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第137話 ラザロファミリーの反乱

「ボスにやられて配下になり、今まで動いてきました。私なりに、ボスに迷惑をかけないように頑張ったつもりです」


 ラザロは深く頭を下げたまま、そう言った。


 声は震えていない。


 最初に会った頃のような、こちらの顔色をうかがう卑屈さもなかった。


 だからこそ、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。


 いや、でも結局駄目だったし。


 そう思ってはいる。実際、ラザロたちのやり方は問題になっていたし、俺の評判改善どころかさらに悪くなりかけていた。


 ただ、今のラザロが何かを誤魔化そうとしているわけではないこともわかった。


「力で押さえつけられたのは理不尽には思いますが、私たちも力で幅を利かせていたので、そこは今さらとやかく言うつもりはありません」


 ラザロの後ろにいる配下たちが、無言でこちらを見ている。


 ヴィンセントも腕を組んだまま、ラザロの言葉を待っていた。


「でも、ラザロファミリーの名まで奪われてしまったら、私たちはボスのただの奴隷じゃないですか!」


 えっ。


 ラザロファミリーの名前って、お前らにとってそんなに重要だったのか。


 俺にとっては、名前を変える理由がなかったから残していただけのものだ。だが、ラザロたちにとっては違うらしい。


 力で負けて従うことは受け入れても、自分たちの名前までなくなるのは受け入れられない。


 そういうことなのだろう。


「でもなぁ。そんなこと言われても、次のクラン名はもうアルバトロスに決まったんだけど」


 俺がそう言った瞬間、空気が変わった。


 俺たちとラザロたちの間に、冷たい風が流れたような気がした。実際に風が吹いたわけではない。けれど、ラザロたちの目つきが変わり、こちらへ向けられる圧が一段濃くなった。


 殺気、というほど単純なものではない。


 もっと面倒なものだ。


 意地とか、誇りとか、そういう俺が普段あまり重視しないものをまとめて押しつけられている感じがする。


「やはりボスに頼み込んでも無駄だ。ボスに俺たちの矜持なんてわかりやしない。覚悟を決めろ、ラザロ」


 ヴィンセントが、ラザロの背中を強く叩いた。


 その音で、ラザロは下げていた頭を上げる。


 先ほどまでの懇願する顔ではない。


 かつて俺たちと戦ったときの、ラザロファミリーのボスとしての顔だった。


「ボス。名を賭けて、今から戦いませんか? あなたが勝てば、名を変えることを受け入れますし、指示にも従います。ですが私たちが勝ったら、ラザロファミリーの名は変えないでください」


 ほう。


 そうくるか。


 それはちょっと楽しみではある。


 言葉で説得されるより、ずっとわかりやすい。力で押さえつけられたと言うなら、力で意思を示そうというわけだ。


「それって、あなたたちと私たちで戦うってことでいいのぉ?」


 れいにゃが確認する。


 声はいつもの緩い調子だったが、目は少し楽しそうだった。


 俺だけではない。ミルトも、グレイヴも、レグルスも、それぞれ反応している。


 ラザロたちは、それを見ても怯まなかった。


「ええ、かまいませんよ。ですが、ここを荒らしたくはありませんし、何度も復活されるとこちらが勝つ見込みがゼロになります。ですので、別フィールドでの勢力戦でお願いします」


