第33話 新技アンカーを試した結果
レグルスに油断はないようだった。
あの三つ尾のチーターを無理に突っ込ませるのではなく、少しずつ、だが確実に削ってくる。速さを活かして接近と離脱を繰り返し、こっちの反撃が届かない位置を保ちながら、じわじわとバルの体力を奪っていた。
かたや俺の方はジリ貧だ。
正直、攻撃を当てることができないのであれば勝機が見えない。
硬質化の効果が切れて、バル自身の速度は少し上がった。だが、それでも相手には追いつけていない。突進は鋭いが直線的すぎる。向こうの加速と小回りの前では、どうしても噛み合わなかった。
「くそっ……」
俺は歯を食いしばる。
このままなら負ける。
それはもう、はっきりしていた。
ただ、一応方法がまったくないわけではない。
さっきゴーレムを倒した時に、新しい技を覚えていたのだ。
アンカー。
だが、どういった技なのかがわからない。
戦闘中なので詳細は読めない。名前からすると、何かを引っかけるような感じだろうか。
「敵にアンカーを設置して、命中しやすくするとか……?」
たぶん補助技だ。
もし攻撃技なら、錨みたいなものを投げつけるのかもしれない。ほかに考えつくのは、アンカーという名前から、自身を移動できなくするとかいう意味不明な効果くらいだ。
「いや、そんなわけないか……」
自分で考えて、自分で即座に却下する。
だが、何もしなければ負けるのは確実だった。
技の詳細がわからないから使わない、なんて悠長なことを言っている場合じゃない。
「……使うしかない!」
俺は腹をくくった。
「バル! アンカーだ!」
叫んだ瞬間だった。
走り回っていたレグルスのモンスターが、正面でぴたりと止まった。
「は?」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
だが、すぐに理解する。
「マジか!?」
一番あってほしいが、ないだろうと思っていた効果。
敵を縫い付ける。
まさか本当にそういう系統だったのか。
「今だ! 渾身の突進を食らわしてやれ!!」
俺の声に、バルは即座に反応した。
迷いなく飛び出す。
一直線の突進。
これで決まる。そう思った。
その瞬間、世界が妙にゆっくりになった気がした。
バルの体が、突進に合わせてぐっと前へ伸びていくのが見える。
丸い体が弾丸みたいに細く伸びて、相手へ向かって突き進んでいく。
まるで走馬灯だった。
「このまま当たれ――!」
そう思った、次の瞬間。
伸びていたバルの体が、巻き戻るみたいに戻っていった。
「……何だこの現象は!?」
意味がわからない。
当たるはずだった。
当たる直前だった。
なのに、バルは進まず、元いた地点へ引き戻されるように戻っていく。
スローみたいな感覚が終わり、世界が元の速度に戻った時には、バルは地面に一度バウンドしていた。
そして次の瞬間、敵とは真逆の方向――つまり俺のいる方へ、今までとは比べ物にならない勢いで飛んできた。
「おい待てそれは――」
言い切る前に、バルという名の弾丸が俺を真正面から打ち抜いた。
視界がぐるりと回る。
骨が砕けたような衝撃。
そして、霞む意識の中で、俺は理解した。
「なるほど……」
アンカーとは、今いる地点にバルを縫い付けるスキルだったのか。
敵を止めるんじゃない。
バル自身をそこに固定する。
だから突進で前へ伸びても、限界まで行ったところで元の位置へ引き戻されたのだ。
「そういうことかよ……!」
わかったところで、もう遅い。
俺の体は消えかけていた。
負けだ。
でも、悪くなかった。
むしろ、かなり惜しかった気がする。
「いい勝負だったぜ、レグルス……!」
俺は薄れゆく視界の向こうにいるレグルスへ向かって、笑いながら言った。
「お前の勝ちだ!」
レグルスは大きく目を見開いていた。
それだけでも、チャレンジした甲斐は十分にあった気がする。
消える直前、レグルスが何か叫んでいるのが見えた。
だが、声はもう遠い。
「最後、何て言ってるんだ……?」
それを聞き取る前に、俺の視界は完全に暗転した。




