第139話 グレイヴの南西戦
グレイヴは、れいにゃとは逆の南西側にいた。
そばにいるのは、霧の幽霊のようなモンスター、グレイヴミストだ。
「ノーフェイトは、プレイヤーを直接狙ってくるだろうと言ってたな」
グレイヴにとって、プレイヤーを直接狙ってくる相手との戦闘経験はない。
一人くらいであれば、モンスターに迎撃させる形で対応できるかもしれない。だが、複数人となると普通に考えれば難しい。
相手がこちらのモンスターを無視して、自分を狙ってくるならなおさらだ。
「まさか、このスキルを使う場面が出てくるとはね」
グレイヴはうんざりしたような口ぶりでそう言った。
ただ、その口角が自然と上がっていくのは隠せていない。
自分の成果を試せる。
その事実に、前にノーフェイトと戦った時と同じような高揚を覚えているのが、自分でもわかった。
グレイヴはまず、モンスターをリビングアーマーに変えた。
そして指示を出す。
「アーマーリンク」
その瞬間、リビングアーマーのパーツが分かれた。
鎧の各部が宙に浮き、グレイヴの体へと装着されていく。腕、脚、胴、肩。金属のような外装が重なり、グレイヴ自身が鎧をまとった姿へ変わった。
だが、指示はここで終わらない。
続けて、先ほどまで出していたグレイヴミストと合体する。ノーフェイトと戦った時にも見せた、霧と鎧が重なった強力な形態だ。
NPCがプレイヤーを直接狙ってくるのなら、狙われないようにモンスターの中へ入ればいい。
それが、グレイヴの出した答えだった。
「よし、外の様子は見えるし、指示も小声で伝わる。この状態で戦うのは初めてだけど、問題ないだろう」
準備は整った。
あとは敵が現れるのを待つだけだ。
一方その頃、敵であるNPC三人は、裏口から侵入していた。
彼らは見つからないように茂みに身を隠しながら進んでいる。
「打ち合わせ通り、俺がモンスターの相手をする。加護持ちを見つけたら、速攻でケリをつけろよ?」
「何度も言わなくてもわかっている」
「すぐにやられんなよ? 見つける前に倒されたらどうしようもないからな?」
「俺のモンスターが早々やられるかよ。俺がこの中で一番強いんだからな」
「ちっ、調子に乗りやがって。名がかかってるんだぞ」
「こっちがどれだけの大差で勝てるかで、今後の俺たちの立ち位置が決まるんだ。今はつっかかるな」
三人のうち一人は、防御力が高そうな熊型モンスターを出していた。半ば相手から見つかってもいい形で進み、残り二人は見た目や足音でばれにくい小型のモンスターに切り替え、身を隠しながら進む。
正面から相手を引きつけ、その間に加護持ちを見つけて倒す。
作戦としてはわかりやすい。
だからこそ、彼らは油断していなかった。
やがて、熊型モンスターを連れた男が、前方にいる存在を見つけた。
「モンスターを見つけた! ……加護持ちの姿は見えないが、戦えば声でわかるだろ。爪撃で奴を狙え!」
熊型モンスターが地面を蹴る。
オーラをまとった鎧型のモンスターへ向かって、鋭い爪が振り下ろされた。
それが戦闘開始の合図になるはずだった。
だが、その攻撃は相手に届く前に剣で払われた。
次の瞬間、返しの一撃が熊型モンスターに叩き込まれる。
防御力に自信があったはずの熊型モンスターが、一撃で瀕死に追い込まれた。
「はっ? ……まずい! き、距離を取れ!」
あまりの威力に反応が遅れた。
指示は出した。
だが、実行される前に続く一撃が入る。
熊型モンスターは、そのまま沈んだ。
倒されたモンスターが消え、次のモンスターが呼び出される。
「くそったれ! 距離を取って遠距離から攻めろ! パワーショットだ!」
自慢のモンスターがたった二撃で倒された。
近くで戦うのは危険だ。
男はすぐに判断を切り替え、遠距離から距離と時間を稼ぐ方向に変えた。他の二人が加護持ちを見つけるまで耐えればいい。
遠距離から攻撃し、相手を足止めする。
そう判断した。
だが、その判断は正しくもあり、間違ってもいた。
相手のモンスターは、思った以上に速かった。
放たれた攻撃は避けられ、すぐに距離を詰められる。
そして今度は、一撃で沈んだ。
「いくら何でも差がありすぎるだろ!? これだから加護持ちは嫌なんだ!」
男は叫びながら、次のモンスターが出る。
だが、もう長くは持たないことは明白だった。
防御力の高い最初のモンスターでさえ二撃。
距離を取って時間を稼ぐつもりだった二体目は、一瞬で詰められて一撃。
今度のモンスターだって、すぐに終わることは容易に想像できた。
「卑怯だぞ! 加護持ちのくせに隠れて戦うなんて臆病者か? 出て来いよ、おい!」
男は辺りを見渡しながら叫ぶ。
だが、戦っている相手の姿は見えない。
挑発にも乗ってこない。
相手のモンスターの攻撃だけが、淡々と続く。
そして最後の一体も、何も得ることができないまま倒された。
「ちっ、何が俺がこの中で一番強いだよ。速攻やられてんじゃねぇか、アイツ」
隠れていた一人が、苦々しげに吐き捨てる。
もう一人は、周囲を見ながら眉をひそめた。
「周りを見ていたが、加護持ちの姿が見えなかった。だが、あのモンスターは明らかに指示を受けているように見える……」
「どうする? どっちかが出て、まだ探すか?」
「……いや、同じことの繰り返しになるだろ。俺があのモンスターの後ろから回って攻撃するから、それに合わせてお前も攻撃しろ」
「それで勝てるのか?」
「少なくとも、もう一度同じことを繰り返すよりマシだろ。一体でも倒して、戦力を削るのを考えろ」
二人は作戦を変えた。
加護持ちを探すのではなく、まず目の前のモンスターを倒す。
そのために、前後から挟む形で攻撃を仕掛けることにした。
そして、二対一の戦いが始まった。
だが、そもそものモンスターのスペックが違いすぎた。
連携して攻撃を加えれば、少しのダメージを与えることはできた。だが、倒すまでにはいかない。
オーラをまとった鎧のモンスターは、霧をまとったまま剣を振るう。
一体ずつ、確実に削っていく。
二人のモンスターも抵抗したが、結果は変わらなかった。
最後には、二人とも手持ちのモンスターを失い、その場から消えていった。
「一人と二人で、合計三人かな?」
グレイヴは周囲を確認しながら、ぽつりと言った。
鎧の内側にいる状態でも、外の様子は問題なく見えている。指示も通るし、動きにも大きな違和感はない。
「攻撃を受けた時に私にもダメージが来たのはびっくりしたけど、まだ問題なさそうだし……思ったよりこっちに来た人数が少なかったな」
南西側に来たのは三人。
倒した数だけで考えるなら、悪くはない。
だが、誰が一番多く倒せるかという勝負を始めてしまった以上、このままでは負ける可能性が高い。
「正門側の方に手伝いに行こうかな。三人だったら、このままだと勝負には負けそうだし……それに、この姿も同じクランなら口止めすれば広がらないでしょ」
グレイヴは余裕を持って三人を倒せたことで、やはりこの合体形態は強かったと自信を取り戻していた。
そして、少し浮かれてもいた。
この姿を、他の誰かにも見てほしくなったのだ。
グレイヴは残りのNPCを片付けるのを手伝うため、正門側へ歩き出した。
残りNPC八人。




