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第138話 れいにゃの南東戦

 四人とも近くにいると戦いにくい。


 そう判断し、俺たちはそれぞれ担当する場所を決めて別れることにした。


 周囲から狙われないように、基本は壁を背にして戦う。正門に近い北東と北西には俺と、ミルト・レグルスの組。裏口から来そうな南東と南西には、れいにゃとグレイヴが向かうことになった。


 れいにゃは、打ち合わせで決めた南東へ移動した。


 隣には、草色の毛並みをした狐のリー君がいる。


「さてと。一人になったし、リリィに演奏してもらいながら、来るのを待とうかなぁ?」


 れいにゃはそう言うと、大きくてもっさもさの盾役であるモフ丸と、小さな可愛い人形のようなリリィも呼び出した。


 リー君、モフ丸、リリィ。


 三体のモンスターを従え、れいにゃは敵を待ち受ける。


 戦闘開始直後から演奏を流すのは、一見すると自分の場所を教えているようなものだ。普通なら馬鹿がすることに見える。


 だが、リリィの演奏にはデバフの効果がある。


 聞こえているということは、デバフの攻撃対象になるということだ。音を頼りに近づいている間も、確率でデバフがかかり続ける。


 場所を知らせる代わりに、近づく前から相手を削る。


 れいにゃのやり方は、可愛い見た目に反してかなり凶悪だった。


 その頃、裏口からはラザロの配下たちが侵入していた。


 彼らは以前、いきなり攻め込んできて、何度も死にながら自分たちを追い詰めたノーフェイトとミルトのことを侮ってはいなかった。


 ただ、今回は一度倒したらそれまでだ。


 前のように何度も復活されることはない。人数でも自分たちが上回っている。


 それでも、勝利を確実なものにするため、正門と裏口の両方から挟み撃ちにするつもりだった。


 その耳に、リリィの演奏が届く。


「新しいお仲間さんは、こんな時でも音楽を嗜むほど余裕だっていうのか? 馬鹿にしているのか!?」


「おい! 冷静になれ! ……あっちがその気なら、見つからないように近づいて仕留めればいいだけだろうが」


「うっ……すまねぇ。ついカッとなっちまった」


「ここからは気づかれないように、しゃべらず合図だけで進むぞ」


「ああ」


 配下たちは手で合図を交わし、手持ちの中でも見つかりにくいモンスターに切り替えてから、演奏しているモンスターへ近づいていく。


 やがて、視界にれいにゃと三体のモンスターが入った。


「おい、三体もモンスターがいるぞ? ってことは、ここに三人いるってことか?」


「ここからだと一人しか見えない。あいつは囮で、残り二人は隠れているんだろう。先にあの女を潰すぞ」


「俺たちは四人だ。一人先に潰せば、二人ずつで圧倒的に有利が取れる」


「タイミングを合わせろよ? 三、二、一……!」


 合図と同時に、四人の配下がそれぞれのモンスターへ攻撃を指示した。


 狙いはれいにゃ。


 だが、その攻撃に反応したのはモフ丸だった。


 事前にれいにゃから指示を受けていたモフ丸が、敵の攻撃を自分へ誘導する。


 インターセプトガード。


 四体のモンスターが放った攻撃は、すべてモフ丸が受け止めた。


「ちっ、誘導ありのガードスキルか。厄介だな。あのガード持ちが邪魔だ! 一気に潰すぞ!」


「ありがと、モフ丸。直接プレイヤーを狙ってくるなんて、ひっどいなぁ」


 れいにゃは、攻撃を防いでくれたモフ丸を撫でながら感謝を伝えた。


 怒っているようにも聞こえるが、声はいつもの緩い調子のままだ。


 リリィは敵が現れたことで、安らかな演奏から激しい演奏へと切り替えた。


 その横で、れいにゃは今日購入した高級なブラシを取り出し、リー君の草色の毛並みを整え始める。


「おいおい、いくら何でも俺たちのことを馬鹿にしすぎだろ!?」


「だから挑発に乗るな! あの大きなモンスターを倒して、余裕をなくしてやればいいだけだろうが!」


 配下たちは、戦闘中にブラッシングを始めたれいにゃの行動を挑発と受け取った。


 四体のモンスターからの攻撃は、モフ丸に集中する。


 だが、モフ丸はいっこうに弱る様子を見せなかった。もっさもさの毛を揺らしながら、攻撃を受け止め続けている。


 まるで、ダメージをほとんど受けていないかのようだった。


「これだけ攻撃しているはずなのに、崩れる様子がない。おかしい。何かあるぞ」


 配下の一人が異変に気づく。


 だが、その時にはもう、れいにゃのブラッシングは終わっていた。


 リー君の毛並みが整い、目に見えて調子が上がる。


「ふっふーん。愛があれば、モンスターは答えてくれるのよぉ? あなた達のモンスターには愛が足りないみたいねぇ」


 れいにゃは満足げにリー君を撫でたあと、配下たちへ向けて指示を出す。


「リー君、エアスラッシュで片づけちゃって」


 草色の狐が軽く身を低くする。


 次の瞬間、空気の斬撃が放たれた。


 見えない刃が四体のモンスターへ走り、それぞれに命中する。


 配下たちのモンスターは、あっけなく一撃で沈んだ。


「はっ? 一撃? 嘘だろ?」


「おい、しっかりしろ! まだ一体だ、ばらけるぞ!」


 そこからは、リー君の一方的な時間だった。


 配下たちはモンスターを入れ替えながら攻撃を続ける。モンスターが変わった後の攻撃では、モフ丸にも目に見えてダメージが入るようになった。


 だが、倒すまでには至らない。


 その前に、リー君が次々と敵のモンスターを一撃で葬っていく。


 リリィの演奏は激しさを増し、モフ丸は攻撃を受け止め、リー君は空気の斬撃で敵を切り払う。


 四人の配下のモンスターが尽きる方が早かった。


 そして、四人とも手持ちのモンスターが尽きたことで、その場から消えていく。


 戦闘は終了した。


「うーん、終わってみたら私のところに来たのは四人だけで、他にはこっちに来てないみたいだなぁ」


 れいにゃは周囲を見回した。


 他の場所では、まだ戦闘が続いている可能性がある。


「他を手伝いに行ってもいいけど、この戦い方を見せたいわけじゃないし、誰かが落ちるまではここで待ってようかなぁ? 追加で来るかもしれないしぃ」


 そう言って、れいにゃは先ほどの戦闘で傷ついたモフ丸を癒し始めた。


 リリィとリー君を撫でながら、次に敵が来るのを待つ。


 残りNPC十一人。


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