第132話 不快感は消せません
ミルトがログインしてきたので、俺は通報された件について軽く話した。
ログインしてミルトのメッセージを見た直後に、治安管理局を名乗るNPCがやってきたこと。そのままクラリスのところへ連れていかれたこと。俺としては、ミルトの「通報しました」というメッセージが原因だと思っていたこと。
それを聞いたミルトは、少し目を丸くした。
「えっ……あれは単に通報しましたと書いただけで、どこにも通報してませんよ? というか、通報する場所があるんですか?」
まあ、実際に通報したのはNPCだ。ミルトが通報していないことは、もうわかっている。
ただ、嘘から出た実というやつだろう。
とりあえず終わったことではあるので、実際にはNPCからの通報だったとだけ伝えて、その話は軽く終わらせた。今回の本題とは関係ないし、長々と説明する必要もない。
バルの周りにある黒いもやについては、ミルトも驚きはした。だが、その反応は「また何かやらかしたんだろう」という感じで、それ以上深く追及してくることはなかった。
実際、黒いもやについても今は関係ない。
解封教団のことだって、俺だけの問題だ。
なのでミルトには、ラザロファミリーの一件だけ現状を話した。ついでに、この拠点の維持費についても、ラザロから聞いた額を伝えておく。
「お金について、今回分ぐらいならなんとかならなくはないですけど、僕のモルをそのままこの拠点の運営資金に使うのはちょっと……」
ミルトは露骨に難しい顔をした。
そりゃそうだ。
拠点のために稼いだ金ではない。俺だって、自分のモルを全部拠点に使えと言われたら拒否する。
「流石に闇鍛冶場が使えるとはいえ、金額的に毎月となると難しいですよ。それに闇商人で稼げたのは、他に同じような鍛冶場を持っている人が少ない今だからですし」
聞いてみると、ミルトの言っていることはもっともだった。
今は自前の鍛冶場を持っているプレイヤーが少ない。だからこそ、ミルトの作る物に価値がある。だが、それがずっと続くとは限らない。
やはり、継続的に稼ぐ方法を見つけるか、ラザロたちを正当な形で働かせる方法を探さないと駄目なのではないか。
「とりあえずその話はわかりましたが、僕のヌルヌルブーツを作った後でいいですか?」
ミルトは、昨日の夜遅くに取ってきたヌルヌルを使いたくて、と言いながら、こちらの了解を得る前に鍛冶場へ向かっていった。
まあ、作りたいなら止める理由もない。
ミルトが鍛冶場で物作りをしている間、俺とラザロは二人で他によい案がないか話し合っていた。
だが、良案は思いつかない。
ラザロの出す案は、どうしてもグレー寄りのものが多い。しかも、俺自身の評判も悪いので、正規の仕事という意味では難しいのではないか、という結論にしかならなかった。
それこそ、素材を集めてもらって、それを使ってミルトに何か作ってもらい、今のうちに荒稼ぎするくらいしか思いつかない。
いっそのことラザロファミリーを抜けてしまいたいという考えも浮かぶ。
だが、バルの武器は普通の鍛冶場では無理そうなんだよな。
そんなことを考えていると、ミルトが鍛冶場から戻ってきた。
どうやら、自分用のヌルヌルブーツを作り終えたらしい。
そこで俺は、ひとつ大事なことに気づいた。
そういえば、ヌルヌルブーツを作る前に、俺が自由に止まったりできるのは称号のおかげだと伝えるのを忘れていた。
いや、今回は嫌がらせではない。
単に伝え忘れていただけだ。
だが、これでブーツが使えないことに気づいたら、またミルトに何か言われるのではないか。
そう思ったのだが、ミルトは拠点の庭でヌルヌルブーツを試し、普通に滑り出した。
しかも、自由に停止までできている。
「ヌルヌルの支配者の称号って、俺だけじゃないのか!?」
俺は目を見開いた。
マジかよ。
初討伐とかではなく、単に倒したら同じ称号を得られるのか。
どうやら、俺のヌルヌルは最強ではなくなってしまったらしい。
少し気を落としていると、ミルトがヌルヌルブーツを使い終えたあと、こちらに感想を伝えてきた。
「便利ですけど、長時間は無理ですね。やっぱノーフェイトは異常です」
「何を言っているんだ? お前は?」
あれだけ自由に滑りまくっていて、本当に何を言っているんだと思う。
「移動で使えなくはないですけど、不快感が凄くて長くは使いたくないですよ。このヌルヌルブーツ」
詳しく聞くと、ミルトがシークレットボスを倒して手に入れた称号は、ヌルヌルの支配者ではなかった。
ヌルヌルの活用者。
制御はできるが、俺が得ることができた不快感のオンオフはできないようだ。
なるほど。
となると、みんながこの称号を取っても、不快感を与える状態異常としてはまだ使えそうだ。
まあ、それでも俺の優位性は大分下がりそうだが。
いや、そもそもあんなヌルヌルダンジョンに行く奴なんて、しかもシークレットボスに挑む奴なんてほとんどいないだろう。
なら、優位性はそのままか。
そう頭の中で考えて、少し安心していた。
そのとき、ミルトがとんでもないことを言いやがった。
「あ、あと、すみません! シークレットボスについて、一人じゃ倒せなかったので他の人を誘いました!」
こいつ……!
隠しボスを他人にばらしたのか!?
情報のありがたさがわかってないのか、ミルトは!




