第130話 解封教団に勧誘されました
「治安管理局に連れていかれても尻尾を出さなかったとは、すばらしいです」
奥の部屋に通されたあと、目の前の男はそんなことを言って俺を絶賛した。
俺はぽかんとするしかなかった。
尻尾を出さなかった。
何の話だ。
さっきまで俺は、解封教団のメンバーではないと疑われていた側だ。疑いは晴れたはずだし、実際に俺は解封教団とは何の関係もない。なのに、この男はまるで俺が何かを隠し通したかのように褒めてくる。
嫌な予感しかしない。
男は俺の反応など気にせず、にこやかな顔で頭を下げた。
「申し遅れました。私、表向きは無加護救済会ですが、実態は封印されたモンスターを解放する解封教団のベルゼンと申します」
解封教団。
さっき俺がメンバーだと疑われた、指名手配中のやつじゃねぇか。
「あなたのように、封印されたモンスターを解放することを目的とした集まりでございます。是非とも所属してほしいと思いまして、声をかけさせていただきました」
俺は一瞬、何を言われているのか理解できなかった。
いや、落ち着け俺。
逆に考えれば、これはチャンスではないか。むしろこいつを捕まえれば、更なる名声アップになるのでは?
とりあえず、封印を解いたと思われているところはごまかしておこう。
「気のせいじゃないか? 俺が封印を解いたなんて証拠は?」
ベルゼンの目が、黒いもやをまとったバルに向いた。
バルは、また話し合いかと思っているのか、のんびりと欠伸をしている。ここはさっき尋問されていた部屋とは違って天井が低いので、飛ぶ練習はしていない。
「そのモンスターだけでも十分な証拠になりそうですが、わかりますよ? 封印の解放を目的としている私どもですから、そういった手段は持っております」
その手段については説明してくれなかった。
ただ、相手は確信しているようだった。ここで否定し続けても話は進まなさそうだ。
「なるほど。じゃあ、俺をここに呼んだ理由を説明してもらえるか?」
「いいでしょう」
ベルゼンは満足そうにうなずいた。
「加護持ちと加護なしで差が大きいというのは、不公平だとは思いませんか? あなたは加護持ちの立場ですのでわかりにくいかもしれませんが、加護なしは上に行けないのです。生まれだけで決められるのは理不尽だとは思いませんか?」
そこから、ベルゼンは加護なしの不遇さについて延々と説明し始めた。
加護持ちと加護なしの差。
命の重さの違い。
努力だけでは埋められない壁。
話している内容自体は、完全に的外れというわけではないのだろう。加護がなければ命は一つだし、加護がある者とない者を比べれば差が出るのもわかる。
ただ、正直そこまで興味はない。
とりあえず、頷いて聞いておけばいいだろう。
「じゃあ、その解封教団は何を目的に封印を解放しているんだ? 世界を等しく混乱に導くためとか、そんな感じか?」
ゲームの敵キャラなら、理不尽さを呪って、みんな堕ちればいい、みたいなことを言いそうだ。そうあたりをつけて聞いてみたのだが、ベルゼンは少し眉を上げた。
「そんなわけないじゃないですか」
違うらしい。
「世の理不尽に対抗するため、力を得るために封印の解放を目指しているんです。単なる封印の解放だけなら、今すぐにでもいくつかの封印は既に解ける状態です」
おっと。
思っていた話と違うぞ。
既にいくつかの封印は解ける状態。
それは割と危険な状態ではないか。ミカゲはこれを把握できているのだろうか。
「……俺を勧誘している理由は?」
「封印されているモンスターの力を手中に収める方法が、まだ確立していないのです。なので、既に実績のあるあなたにお力を貸していただけないかと思いまして。もちろん、ただでとは言いません」
単に情に訴えるだけかと思ったが、話がわかるやつではないか。
入るかどうかは別として、話は聞こう。
「もちろん報酬はお支払いいたしますし、他の封印の場所をお教えするのもやぶさかではありません。さらに、今後人類のトップに立つことになる我が教団の幹部にも推薦する予定です」
報酬はもちろん払えよという感じだ。
封印の場所を教えてもらえるというのも、使い道があるのかないのか微妙なところだ。幹部推薦に関しては、むしろ危険度が上がる気しかしない。
こちらの反応がよろしくないことに気づいたのか、ベルゼンは続けた。
「あなたは市民からの評判が悪く、取引に難儀していると聞いております」
「……まあ、そうだな」
一応、他の人経由で取引はできる。今は手間ではあるが、問題と言うほどでもない。
それでも、面倒なのは事実だ。
「解封教団ではなく、私たちの表向きの無加護救済会ですが、数が多いです。ですので、少しずつ評判の改善などを働きかけるのは難しくありません。いかがですか?」
「それは確かに助かる」
自由に売買ができないというのは、割と面倒だ。いちいち買ってもらって、交換してもらう手間が必要になる。
その手間が減るなら、単純にありがたい。
俺の反応が好意的に見えたのか、ベルゼンの気が少し緩んだのがわかった。
「では? 我が教団へ参加していただけるということでよろしいですか?」
「ああ、そう思ってもらって大丈夫だ。ここで答えるだけで教団に入ったことになるのか?」
その言葉で、ベルゼンは笑顔になった。
だが、首は横に振る。
「解封教団に入る際には入信の儀が必要ですし、幹部として推薦いたしますので、次の会合にて他の方々への紹介とともに参加をお願いします。評判の改善は、入信の儀が終わり次第、徐々にさせていただきます」
「わかった。俺としても仲良くしたいので、よろしく頼む」
俺はベルゼンと再び握手を交わした。
そして、内心で喜びながら、通された部屋を出る。
そのまま拠点に戻った。
誰も部屋にいないことを確認してから、俺はミカゲにもらった携帯のようなアイテムを取り出す。
連絡先は、まだミカゲしか登録されていない。
ちょうどいい。
俺はすぐにミカゲへ連絡を取り、ベルゼンと解封教団について通報した。
これで全部解決だ!




