第32話 二度目のPVPが始まった
結局、あの後れいにゃとはフレンドになった。
なりたくなかった。
いや、正確に言えば、レグルスとの絡みが面倒だから避けたかった。どう考えても、あいつはれいにゃ周りでまた面倒を起こす。そこに自分から首を突っ込むのは、運が悪い俺からしてもさすがに愚策だと思う。
だが、今後も売買を手伝ってくれると言われると、断りづらい。
ミルトはまだ頼めばやってくれるかもしれない、という段階だ。そもそもこっちは最初から一割くらいの手間賃を払うつもりだった。
その点、れいにゃは手間賃はいらないと言った。
レグルスの面倒くささを差し引いても、十分釣りが来る。
「……まあ、そうなるか」
誰に言うでもなく呟いて、俺は湖の周りを歩いていた。
れいにゃと別れたあと、そのまま帰るのも何だったので、周辺の敵をバルと一緒に倒して回っているところだ。森の奥にあるこの湖周辺は、草原より敵の種類が多い。速いやつ、水辺に寄るやつ、見た目がやたら派手なやつ。戦っていてそれなりに面白い。
しかも今日は、れいにゃのおかげで良質な餌らしきものが手に入った。
さっそくバルに食わせてみたが、やっぱり違うのかもしれない。露骨にやる気がある。いつもより動きがいい気がするし、何より本人の気分がよさそうだった。
「新しい技はまだか」
俺がそう言うと、バルは少しだけ揺れた。
機嫌はいいが、まだそこまではいかないらしい。
まあ、それでも構わない。新技がなくても、着実に強くなっているのはわかる。体当たりの威力も、突進の鋭さも、最初の頃とは段違いだ。
「この調子でいけば進化も近いかもな」
そう声をかけて、次の敵を探そうとした時だった。
後ろの物陰が、ぬっと動いた。
「……ん?」
ただの影かと思った。
だが違う。
「お前かよ」
そこから出てきたのは、レグルスだった。
思わず遠い目になる。
出会わなかったんじゃない。つけられていただけか。
「やっぱ運がよかったんじゃなくて、悪かった方じゃん……」
小さく呟く。
しかも、れいにゃがいる時に出てこなかったのは、あいつに見つからないようにして俺だけを狙っていたからだろう。そこまで考えると、少しだけ冷静になった。
レグルスは俺を見るなり、いきなり怒鳴った。
「おい! 『だいぶ仲良くなれたってのは嘘だ』って言ってたのに、それが嘘だったのか!」
「いや、あの時点では本当だったんだよ」
思わず本音が出た。
実際そうだ。
あの時、れいにゃとは何の関係もなかった。だが、その後いろいろあって、結局フレンドになった。原因を辿れば、わりとレグルスのせいでもある。
だがそんなことを説明したところで、こいつが素直に聞くとは思えなかった。
レグルスも、もうそのつもりなのだろう。
言葉を返すより先に、空気が変わる。
「……またやる気か」
俺はため息をついた。
正直、同じ相手との二度目のPVPという時点で、少しだれていた。
だが、レグルスが呼び出したモンスターを見て、その気分はすぐに消えた。
「お」
今度の相手は、この前の空飛ぶやつじゃない。
固いゴーレムのようなモンスターだった。
全身が岩みたいにごつごつしていて、見た目からして硬い。鈍重そうだが、そういう相手ほど面倒なこともある。
レグルスは胸を張って言った。
「お前に負けて召喚ガチャを回したんだよ! だが今年のお年玉分をはたいたおかげで、こいつを手に入れた!」
「お年玉分って」
「こいつだけじゃないが……お前のモンスター相手なら、こいつで十分だ!」
「……」
なんだろう。
こいつ、かませ属性が濃すぎないか。
そんな感想が頭をよぎる。そういう星の下に生まれているのではないかと疑いたくなるレベルだ。
だが、新しい召喚モンスターで来てくれるならこっちとしては好都合だった。
バルの経験が積める。
「バル!」
俺は即座に指示を飛ばした。
「硬質化して突進だ!」
バルがぐっと身を固める。
そのまま一直線に飛び出した。
ゴーレムの動きは遅い。避けようとする気配はあったが、間に合わない。硬質化で威力の増した突進をまともに受けて、そのまま一撃で砕け散った。
「よし」
思わず拳を握る。
ゴーレムが消えると同時に、新しいモンスターがその場に現れた。
「次か」
この前みたいに空を飛ぶやつかと思ったが、違った。
尻尾が三つある、チーターみたいなモンスターだ。
「また新しいのか」
俺が小さく呟くと、レグルスの顔つきが変わった。
さっきまでの浮ついた感じが消えている。ゴーレムが一撃でやられたことで、ようやく本気になったらしい。
「加速しろ!」
レグルスが叫ぶ。
チーター型のモンスターが一気に駆け出した。
速い。
前の空を飛ぶ相手とはまた違う厄介さだ。地上にいるぶん届かないわけじゃないが、とにかくスピードが段違いだった。湖畔を円を描くように走り回り、残像みたいに視界を横切っていく。
「バル、突進!」
俺も命じる。
だが、追いつけない。
バルの突進は直線的で鋭いが、相手が速すぎる。狙いをつけた頃にはもうそこにいない。方向転換して追おうとしても、その差は埋まらない。
「流石にあの速さはきついか」
俺は歯を食いしばる。
俺が持って投げればどうかとも思ったが、それも厳しい。速すぎる相手に、投げて当てるのは無理だ。飛ぶ相手を落とした時みたいにはいかない。
チーター型のモンスターは走りながら隙を窺っている。
速さだけじゃない。ちゃんとこちらの様子も見ている感じだ。
「面倒だな」
思わず漏れる。
レグルスはようやく余裕を取り戻したのか、さっきよりずっと嬉しそうだった。
「どうした! 今度は投げないのかよ!」
「うるさい」
俺は短く返した。
投げたくても当たらない相手に、無駄弾を撃つ意味はない。バルの方も、それはわかっているのか、無理に飛び出さず俺の近くで構えている。
湖畔を三つ尾のチーターが走る。
バルは追いつけない。
俺が投げても当たらない。
「……さて、どうするか」
相手の速さは厄介だ。
だが、こういう相手にも突破口はあるはずだった。




