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第19話 落とし物の財布を届けるだけのはずだった

 評判をどうにか上げる方法はないものか。


 そんなことを考えながら、俺は少し離れた場所にいるチンピラっぽい男たちを見ていた。


 さっきまでは何やら揉めていたはずなのに、こっちが見ているのに気づいた途端、そいつらは何事もなかったみたいに口を閉ざした。


 見た目だけなら、いかにも悪そうだ。こういうやつらを懲らしめたら評判が上がる、みたいな展開はゲームでは定番である。だが、この前お悩み相談室で散々言われたばかりだ。見た目がそれっぽいからといって、勝手にバルをぶつけたら普通に犯罪の可能性がある。


 だから今は見ているだけだ。


 見て、判断材料を探している。


 すると、その中の一人がやたらとおどおどした様子でこちらに近づいてきた。


「……ん?」


 俺が首を傾げた次の瞬間、男は震える手で財布を差し出してきた。


「こ、これで勘弁してください!」


「……は?」


 あっけに取られた。


 いや待て。


 俺は別にカツアゲをしようなんて一言も言っていない。むしろ逆だ。目の前のチンピラをやっつけて善行を積めないものか、と考えていた最中である。だいぶ失礼ではなかろうか。


 だが、ここでふと気づく。


 いや、逆にこれはチャンスか?


 どうしてここまで恐れられているのか、直接聞けるかもしれない。


 俺はなるべく穏やかな顔を作った。


「財布はとりあえずしまってください」


 男の肩がびくりと跳ねる。


「別にカツアゲしようと思ったわけじゃないです。少し話を聞かせてもらえますか?」


 これで大丈夫だろう。


 普通に考えれば、誤解が解けて落ち着いてくれるはずだ。


 だが、チンピラは俺の言葉を聞いたあと、なぜかさらに顔を青くした。


「わ、わかっています!」


「いや、何が」


「この財布はここに落とします! 差し上げたわけではありません! 財布を落としてしまったんです! そのあと探すつもりもありません!」


 そう言うなり、そいつは財布を地面に落とし、足早に――いや、ほとんど逃げるように走り去っていった。


「そうじゃない!」


 思わず叫びそうになった。


 いや、本当にそうじゃない。


 だが、ここで大声で否定したら、たぶんますます誤解が深まる気がした。やめておく。今の俺はただでさえ評判が悪いのだ。ここで「そういうことじゃない!」なんて叫んだら、余計に財布絡みで揉めている危ないやつにしか見えない。


 最悪だ。


 俺は地面に落ちた財布を拾い上げた。


「……どうすんだよ、これ」


 見なかったことにして置いていくのも後味が悪い。


 いや、そもそも今の流れ自体が後味最悪なんだが。


「これがサブクエストだとでもいうのか?」


 ぽつりと呟く。


 落とし物の財布を届けろ、とか。そういう感じの。


 ……いや違うだろう。


 たぶん違う。たぶん違うが、結果としてやることはそれに近い。あの男に返すしかない。


 俺は逃げていったチンピラの後を追って走り出した。


 見失わないように。


 曲がり角をひとつ、ふたつ。道はだんだん入り組んでいく。普通の住民がいる場所とは違って、このあたりは空気が妙に薄暗い。建物も少しくたびれて見える。


「……なんか、どんどんドツボにはまってないか?」


 嫌な予感しかしない。


 普通に今日も別のダンジョンにでも行っていた方が、よほど平和だった気がする。


 だが、ここまで来たら引き返すのも半端だ。


 やがて、逃げた男がひとつの建物へ入っていくのが見えた。


「よし、追いつ――」


 そこまで言いかけて、俺は足を止めた。


 建物の前には、屈強な男が立っていた。


 でかい。


 普通にでかい。


 見た目からして、さっきのチンピラとは格が違う。門番とか用心棒とか、そういう類の圧がある。


「……何だろうな」


 俺は財布を持ったまま、小さく呟いた。


「どんどん面倒な方向に進んでる気がする」


 バルはいつものように、つかず離れずの距離で丸く収まっていた。


 気楽そうでいい。


 俺はひとつ息を吐いてから、目の前の屈強な男を見上げた。


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