第24話 進化を目指そう
土下座したまましばらく頭を下げていると、やがて視界の端でバルが小さく動いた。
ゆっくりと顔を上げる。
丸い体は相変わらず丸いままだったが、さっきまでみたいな刺々しい空気は少しだけ薄れている気がした。
「……許してくれた、のか?」
聞いてみると、バルはわずかに上下した。
頷いた、ように見えた。
いや、気のせいかもしれない。だが、今はそう思っておきたかった。
俺はそのまま床に座り込み、改めてバルを見た。
「これからのお前の扱い、ちゃんと考えないとな」
少し前までは、正直、投げる球としてもっと磨こうくらいに思っていた。
実際、それで戦えていたし、強かった。空を飛ぶ相手にも届くし、ボスも倒せた。戦力として考えれば優秀だ。
だが、それだけで済ませていい話じゃないと、ようやくわかった。
バルが一番怒っているのは、たぶんこの球体の体そのものなんだろう。
本来なら、別の形で孵化していたのかもしれない。けれど生まれる前のトレーニング――いや、あれはもう破壊と言った方が近いか――その過程で改変されて、今の形で生まれてしまった。
そう考えると、あの時に手に入った称号も妙に納得できる。
異形を孵す者。
あれはたぶん、そういう意味だったのだ。
「……なあ、バル」
俺は慎重に言葉を選んだ。
「お前、今の体が嫌なんだよな?」
バルはじっとこっちを見ていたが、やがてまた小さく上下した。
やっぱり、そうか。
言葉そのものを完全に理解しているのか、それとも雰囲気で伝わっているだけなのかはわからない。だが少なくとも、俺の考えは大きく外れてはいないらしい。
「となると、方針を変えた方がいいな……」
俺は考える。
モンスターなら、進化とか変態とか、そういう要素があるんじゃないか。ランクアップで姿形が変わるとか、そういうのはゲームではよくある話だ。
ちょうどここには、ガルディーノたちがいる。
地元の事情にも詳しそうだし、変に隠して聞く必要もないだろう。
「ガルディーノ」
俺が呼ぶと、ガルディーノは少し意外そうに眉を動かした。
「何だ?」
「モンスターって、進化するのか?」
その問いに、ガルディーノはあっさり頷いた。
「進化自体はある」
腕を組んだまま、低い声が続く。
「大抵はランクが上がる時に姿形が変わることが多いな。基本的に、モンスターが望む形に近い方向へ変わることが多い。だから可能性は大いにあるだろうよ」
「ランクを上げるには?」
「色んなモンスターを倒して経験を積むことだな。戦って、自分を高めていく。そのうち自然と上がるはずだ」
「なるほど」
すっと腑に落ちた。
つまり、やることは単純だ。
バルを連れて、色んなモンスターがいる場所へ行く。戦う。倒す。経験を積む。そうしてランクを上げる。
もし本当に進化で姿が変わるなら、それが一番の近道になる。
しかも、それは俺の目的とも一致している。俺だって強くなりたいし、もっと先へ進みたい。そのために色んな敵と戦うのは、もともと望むところだ。
俺は改めてバルへ向き直った。
「バル、今のを聞いてどうだ?」
バルはじっとしている。
「とりあえず、強くなること。ランクが上がること。それ自体は俺の目的にも合ってる。だから、いろんなところに行って戦うのは望むところだ」
少し息を吸って、それから続ける。
「お前さえよければ、これからはいろんな敵と戦って、進化を目指すって方針でいかないか?」
一瞬の間。
それから、バルは大きく上下した。
「おお」
今度ははっきりわかった。
頷いたのだ。
だったら、もう迷う必要はない。
「よし。じゃあこれからはその方針で行く」
俺は手を差し出した。
「今まで悪かったな、バル。だけど、これからはお前を進化させるように頑張る。だから、力を貸してくれないか?」
バルは少しだけその場で揺れたあと、ゆっくりとこちらへ寄ってきた。
そして、そのまま俺の差し出した手の中に収まった。
今までみたいに、投げられるためでも、怒ってぶつかるためでもなく。
ただ、自然に。
それが少しだけ、嬉しかった。