「別フィールドでの勢力戦ってなんだ?」


 俺が聞くと、グレイヴがすぐに答えた。


「非公開モードのPVP、またはPVEで複数人で戦うやつだ。全滅させるか、一定の時間が経過したときの残り人数で勝敗が決まる」


「よく知っているな、グレイヴ」


「最近のお知らせに載ってたからね」


 お知らせにそんなものが載っていたのか。


 一応読んではいるはずだが、イベントの告知ではなかったから、さらっと読み飛ばしていたのかもしれない。


 だが、そんな機能があるならちょうどいい。


 わざわざ街の外まで行く必要もないし、拠点を壊す心配もない。負けた側が言い訳しにくい形で決着をつけられるなら、今回の話には合っている。


「みんなもそれでいいか?」


「いいですよ。あの時より強くなってますから、今度は負けませんよ」


 ミルトが答える。


 前にラザロファミリーと戦ったときは、俺とミルトの二人だった。あのときは勝ったとはいえ、死に戻りを使ってどうにかした部分も大きい。


 ミルトとしても、今度は普通に勝ちたいのだろう。


「いいよ。君には一撃で倒されたけど、強いんだってことを見せてあげるよ」


 グレイヴも軽く肩をすくめながら言う。


「名前は変えたいしねぇ」


 れいにゃは狐を撫でながら、当然のように頷いた。


「いいぞ」


 レグルスも短く答える。


 全員、やる気はあるらしい。


 ラザロはそれを確認すると、一度配下たちの方を振り返った。


「では、私たちの意地をかけてやらせてもら……いや」


 ラザロは途中で言葉を止めた。


 そして、少しだけ息を吸う。


 次に出た声は、さっきまでの丁寧なものではなかった。


「俺たちの力と思いを思い知らせてやる! やるぞ、お前ら!」


「おおーーー!!!!」


 ラザロたちの声が一斉に響いた。


 その瞬間、目の前にシステムメッセージが表示される。


『別フィールドに移動します』


 視界が一瞬だけ揺れた。


『移動しました』


『プレイヤー五人 VS NPC十五人』


『制限時間三十分の勢力戦を一分後に開始します』


 フィールド自体は、今までいた拠点のようだ。


 見慣れた建物、庭、通路の配置もそのままに見える。ただ、ここは勢力戦用の別フィールドらしい。なら、壊す心配をしなくていい分、アンカーチャージも特に問題なく使えるだろう。


 それに前とは違う。


 バル自身も強くなったし、新技のハードバレットもある。人数も二人ではなく五人だ。


 油断しなければいけるだろう。


「俺はミルトと一緒に戦ったことはあるけど、他とはないだろうし、誤って誤射するよりは散らばるか?」


 下手に固まると、攻撃の邪魔になる。


 特に俺とバルの動きは直線的な突撃が多い。味方が密集していると、それだけで動きにくくなる。


「私は一人でいいよぉ。ノーフェイトならわかるよね?」


 れいにゃがそう言った。


 確かに、こいつは一人で複数のモンスターを出せる。可愛いものを愛でたいと言いながら、実力はランキングに残るほどだ。


 下手に誰かと組ませるより、一人で自由に動かした方が強いだろう。


「私も、一人の方がいいかな」


 グレイヴもそう言う。


 前に見た合体を使うつもりなのかもしれない。まだ隠しておきたいものもありそうだし、一人で動いた方が都合がいいのだろう。


 それに今は夜だ。


 グレイヴにとっては、むしろ動きやすい時間帯かもしれない。


「僕はレグルスさんと二人でやります。ノーフェイトと一緒に戦うより連携取れますし」


「えっ? 俺じゃなくてレグルスの方がいいのか?」


 思わず聞き返してしまった。


 てっきり、ミルトは俺と組むものだと思っていた。


「ノーフェイトの場合は、僕がいなくても問題ないでしょ? 相手の的が増えるぐらいにしかならないと思いますし、レグルスさんとならヌルヌルダンジョンで既に一緒に戦ってますから」


「そうだな。ミルトとなら一緒にやりやすいし、二人で当たるか」


 レグルスも自然に頷いた。


 なるほど。


 言っていることはわかる。


 俺とミルトは一緒に戦ったことがあるとはいえ、ミルトが俺に合わせやすいかと言われると別だ。俺はバルと一緒に突っ込むし、ミルトは制作寄りで、戦うにしても補助が中心になる。


 それより、ヌルヌルダンジョンで一緒に戦ったレグルスの方がやりやすいというのは理解できる。


 理解はできるが、少しさびしさはある。


 そんなことを思っていると、近くで話を聞いていたれいにゃが、口角を少し上げた。


 すぐに手で口元を隠したが、見えた。


 完全に笑っていた。


 少しイラついた。


「じゃあ、誰が一番多く倒せるか勝負だ!」


 俺は少し強めに言った。


「あくまで今回の戦いで勝つこと前提での勝負だから、ないだろうが他の人の足は引っ張るなよ!」


 全員がこちらを見る。


 その中で、ミルトだけが一歩早く口を開いた。


「ノーフェイト。足を引っ張るのはなしって自分で言ったんだから、ヌルヌルブーツはなしですよ? 忘れないでくださいよ」


 あっ。


 確かにあれは強力だ。


 強力だが、俺以外全員の足を引っ張るやつじゃん。


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