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第22話 ガルディーノと和解

 宿にて俺はバルと向き合った。


「さすがにあれはないだろ」


 言っても、バルはいつものように丸いままだった。


 地下へ案内されて、いかにも戦いが始まる流れだった。敵も前に出てきた。こっちもそのつもりで構えた。なのに、開幕で俺に突っ込んでくるのは違うだろう。


「雰囲気ってものがあるんだよ、雰囲気ってものが」


 そう言っても、やっぱりバルはあまり聞いていなさそうだった。


 まあ、今さらか。


 わかっている。わかっているが、言いたくはなる。


 一戦目は負けた。


 戦って負けたならまだいい。実力が足りなかったとか、相手が強かったとか、そういう納得の仕方もある。


 でも今回は違う。


 自滅だ。


 しかも相手から見れば、開幕で自分のモンスターに轢かれて消えたやつである。やるせないにもほどがある。


「……行くか」


 ため息をついて、俺は立ち上がった。


 たぶんまだイベントは続いている。


 ああいう流れで始まった以上、一回やられたくらいで全部終わるとは思えない。だったら戻るしかない。


 幸い、人通りの少ないあたりまではすぐに戻ってこられた。


 だが、そこから先がわからない。


「どっちだっけ……」


 さっきは財布を持って、逃げたジーノを追いかけるのに必死だった。曲がり角をいくつも抜けて、雰囲気の悪い路地を進んで、気づけばあの建物に着いていた。


 だが今は、逆だ。


 わかっているようで、道筋を覚えていない。


「しょうがないか」


 俺は少し離れたところで、こちらから露骨に目を逸らしているチンピラを見つけた。


 逃げる気満々だ。


「おい」


 声をかけると、男の肩がびくりと震えた。


「ひっ」


「ガルディーノのところまで案内してくれ」


 言うなり、男の顔が真っ青になる。


 だが、無視して逃げる勇気もないらしい。こくこくと何度も頷いて、そのままおっかなびっくり歩き出した。


 俺はその後ろをついていく。


「……何だろうな」


 歩きながら、ふと思う。


「今日の中で一番悪いことをしている気がする」


 財布を拾った。

 届けに行った。

 勘違いで地下に連れていかれた。

 そこでバルに轢かれて終わった。


 ここまでは、まあ被害者寄りだったと思う。


 だが今は違う。


 びびっているチンピラを捕まえて、案内させている。


 どう考えても絵面が悪い。


 しかも向こうは終始、振り返りもせずにぷるぷる震えていた。俺が何か言うたびに肩が跳ねる。そんなに怖いのか。


 ……怖いんだろうな。


 評判が終わっている自覚はある。


 そうして案内させた先に、あの建物はちゃんとあった。


「よし」


 俺は案内役の男を解放した。


 するとそいつは、俺が礼を言う間もなく泣きながら一目散に逃げていった。


「いや、まあ、そうなるか」


 少しだけ傷ついたが、今はそれどころじゃない。


 俺はそのまま建物の中へ入った。


 また囲まれるのかと思ったが、そうはならなかった。通されたのは前と同じ、ソファーのある部屋だ。いかにも事務所らしい空気は変わっていない。


 一瞬、イベントのやり直しかと思った。


 またここから、狂人だの何だのと言われて、地下に案内されるのかと。


 だが、雰囲気が違った。


「……ん?」


 さっきはいなかったジーノがいた。


 しかも、殴られたような顔でガルディーノの横に座っている。


 何が起きたのかと思った次の瞬間、ジーノが勢いよく立ち上がった。


 そしてそのまま、土下座した。


「すみませんでした!」


「……は?」


 あまりに予想外で、間の抜けた声が出た。


 さっきまで財布を押しつけて逃げたやつが、今度は床に額をこすりつけて謝っている。意味がわからない。


 ガルディーノが腕を組んだまま、低い声で言った。


「勘違いだったらしい」


「勘違い?」


 何がだ。


 そう思ったが、話を聞いてようやく整理がついた。


 ジーノはあの財布を上納したのだという。だから、戻ってきた時に「財布は落としていない」と言った。つまりガルディーノたちは、俺がどこかでジーノの財布を奪って、それを口実にここへ来たと受け取ったらしい。


「……ああ」


 なるほど。


 そう考えると、確かにあの場の流れは全部繋がる。


 向こうからすれば、財布を持って突然現れた狂人だ。しかもジーノ本人は財布を落としていないと言っている。なら、因縁をつけに来たとか、そういう方向に考えるのも無理はないのかもしれない。


 いや、無理はある気もするが。


 とにかく、俺が善意で財布を届けに来ただけだということは向こうにも伝わったらしい。


 そして同時に、俺の方も、向こうが俺をはめたのだと勘違いして戦いを挑んだことになる。


「……」


 何とも言えない空気になった。


 いや、本当に何とも言えない。


 俺は財布を届けに来ただけ。

 向こうはそれを奪ったと勘違い。

 俺は向こうがはめたのだと勘違い。

 その結果、地下でやり合う流れになり、しかも俺は開幕で自分のモンスターに轢かれて死んだ。


 全部並べると、ひどい。


 ひどすぎる。


 いたたまれない、とはたぶんこういう時に使う言葉なんだろうなと、妙に冷静な頭で思った。


「……ひとつ、提案があるんだが」


 俺はガルディーノを見た。


 ガルディーノもこっちを見返す。


「俺たちは今ここで初めて会った。俺は単に、落とし物の財布を届けに来ただけ……ってことでどう?」


 沈黙が落ちた。


 ジーノは土下座したまま固まり、周囲の男たちも口を閉ざしている。


 やがて、ガルディーノがふっと息を吐いた。


「ああ、そうしよう」


 拍子抜けするくらい、あっさりした返答だった。


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