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第128話 封印守のミカゲ

「……というわけで、俺のバルはこの黒いもやのモンスターを倒した後に乗り移られて、こうなったんだ! 嘘じゃない! 研究所にいるミレイアに確認を取ってもらってもいい!」


 俺はそれまでの経緯を事細かに説明した。


 なぜ風切岳へ行ったのか。


 そこでバルが飛ぶために訓練をしていたこと。


 飛行訓練、もとい落下訓練を繰り返したこと。


 その後、黒いもやに取り憑かれたゴレムンと戦い、さらにヌシに乗り移った黒いもやを倒したこと。


 自分でも説明していて思うが、なかなか長い。


 だが、こちらとしては疑いを晴らすために必要な説明だ。省略して誤解されたままでは困る。


 しかし、最後まで話を聞いたクラリスは、黒いもやについてではなく、別のところに反応した。


「あなた、最初の頃と変わってないじゃない!」


 飛び火した。


 しかも、黒いもやではなく、バルの落下訓練の方に。


「今回は違う! バルが飛ぶために、自分から崖から飛び降りたんだ! それに俺も何度も一緒に飛び降りた!」


「……あなた、もしかして自分が傷つけられて喜ぶタイプ?」


「そんなわけないだろ!」


 どうしてそうなる。


 俺はすぐにバルを見た。


「バル、ちょっと浮いてくれ」


 バルは少し眠そうにしながらも、ぽよんと跳ねた。そして、そのまま空中でわずかに浮かぶ。


 移動まではできない。


 だが、落ちずに浮いている。


 訓練の成果としては十分だ。


「ほら、ちゃんと成果は出ている」


 俺がそう言うと、クラリスの表情がさらに複雑なものになった。


 怒っているような、呆れているような、意味のわからない生き物を見ているような顔だ。


 そこから俺は、飛び降りる訓練の利点についても説明した。


 高所から落ちる経験を積むことで、バルが空中での姿勢や感覚を覚えられること。


 俺自身も一緒に飛び降りることで、バルを見ながら指示を出せること。


 そして最終的に、俺は落下耐性を得たことで、多少高いところから落ちても死ななくなったこと。


 ここまで説明すれば、少しは合理的な訓練だったと理解してもらえるはずだ。


 そう思ったのだが、クラリスの表情はまったく晴れなかった。


「ちまたであなたが狂人だと言われていることは知っていたけど、狂人じゃなくて異常者ね。もう人間じゃないわ」


「失礼すぎるだろ!」


 そしてやめろ。


 また変な称号でもついたらどうする。


 俺が抗議していると、部屋の扉が開いた。


 入ってきたのは、神主のような衣服をまとった人物だった。見覚えはない。治安管理局とも、クラリスとも雰囲気が違う。


「外で聞いていましたが、どうやらメンバーではない様子。そもそも知識自体持っていないように思います」


 誰だこいつ。


 俺はクラリスに視線で説明を求めた。


 すると、その人物は俺に向かって軽く頭を下げた。


「申し遅れました。私、厄災の封印を守っている封印守のミカゲと申します」


 ミカゲと名乗った人物は、そう言ってクラリスの横に座った。


「厄災について説明する前に、あなたはこの世界の歴史についてご存じですか?」


 この世界の歴史。


 冒頭にあったフレーバー的なストーリーのことだろうか。


 うろ覚えだが、確か人々はモンスターに追いやられて危機的状況になった。しかし、モンスターとともに生きることで、生活できる場所を少しずつ増やしていった。


 そんな感じの始まりだった気がする。


 よくある系の話だったので、細部まで合っているかはわからない。


 俺がその程度の認識を伝えると、ミカゲはうなずいた。


「そうです。ですが、モンスターと共に生活圏を広げることには成功しましたが、何もすべてが順調だったわけではありません」


 まあ、そりゃそうだろう。


 問題は起こるものだ。


 俺みたいに。


「単に強いだけのモンスターであれば、こちらも強くなること、数を増やすことで、なんとか対抗できたとは思います。ですが、そうではない特殊なモンスターたちがいました。中には強すぎるモンスターも含まれますが、こちらもそういった類のものと思ってください」


