第127話 通報理由、違いました
夜遅くにメッセージが届いていたということは、ミルトは昨日、ヌルヌルダンジョンに行ったのだろう。
それはわかる。
だが、それなら直接俺に言えばいいじゃないか。
通報なんてズルだろ。
というか、通報なんてどこにするんだよ。
俺がそんなことを考えながら黙っていると、治安管理局を名乗ったNPCがこちらを見た。
「やましいことがあるということでよろしいですか?」
「……やましいことはありませんので、ついていきます」
こういうのは、やましいことがあってもなくても、最終的には連れて行かれるのだろう。ここで拒否しても、むしろ状況が悪化するだけだ。
俺は素直についていくことにした。
バルも当然のように俺の後ろを跳ねてついてくる。
拠点の外へ歩みを進める途中、視界の端に青ざめたラザロが映った。
……もしかして、これ、俺ではなくラザロファミリーの件ではないか?
そうだよ。
ヌルヌルダンジョン程度で普通に連行なんて、あるわけがない。そんなことで連れて行かれるなら、何をしても通報されて連れて行かれることになる。
つまり、これはラザロ関係だ。
俺はラザロを指さした。
「このラザロも連れて行きますか?」
道連れにするなら今しかない。
しかし、治安管理局のNPCはラザロを一瞥しただけだった。
「今回の通報はあなたに対して行われていますので不要です」
目を向けられた瞬間、ラザロは息が止まったような顔をしていた。だが、不要だと告げられると、大きく息を吐き、そのまま部屋の奥へ逃げていった。
逃げるな。
いや、逃げるか。
俺はあてが外れ、止まっていた足を再び動かすしかなかった。
治安管理局の案内で街の外へ出る。
連れて行かれた先は、俺が最初に騙されて入った秘密のダンジョンの奥だった。
道中、俺は何度か治安管理局のNPCに尋ねた。
「どんな理由で通報されたのでしょうか?」
だが、返答はなかった。
何を聞いても、詳しいことは現地で確認するといった態度で、情報らしい情報は何一つ得られない。結局、ここまで何もわからないままだった。
クラリスがいた部屋を通過し、さらに奥の一室へ案内される。
そこには机が一つと、座りにくそうな椅子が並べられていた。机の上には、内容を記録するためなのか、紙と文房具らしきものが置かれている。
見たことはないが、警察とかに尋問される部屋はこんな感じなのではないか。
そう思わせる部屋だった。
そして、その部屋にはクラリスがいた。
クラリスは椅子に座り、こちらを見ている。
冷たい目だった。
犯罪者を見るような目だ。
「いつかやるとは思ってたけど……とうとうやったのね」
なんでクラリスがここにいるんだ、とは思った。
だが、それより先に弁明しなければならない。
「こんな大事になるとは思わなかったんだ! 出来心だったんだ!」
俺がそう言った瞬間、クラリスが勢いよく声を上げた。
「出来心で済む問題じゃないでしょう!? 少しはマシになったかと思ったら、とんでもないことをやったわね!」
思った以上に怒り心頭だった。
先に弁解するのではなく、初手は素直に謝った方がよかったのかもしれない。
だが、そこまで怒りを向けられることなのか。
「いや、俺は単にダンジョンを紹介しただけだ! しかも隠しボスなんてレアな情報も渡しただけだ!」
正直、そこまで怒られるようなことをした覚えはない。
なんなら有益な情報だったはずだ。
……不利益のある情報は伝えなかった、という点はあるが。
クラリスとの応酬の横で、バルは悠長にあくびをしていた。
俺たちとの温度差が大きい。
案内してきた治安管理局のNPCは、机の上の紙にこのやり取りを記録している。やめてほしい。今の発言をそのまま記録されると、何かよくないことを自白したように見えなくもない。
「そうやって誘導して、あなたは得るものを得たというわけね」
「……得るものは得たって、いや、何の話だ?」
まだ得てはいない。
せめて、こんなことになった以上、ミルトの笑い話でも聞かないと、得るものを得たとは言えない。
クラリスは話が噛み合っていないと感じたのか、眉間にしわを寄せた。
「何の話だって……あなたは何の話だと思って、ここに連れてこられたと思っているのかしら?」
いや、お前こそ何を言っているんだ。
ヌルヌルダンジョンのことだろう。
俺はミルトに話したヌルヌルダンジョンについて説明した。
ヌルヌルまみれになること。
隠しボスのこと。
そして、ミルトが夜遅くに『通報しました』とだけメッセージを送ってきたこと。
話し終えると、クラリスは頭を抱えるようにしてから、強めに言った。
「そんなことでここに連れてこられるわけがないでしょ!? 私たちも暇じゃないのよ?」
「えっ? 思い当たるのはそれしかないんだけど」
それ以外となると、ラザロ関係くらいしかありそうなものがない。
だが、それはさっき否定された。
クラリスは俺をじっと見たあと、ゆっくりと口を開いた。
「あなたのモンスターが黒いもやをまとっていることには、心当たりがないというのね?」
「……」
俺はバルを見た。
バルは黒いもやを纏ったまま、いつも通りそこにいる。
見慣れてしまっていた。
そういえば、これだった。
クラリスの話によると、門のところで黒いもやを身にまとったバルが目撃されたらしい。その姿を他のNPCたちにも見られ、それが通報につながったということだった。
しかも、ただ黒いもやが怪しいというだけではない。
厄災と呼ばれるものの封印を解放している、指名手配中の解封教団のメンバーではないかと疑われたらしい。
「誤解だ!」
俺は即座に否定した。
封印は、解くつもりはなかった。
結果的に解いてしまったのは事実だ。
だが、解決はした。
少なくとも、訳のわからない解封教団のメンバーだというのは完全な誤解だ。




