第21話 狂人と呼ばれる理由がようやくわかった
地下へ続く階段を下りながら、ガルディーノが低い声で言った。
「俺らは確かに日陰者だ……でもな、仁義は通してきたつもりだ。それを力で潰されるっていうなら、抗うだけのことだ」
言っている意味は、正直よくわからなかった。
だが、わからないなりに納得はした。
要するに、俺のことが目障りになったのだろう。狂人だの何だの、変な二つ名までついているらしいし、そんなネームバリューが広まって厄介だと思われたのかもしれない。
まあ、理由なんてどうでもいい。
向こうがかかってくるなら、倒すだけだ。
負けたとしても、こっちは加護持ちだ。死んだら戻る。また挑めばいい。そういう意味では、気楽なものだった。
階段を下り切った先は、かなり広い空間になっていた。
「……広いな」
思わず呟く。
戦うには十分すぎる広さだ。壁は薄暗く、空気もどこか淀んでいる。地面には古い染みがいくつも残っていて、見たくなくても血の跡に見えた。
どういう使い方をしているのか、あまり想像したくない場所だった。
「ここでやるんだろ?」
俺がそう言うと、ガルディーノは笑いもしないで前へ出た。
そのまま相手をするのかと思ったが、違った。
最初に出てきたのは、部下らしい男だった。
「いきなりボスの首は取れねぇよ」
にやりと笑って、そいつが言う。
「まずは前座ってことだ」
「別に問題ない」
俺は肩を鳴らした。
「全部倒せばいいだけだからな。前哨戦だ!」
むしろわかりやすい。
一人ずつ出てくるなら、その分だけ潰していけばいいだけだ。
相手のモンスターが前に出る。
少し大きめのサイみたいなやつだった。
皮膚は厚そうだし、突進も強そうだが、ダンジョンのボスモンスターほどの威圧感ではない。
「あれくらいなら、いけるな」
俺はバルを見る。
バルも、ここぞという空気を感じているのか、いつもより少しだけ気合が入っている気がした。
「バル、頼んだぞ!」
俺は熱の入った声で叫ぶ。
「最初っから全力だ! 丸くなって、硬質化して、突進だ!」
バルがぐっと丸まり、さらに硬質化する。
よし、そのまま相手に突っ込め。
そう思った次の瞬間だった。
バルは一直線に飛び出した。
そして、敵ではなく――俺に一撃をぶちかました。
「は?」
意味がわからなかった。
いや、わかる。わかるんだが、わかりたくない。
思い返せば、最近ちょっとバルが素直だった。ミルトと組んでいた時も、ボス戦の時も、割と協力的だった。だから油断した。ここに来て、雰囲気に飲まれて、目の前の敵ばかり見ていた。
そのせいで、一番警戒すべき相手への注意が抜けていた。
バルの体当たりをまともに食らった俺は、そのまま壁まで吹っ飛ばされた。
激突。
衝撃。
そして視界が霞む。
「っ、しまっ――」
言い切る前に、俺の体はそのまま消えていった。
最後に聞こえたのは、敵陣営のざわめきだった。
「流石狂人……」
「いや、そういう……」
そんな声が耳に届く。
ああ、なるほど。
狂人って、これのことか。
ようやく理解した。
次に目を開けた時、俺は見慣れた宿のベッドの上にいた。
「……やっちまった」
天井を見上げながら、深くため息をつく。
完全に油断だった。
敵との戦いが始まると思って、肝心のバルへの警戒を忘れていた。
相手からすれば、開幕早々、自分のモンスターに轢かれて消えたやつだ。そりゃ狂人扱いもされる。
「いや、でも違うんだよな……」
違わない気もするが、違うと言いたい。
少なくとも俺の中では、ちゃんと勝つつもりだったのだ。
ただ、いつもの確認を忘れただけで。
「……よし」
俺は体を起こした。
負けたわけじゃない。
やられたのは俺の油断だ。なら次はない。同じミスをしなければいいだけだ。
バルを見る。
つかず離れずの位置で、いつものように丸く収まっていた。
「お前なぁ……」
文句はある。
あるが、今はそれどころじゃない。
「次はちゃんと警戒する」
そう呟いて、俺は再挑戦のために立ち上がった。




