスに絡まれ続けるのは普通にだるいということだ。


「どうにかならんのかな、あれ」


 俺は天井を見ながら呟く。


「そもそも、なんであんなに俺を狙ってくるんだよ」


 まあ、れいにゃ絡みなのはわかる。


 でも、そこまで執着するか普通。


 PVPだって、正直今のところそこまでうま味があるようには思えない。相手を倒して持ち物がもらえるわけでもないし、なんなら負けた方が失うだけだ。


「いや、でも嫌がらせって意味ではありなのか……?」


 そう考えて、ふと止まる。


「……いや」


 俺は身を起こした。


「俺の場合、嫌がらせにもなってないな」


 デスペナルティ無効。


 その称号がある以上、俺は負けても失わない。少なくとも普通の負け方なら、相手が期待しているような痛手にはならないはずだ。


「……あっ」


 そこで、ひとつ思いついた。


「それなら、デスペナ無効自体をレグルスに伝えたらどうだ?」


 俺は口元を吊り上げる。


「倒しても何も減らない。逆に、倒されると自分だけアイテムをロストする……」


 これだ。


 これなら、少なくとも向こうのやる気はかなり削げるだろう。


 嫌がらせとして成立していないとわかれば、わざわざこっちを追いかけ回す意味も薄くなる。


「よし」


 考えがまとまったところで、俺はようやく肩の力を抜いた。


 問題はまだ全部解決したわけじゃない。


 でも、対策の糸口は見えた。


 バルの進化方針もある。れいにゃ経由の売買ルートもある。レグルス対策も、たぶんこれでいける。


「憂いもなくなったし、今日はここまでにするか」


 俺は餌を貪っているバルを見た。


 機嫌はすっかり直っているらしい。


「じゃあな、バル」


 そう言って、俺はその日のゲームを終えた。


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