第141話 ラザロとヴィンセント
北東には、俺とバルがいた。
今日はログインしてから、まだまともに戦っていない。そのせいか、バルはやる気十分の状態だった。
空を飛ぶ新しい自分へ進化する。
そういう明確な目標があるから、この戦いもそこに近づくための一歩だと思っているのだろう。俺は周囲を見渡しながら、敵が来るのを待っていた。
やがて、こちらにやってきたNPCの姿が見えた。
ただし、予想とは少し違う。
現れたのは、ラザロとヴィンセントの二人だけだった。
「二人で俺たちに勝てると思っているのか? 前に戦った時より強いぜ?」
「……ああ、わかってるさ。加護持ちの理不尽さにはね」
ラザロとヴィンセントが出しているモンスターは、見た目で言うと細身で、耐久力がなさそうなタイプだった。
今のバルなら、ハードバレットであれば一撃は確実だろう。場合によっては、アンカーチャージだけでも倒せるのではないかと思える見た目だ。
これまでの戦いで経験的に感じたことだが、敵の強さはある程度見た目にも反映されているように思う。大きな敵は耐久力が高く、細身の敵は防御力が低い。もちろん例外はあるだろうが、そこまで外れてはいないはずだ。
「あんたが強いのはわかってる。だからこそ、俺とヴィンセントの二人で来た。他の奴らには覚悟が足りねぇからな」
ラザロとヴィンセントの顔は真剣だった。
それこそ、命を賭けるような面持ちだ。
「悪いけど、覚悟があったからと言って手を抜くような真似はしないぞ? 全員で向かってきた方がよかったんじゃないか? それなら数の暴力で、流石に負ける可能性の方が高かったと思うが」
「数は揃えるさ。それまでの時間を、俺たちが稼ぐだけの話だ」
どうやら、相手は耐えるつもりらしい。
ラザロとヴィンセントが俺を足止めし、その間に他のNPCが他のプレイヤーを倒して合流する。そういう考えだろう。
だが、俺以外のプレイヤーもかなり強い。そう簡単にやられるようには思えない。
まあ、プレイヤーを直接狙ってくるということを考えると、ころっと倒されてしまってもおかしくはないが。
「なら、その前提であるお前たちを速攻で倒して、俺が他のやつらに加勢しに行くことにする。バル! アン――」
アンカーチャージでラザロのモンスターを狙おうと指示を出す。
だが、その途中で、ラザロとヴィンセントがいきなり自身のモンスターの前に出てきた。
そのまま最後まで指示していたら、アンカーチャージがラザロに当たっていた。
NPCを殺してしまうところだった。
「……何のつもりだ?」
「見ての通りだ、ボス! 俺とヴィンセントは、必ず自身のモンスターとあんたのモンスターの間に立つ! 俺たちの覚悟の意味はわかるよな!!」
自身の命を盾にしてまで、この戦いに勝ちたいのか。
くそっ。
厄介すぎるだろ。
「まさか、他の奴らの戦いが終わるまで睨み合って時間を潰す気か?」
「それもいいかもしれねぇが、もっといい方法がある。あんたのモンスターはいまだに遠くから攻撃する手段はないんだろ?」
そう言うと、ラザロとヴィンセントはモンスターに指示を飛ばした。
目の前に立つ自分たちには当たらないように、曲線を描く遠距離攻撃で俺を狙ってくる。
「こっちは文字通り命を賭けてるんだ! そんな覚悟もないお前は早く倒れろ!」
ヴィンセントの声と同時に、攻撃が飛んでくる。
俺は一部の攻撃をバルを盾にしながら避けた。
避けること自体はできる。
だが、反撃までは移れない。
自慢のアンカーチャージも、目の前にNPCが立っていては邪魔で撃てない。
「……もう面倒だからと言って、そのままお前らを直接狙うとは思わないのか?」
攻撃を避け続けながら、どうにか突破口を開こうと語りかける。
「絶対に狙ってこないとは思ってねぇよ。だからこそ、命を賭けてここに俺たちは立っている」
「それに、もし狙って俺たちを殺したなら、その時はもう俺たちと同じになるからかまわん」
くっ。
覚悟が決まってやがる。
口でどうにかするのは難しいか。
そうして、二人からの攻撃を避け続けること数分。
いまだに俺は、ラザロたちにまともなダメージを与えられていなかった。
とはいえ、俺自身もただ逃げ回っているだけではない。
これまでバルからの攻撃を避け続け、最初にラザロファミリーと戦った時も避けて避けて粘っていた。その経験のせいか、俺の回避力はかなり上がっている。加えて、称号で身体能力も向上しており、相手が二人だけということもあって、今の俺にとって二体のモンスターからの攻撃を避け続けるのは難しくなかった。
「いい加減、当たって諦めてくれませんかねぇ?」
あまりにも攻撃が当たらないせいか、ラザロたちの顔色にも焦りが見え始めていた。
その焦りを見て、俺の中にも少しだけ余裕が生まれる。
どうすれば攻略できるか。
バルに周囲を走らせ、出の遅いアンカーチャージではなく突進を指示すれば、幾度か削ることはできた。
だが、ラザロとヴィンセントのモンスターは、遠距離攻撃だけでなく回復スキルも持っている。完全に耐久するためのモンスターだということはわかった。
一撃で粉砕する力が欲しい。
だが、アンカーチャージを使おうとすると、ラザロたちは急いでモンスターの前へ移動する。
やはり難しい。
そう考えていると、相手のモンスターの攻撃が少し変化した。
攻撃が、上から降ってきたのだ。
「ちっ! とっておきが躱された!」
あっぶねぇ。
当たるところだった。
今後は上も警戒する必要がある。これは少し危ないか。
……いや、上だと?
「バル! ジャンプして、空中に向かって軽めのアンカーチャージだ!」
バルが跳ねる。
俺はアンカーチャージと同時にバルを掴み、一緒に空へ逃げた。
ラザロとヴィンセントは、俺たちが上へ逃げたことで一瞬だけ反応が遅れた。
このまま俺が他の場所へ加勢に向かうと思ったのかもしれない。実際、俺を足止めする作戦である以上、俺がこの場を離れるのはラザロたちにとって一番困るはずだ。
だが、俺の狙いは逃げることではない。
空中から見下ろせば、ラザロとヴィンセントの位置も、その奥にいるモンスターの位置もよく見える。
地上から狙えば、二人が身を投げ出して止めてくる。
だが、上からなら話は別だ。
俺が狙うのは、ラザロでもヴィンセントでもない。
「バル、今だ!」
頭上から、相手モンスター目掛けてバルが落ちるように突っ込んだ。
一撃だった。
細身のモンスターは、耐えることもできずに消し飛ぶ。
ただ、ラザロたちはそれでも期待したのかもしれない。
この高さから落ちてきたのであれば、俺も無事では済まないだろう、と。
だが、その考えは、無事に着地した俺の姿を見て霧散したようだった。
「さて、これで形勢逆転だな!」
「ボスはやっぱり人間じゃねぇな……」
ラザロが呆れたように呟く。
倒された代わりに呼び出されたモンスターでは、同じような形で戦うことはできなかった。
ヴィンセントのモンスターは、バルに倒されて消えていく。
続いて、ラザロのモンスターも倒した。
最後にラザロは、どこか納得したような顔でこちらを見る。
「加護持ちだからって言い訳していましたけど……ボスだから負けたと思えば、諦めがつきますよ」
そう言い残して、ラザロは消えていった。
そして、その直後。
他での戦いも終わった。
この名を賭けた勢力戦は、プレイヤー二名、NPC零名で終結した。
俺たちの勝利だった。




