第17話 初めてのフレンドができたので帰りは轢かれて時短した
鉱床の前に着くと、ミルトはすぐに自分のモンスターへ採掘を指示した。
どうやらこれで採掘から生産系のスキルが解放されるらしい。細工、武器、防具。そういった派生先へ進めるようになって、そこから本格的に生産職として伸ばしていけるのだという。
「なるほどな」
生産職に進む予定はない。
ないが、やって損があるわけでもないだろう。
「バル、お前も採掘だ」
俺もバルへ指示を出した。
ミルトのモンスターも、バルも、鉱床を相手にこつこつと作業を始める。だが、見ていると採掘自体はそこまで早くない。
それに、ミルトと違って俺は楽ができない。
あいつのモンスターは素直に掘っているが、うちのバルは違う。目を離した瞬間に何をするかわからない。採掘中だからといって油断できる相手じゃないのだ。
「……いや、待てよ」
俺は鉱床とバルを見比べた。
丸い。
硬い。
そして今のバルには、丸くなると硬質化がある。
「これ、丸くなって硬質化してから鉱床に投げつけた方が、もっと早くたくさん採掘できるんじゃないか?」
思いついた瞬間、かなりいい案に思えた。
採掘用の道具が必要なら、道具そのものになればいい。そういう発想だ。むしろ合理的ではないだろうか。
俺がその案を口にすると、ミルトは明らかに引いた顔をした。
「……え?」
「いや、だから、丸くなって硬質化してから投げるんだよ。絶対その方が効率いいだろ」
「いや、その……」
ミルトは言葉に詰まっていた。
なぜだろう。
すごくいい考えだと思ったんだが。
もしかして、投げた後にバル自身が鉱床へ埋まって取り出せなくなるとか、そういう心配だろうか。確かにそれは少し困る。困るが、それでも試す価値はある気がする。
「まあ、今は普通に掘るか」
そこまで全力で止められたわけでもないが、さすがにミルトの反応を見ると今ここで実行するのはやめておいた。
その後も少しずつ採掘を続け、やがて成果が出る。
俺の手に入ったのは屑鉄だった。
「……まあ、そうだよな」
予想通りではある。
採掘したところで、どうせ出るのはそんなもんだろうと思っていた。むしろ想定内すぎて、落ち込みすらしない。
だが、成果自体はちゃんとあった。
ミルトも俺も、生産系のスキルを進められるようになったのだ。これで当面の目標は達成である。
「目的は達成、だな」
「はい」
ミルトは嬉しそうだった。
この後も鉱石などを採掘していくらしい。生産職志望なのだから当然だろう。
だが、俺は特にその予定はない。
採掘しても、どうせ屑鉄ばかりだろうしな。
「俺は戻るか」
そう言うと、ミルトは少し迷ったあと、こちらを見た。
「あの……よかったら、フレンド登録しませんか」
「お」
それはありがたい話だった。
当初考えていた、生産職との縁づくり。どうやらそれは成功したらしい。こっちから言い出すより、向こうから申し出てくれる方がだいぶ嬉しい。
「もちろん」
俺はすぐに頷いた。
フレンド登録が完了した、その直後だった。
「……え?」
ミルトの動きがぴたりと止まる。
どうしたんだと思っていると、ミルトは少し引きつった顔のまま、どこか遠いものを見るような目で固まっていた。
「……ミルト?」
「あ、いえ、その……」
呼びかけると、ミルトはぎこちなくこちらへ視線を戻した。
「今、称号が……」
「称号?」
「『狂人の友達』って出たんですけど……」
そんなものがあるのか。
いや、あるのか。あるんだろうな。今出たなら。
ミルトはまだ少し複雑そうな顔をしていたが、小さく首を振った。
「……でも、助けてもらったのは本当ですし」
フレンド登録そのものを取り消すつもりはないらしい。よかった。称号の名前はともかく、関係が切られなかっただけ十分である。
最初のダンジョン探索としては、かなりの成功ではなかろうか。
初めての同行者ができた。
ボスも倒した。
鉱床にもたどり着いた。
生産系の縁もつながった。
なんだかんだ言って、バルも大活躍だったしな。ボスを一撃で倒すだけの強い攻撃力も得た。
……相談室のダンジョンについては、まあ、忘れることにする。
あれはノーカウントだ。俺の中ではそういうことになっている。
「じゃあ、またな」
ミルトと別れ、俺は意気揚々とバルの方を見た。
「バル」
バルもこちらを見た。
「突進だ」
帰り道をまともに歩くのは面倒だ。
今のリスポーン地点はダンジョン前。だったら、ここで轢かれればダンジョンの入口前まで一気に戻れる。街までは戻れないが、鉱床からボス部屋を抜けて長い通路を戻る手間がなくなるだけでも十分だ。
俺がそう判断した次の瞬間、バルは迷いなく突っ込んできた。
視界が暗転する。
そして次に目を開けた時、俺はダンジョン前のリスポーン地点に立っていた。
「よし、帰還完了」
思った通りだ。
街まではまだ歩く必要がある。だが、あの奥からここまで一瞬で戻れたなら上等だろう。
帰り道短縮としては十分成功だ。
バルはいつものように、つかず離れずの距離にいた。
俺はそんな相棒を見て、小さく肩をすくめる。
「次からも、戻りが面倒な時はこれでいいかもな」
そう呟いてから、俺は街へ向かって歩き出した。
ダンジョンの攻略自体は成功だ。
初めての同行者もできたし、ミルトともフレンド登録できた。悪くない一日だった。
そうして俺は、今度こそ本当にその日のゲームを終えた。