 ははーん。


 なるほど。


 話は読めたぞ。


「それらを厄災と称して、モンスターを封印することでどうにかしてきたということか?」


「その通りです。話が早くて助かります」


 ゲームだとよくあることだからな。


「封印にもタイプはありますが、基本的に鳥居型のダンジョンがそれに値します。ですので、鳥居型ダンジョンについては基本的には私どものような封印守が厳格に管理しております」


 俺は首を傾げた。


 そう言われても、風切岳の鳥居型ダンジョンには誰もいなかったような気がする。


 俺の疑問に気づいたのか、ミカゲは続けた。


「先ほど基本的にはと言ったように、すべての鳥居型ダンジョンを管理するには人が足りません。ですので、一部の強固な封印が施されているダンジョンは、逆に人を配置しないことによって遠ざけておりました。マグマの中や毒に満たされた地にあるダンジョン、それに人が上ることができないとされている風切岳のダンジョンなどですね」


 そんな説明は聞いた覚えがない。


 もしかして、正規ルートで聞くはずだった何かを飛ばしているのだろうか。


 俺がそう考えていると、ミカゲは察したように言った。


「場所はあえて教えておりませんが、鳥居型ダンジョンの注意点については、ある一定の力を持つ資格保有者には説明しています。ですが、あなたはそもそも危険区域に入るための資格すら取っていないようなので、知らないことも無理はありません」


 なるほど。


 風切岳に入れたのは、ミレイアが同行していたからだ。危険区域に入るための資格が関係していること自体は知っていた。


 ただ、俺自身が資格を持っているわけではない。だから鳥居型ダンジョンの注意点について、正式な説明を受ける機会がなかったのだろう。


「まあ、厄災と称されるのは危険なモンスターだというのはわかったが、この説明の意図は?」


「一つは、誤って鳥居型ダンジョンへ入らないように、という注意喚起です。入ろうとしている人を見かけたら阻止してください」


「俺は今回、そもそも入ってすらいなかったんだが……まあわかった。それで、一つということは他には?」


 ミカゲは笑みを浮かべた。


 ただし、その表情はすぐに真剣なものへ変わる。


「はい。こちらが重要なのですが、あなたが倒したと言った風切岳のダンジョンの厄災は、強いモンスターに寄生を繰り返す凶悪な憑依型のモンスターです。どうやって倒したのですか? あれは倒すことができず、時間を経て回復するタイプの厄介なモンスターですので、倒せないはずですが」


 倒せないはず。


 そう言われても、倒したものは倒した。


 俺は戦闘の流れを説明した。


 最初はゴレムンに取り憑いていたこと。


 ゴレムンにダメージを与え続けたこと。


 その後、黒いもやがヌシに憑依したこと。


 それでも攻撃を続けて倒したこと。


 そして、ヌシを倒したあと、黒いもやがその場に残り、バルへ乗り移ったこと。


 バルに乗り移った黒いもやは、大きな咆哮を上げたあと、パシュンという音とともに消えたこと。


「俺はプレイヤーで、持っているモンスターがバルしかいない。だから、乗り移れる先がなくて消えたんじゃないかと思ったんだが」


 あくまで俺の私見だ。


 確証があるわけではない。


 しかし、ミカゲはその説明を聞くと、少しだけ目を細めた。


「加護持ちが一体しかないモンスターを奪われた場合は、その加護持ちはこの世界から消える、というふうに文献には残されていましたので、その考えは合っていないかと思います」


 その言葉を聞いた瞬間、冷や汗が流れた。


 えっ?


 もしかして、ゲームオーバーがないはずのこの世界で、俺はゲームオーバーになるところだったってこと?


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