第16話 今度こそ、鉱床の前までたどり着いた
俺がリスポーン地点に戻って最初にしたのは、ミルトへ謝ることだった。
「悪かった!」
姿を見つけるなり、俺は頭を下げた。
一緒に行く前に、ミルトにははっきり言ったのだ。バルがお前を攻撃することはない、と。なのに最後の最後で、ああなった。
どう考えても俺が悪い。
いや、実際に悪いのはバルだが、持ち主は俺だからな!
責任はこっちにある。
横でバルが妙に楽しそうな気配を出していたが、今は無視だ。お前はあとで覚えてろ。
ミルトは少し驚いた顔をしたあと、すぐに困ったように笑った。
「い、いえ……わざとじゃないのはわかってますし」
「でも攻撃されたのは事実だろ」
「まあ、はい。でも……ボスを倒せたのは、君のおかげですしね」
そこまで言ってから、ミルトは少しだけ視線を逸らした。
「鉱床には行けてないですけど」
「あ」
そうだった。
ボスは倒した。だが、その直後に巻き込み事故が起きて、結局その先へは進めていない。
「もちろんもう一回行くぞ」
俺はすぐに言った。
「今度こそ鉱床まで行く」
ミルトは少しだけ目を丸くして、それから小さく頷いた。
「……ありがとうございます」
よかった。
正直、もっと怒られてもおかしくないと思っていた。むしろ、ここで見限られても仕方ないくらいだ。だが、ミルトは思った以上に心が広かった。
少し笑ってすらいたので、そこまで悪い感じではないのかもしれない。
……本心まではわからないが。
「よし、じゃあ行くか」
俺たちは再びダンジョンへ入った。
一度通った道だ。さっきよりもずっと早い。
敵が出ても慌てず対処できるし、道順も頭に入っている。するすると進んで、あっという間にボス部屋の前まで戻ってきた。
「ここまでは順調だな」
俺がそう言うと、ミルトも頷いた。
「はい。さっきよりだいぶ楽です」
そこで俺は、改めてバルの成長を確認した。
すると、見慣れないスキルが増えている。
「……硬質化?」
思わず声に出す。
なるほど。前回のボス戦で成長した結果らしい。
説明を見る限り、さらに硬くなるスキルのようだった。
「これはいいな」
前回は丸くなるだけでも十分役に立った。防御が上がったし、何より最後の投擲に耐えられた。なら、その上位っぽい硬質化が弱いわけがない。
俺はボス部屋の扉の前で、バルへ声をかけた。
「バル。丸くなって、新しく覚えた硬質化を使ってくれ」
今回は特に抵抗もなく、バルは素直に言うことを聞いた。
いつもなら少しくらいは不満そうな気配を出すのに、それが薄い。
……たぶん、前回ミルトまで攻撃したのを気にしているんだろう。
そういうことにしておく。
丸くなり、さらに硬質化したバルを右手に持つ。
前回以上に、手に伝わる感触が重く、硬い。
「よし」
俺はミルトを見る。
「前回と同じでいくぞ」
「はい。ダストミストですね」
準備はできた。
俺たちは頷き合い、扉を開けた。
中には、前と同じ巨大なトカゲがいた。
だが、今度はこっちも準備済みだ。
「ダストミスト!」
ミルトのモンスターがすぐに動く。
土埃の霧が広がり、ボスの目を潰す。巨大トカゲがまた大粒の涙を流しながら暴れ始めた。
前回と同じ展開。
だが、問題はここからだった。
前回はこちらへ向かってきた時、うまく目を貫いて倒せた。あれは理想的だったが、正直なところ、何度も同じことができる自信はなかった。
狙ってやるには難しい。
だが――
「今回は、目じゃなくてもいい」
俺は硬質化したバルを握り直した。
これだけ硬いなら、どこに当てても貫けるはずだ。
巨大トカゲは涙で暴れながら、少しずつこちらへ向かってくる。壁にぶつかり、床を削り、無茶苦茶に暴れているが、さっきより動きが鈍い。
今だ。
俺は大きく踏み込み、全力でバルを投げつけた。
「行けぇっ!」
一直線だった。
硬質化したバルは、前回以上の勢いで飛び、巨大トカゲの体へ突き刺さる。
目じゃない。
それでも、十分だった。
鈍い衝撃とともにボスの体がぐらりと揺れ、そのまま崩れ落ちる。
消える。
撃破だ。
「よしっ!」
思わず拳を握る。
今度こそ倒した。
しかも、今回はまだ終わっていない。
俺はすぐに周囲へ意識を向けたが、バルは突進してこなかった。
さっきの失敗を覚えているのか、それとも今はそれどころではないのか。理由はともかく、今は助かる。
「行けるな!」
「はい!」
俺たちはそのままボス部屋の奥へ進んだ。
そして俺は、用心のためにずっとバルを右手に確保したままだった。
一応問題ないだろうとは思う。思うが、ここでまたリスポーン地点に戻されたら目も当てられない。せっかくボスを倒したのに、また入口からやり直しなんて冗談じゃない。
だから、ずっと持っておく。
右手にしっかり確保していれば、問題なんて起こるはずがない。
たぶん。
いや、きっと。
そうして進んだ先に、ようやく鉱床が見えた。
「……あれか」
洞窟の奥に、明らかに周囲とは違う岩肌がある。
ミルトの目が、わかりやすく輝いた。
「はい。あれです」
その声は、今までで一番弾んでいた。




