第18話 評判が悪すぎて依頼どころじゃなかった
ログインしたての宿屋を出たところで、またレグルスを見かけた。
「……またお前か」
三日連続。
ここまでくると、本当に運命の相手なのではないかと一瞬だけ馬鹿な考えが頭をよぎる。
いやいやいや、ないないない。
相手は男だし、こっちにその気は一ミリもない。そんな運命、いらない。
俺は気づかれないようにそっと視線を切り、いつもとは別方向へ歩き出した。
これで会っていない。
よし、レグルスが運命の相手ルートは回避だ。
まあ、同じ時間帯にいるってことは、単に同じく学生なのかもしれない。もしかしたら近い地域に住んでいる可能性すらある。
……だから何だという話だが。
調べたい気持ちは本当に一ミリもなかった。
見慣れない道を歩きながら、今日は何をするか考える。
せっかくいつもと違う道を取っているのだ。このまま何の目的もなくぶらつくのも悪くないかもしれない。
そこでふと気づく。
「……よく考えたら、これまで戦闘関連しか触ってなくないか?」
トレーニング施設と草原、あとはダンジョン。
やっていることはずっと戦って育てて、たまに轢かれて死に戻る、そればかりだ。
ミルトみたいに生産職、というのは基本的に運の面で厳しそうだが、別にゲームの楽しみ方は戦闘だけじゃないだろう。
「サブクエストとか、そういうの探してみるか」
誰かから依頼を受けて、お使いをしたり、探索したり。
そういう定番も、たぶんこのゲームにはあるはずだ。
俺はそのまま道なりに進み、片っ端から人に話しかけていった。
「こんにちは」
苦笑いされた。
次の家の前にいた人にも話しかける。
「何か困りごととか――」
途中で切り上げられて、家の中へ入られた。
「え?」
別の人にも話しかける。
目が合った瞬間、すっと逸らされる。そのまま何でもないふりをして去っていく。
「……なんでだ?」
明らかに避けられている。
しかも、トレーニング施設にいた連中よりも反応が露骨だった。あっちは嫌そうではあっても、一応会話には応じていた。だがこっちは、話しかけた瞬間に逃げるように家へ入っていくやつまでいる。
「なんでだ!? 俺はまだ一度も人を殺してないぞ!?」
思わず心の中で叫ぶ。
いや、人を殺していないという言い方もどうなんだとは思うが、少なくともこの世界の人間にモンスターをけしかけて殺したことはない。お悩み相談室でその辺の説教も受けたし、もうそこはわかっている。
なのにこの扱いはひどくないか。
俺が道を進むにつれ、人通りはどんどん少なくなっていった。
さっきまでいたような普通の住民っぽい人影も減り、代わりに少し雰囲気の違う連中が増えてくる。目つきが悪かったり、服装が荒れていたり、いかにも脛に傷がありそうな感じのやつらだ。
「……あー」
ここまで来て、ようやく何となくわかった。
たぶん、取得した称号とか、トレーニング施設でのこととか、その辺が広まっているのだ。
卵を暖炉に入れたり、水に沈めたり、転がしたり、投げたり。
今振り返ってもだいぶひどい。
俺の中では孵化のための試行錯誤だったが、外から見たら完全に危険人物だ。そこへさらに、意味深な称号まで増えている。
「評判、終わってる感じか……?」
チンピラっぽい連中ですら、こっちと目を合わせないようにしている。
これは相当だ。
普通なら絡んできそうな見た目のやつまで避けるって、もはやどういう扱いなんだよ。
「時間を置いたら緩和されるのか?」
わからない。
だが、ここまで露骨に避けられると、依頼探しどころではない。頼みごとをされるどころか、関わりたくない空気がびしびし伝わってくる。
俺は小さく息を吐いた。
せっかく戦闘以外のことをしようと思ったのに、いきなり出鼻をくじかれた形だ。
横を見ると、バルはいつものように丸かった。
こいつは気楽でいい。
いや、元凶の一端はお前にもある気がするんだけどな。
「……いっそ、この辺のチンピラをやっつけたら評判上がったりしないかな」
ぽつりと呟く。
実際どうなんだろう。
悪そうなやつを倒して感謝される、みたいな展開はゲームではよくある。むしろ定番だ。
そう考えると、ここにいる連中はいかにもそれっぽい。
ただ問題は、こいつらが本当に倒していい相手なのかどうかだ。
この前、お悩み相談室で散々言われたばかりである。この世界の普通の人間にモンスターをけしかけたら犯罪だ。見た目がチンピラだからといって、勝手にやったらまずい可能性は十分ある。
「……駄目だな。見た目だけで判断するのは危ない」
さすがに学んだ。
前だって、秘密のダンジョンだと思って入った先で、お悩み相談室のクラリス相手に先手必勝とかやらかしたばかりだ。もうあれは勘弁してほしい。
俺がそんなことを考えながら歩いていると、不意に奥の方から怒鳴り声が聞こえた。
喧嘩か。
それとも脅し合いか。
少なくとも、穏やかな空気ではない。
道の先、建物の影になったあたりで何か揉めているらしい。
「……どうするかな」
わざわざ首を突っ込む理由はない。
ないのだが、ここまで来て何もせず帰るのも、それはそれでもったいない気がする。
何より、依頼を探している最中だ。こういう揉め事の現場に近づいたらイベントが始まる、というのもよくある流れではある。
俺は少しだけ考えたあと、そっと物陰から先を窺うことにした。




