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第126話 通報しました

 アンカーチャージによる高速移動を繰り返しながら、俺たちは拠点へ向かっていた。


 速い。


 いや、すさまじく速い。


 景色が後ろへ流れていく様子を見れば、それが誇張でも何でもないことはすぐにわかる。ヌルヌルロードで滑っていたときのような、一定速度で続く速さとは少し違う。アンカーチャージは、加速した瞬間が一番速く、そこから落下に入ると勢いは少しずつ弱まっていく。


 それでも、十分すぎるほど速い。


 しかもヌルヌルロードではできなかった、谷を越えることも、山を登ることもできる。地形に左右されにくいという意味では、かなり優秀な移動手段だ。


 前に似たようなことをしたときは、落下耐性がなくて着地の衝撃で死んだ。だが、それも今は解消されている。


 そう考えると、もう空を飛ぶ必要はないのではないか。


 ……いや、違うな。


 空を飛びたいのは移動手段としてではなく、バル自身の望みだった。そこは訂正しておこう。


 とはいえ、この移動方法にも欠点はある。ずっと移動し続けることはできないのだ。


 バルには座席がない。


 つまり、俺はバルを掴んだまま移動している。身体能力が上がっていなければ、そもそもこの移動方法自体が無理だっただろう。今までの積み重ねが、こんなところでも生きていると思えば悪くはない。


 ただ、いくら身体能力が上がったとはいえ、ずっと掴み続けるのは無理だ。


 そのため、バルを掴んでいた手に疲れを感じたところで、今は少し休憩している。


 俺が手を休めている間も、バルはじっとしていなかった。飛ぶ感覚を忘れたくないのか、空中に跳ね上がっては、その場で浮遊する練習を続けている。


 移動はできていない。


 だが、重力に従って落下せずに浮かんでいるのだから、飛んでいると言っても過言ではないだろう。


 ただ、思うところはある。


「羽がないのに、どうやって浮遊しているんだ?」


 俺はそう問いかけてみたが、バルは浮遊することに夢中で返事をしなかった。


 まあ、最初から期待はしていなかったので別にいい。


 きっとバルの心の中にある見えない羽を羽ばたかせているのだろう。そういうことにして、俺は自分を納得させた。


 それにしても、バルは今も黒いもやを纏っている。


 敵が得ていた効果を考えるなら、自動回復のような能力も引き継いでいるのだろうか。


 試してみたい気持ちはある。


 ただ、今のバルは大半の敵を一撃で葬ってしまう。だから、仮に自動回復があったとしても、効果を実感しにくい。


 それに、敵のときと同じ性質を持っているなら、自動回復をするたびにこの黒いもやが少しずつ減っていく可能性もある。そう考えると、むやみに敵からダメージを受けて消費するのも惜しい。


 そんなことを考えていると、近くの茂みががさりと揺れた。


 敵だ。


 気づいた瞬間、俺はすぐにバルへ指示を出す。


「バル、アンカーチャージ」


 バルが地面を蹴るように跳ねた。


 次の瞬間には、茂みから飛び出してきた敵に向かって一直線に突っ込んでいく。黒いもやを纏ったバルが、そのまま敵を粉砕した。


 ここらの敵であれば、ハードバレットを使うほどでもない。


「こうして見ると、バルの周りにある黒いもやって、効果があるのかないのかわからんな?」


 俺は倒れた敵を見ながら、改めてバルを見る。


 黒いもやは、相変わらずバルの周囲にまとわりついている。見た目は明らかに普通ではない。だが、普通ではないからといって、今この場で何か特別な効果が出ているのかはわからなかった。


 この黒いもや、属性とかついていないのだろうか。


 黒いから闇属性とか、そういう感じで。


 闇属性が存在するのかは知らないが、ヌルヌル属性があるなら闇属性くらいあってもおかしくないだろう。むしろ、ヌルヌル属性よりは闇属性の方がずっとありそうな気がする。


 今度また、グレイヴに検証をお願いしてみるか。


 うまくいけば、新しい武器がなくてもヴェイルを倒す手段になるかもしれない。


 そんなことを考えながら移動を再開し、何度かアンカーチャージを繰り返すうちに街が見えてきた。


 門をくぐり、拠点へ戻る。


 ミルトはまだログイン中のようだったが、拠点にはいなかった。


 アンカーチャージでの移動方法が使えるようになった今なら、ヌルヌルダンジョンまで飛んでいくこともできそうだ。次に会ったら一緒にダンジョンを攻略してもいい。


 何なら、一度ダンジョンまで行ってヌルヌルを経験させたら、その後は俺とバルでボスを倒して素材だけ取ってきてもいい。


 そう考えたあと、俺は拠点に帰ってきてからも飛ぶ練習を続けているバルを眺めた。


 バルは何度も跳ねて、空中でぴたりと止まろうとしている。完全に移動できるわけではないが、浮かぶ感覚は少しずつ掴めているらしい。


 頑張っているな。


 そう思いながら、俺はログアウトした。


 そして次の日。


 俺は拠点にログインした。


 最初に目に入ったのは、メッセージの通知だった。


 ミルトはまだログインしていないようだ。ただ、昨日の夜遅くにメッセージが届いていたらしい。


 内容は何だろうか。


 ヌルヌルダンジョンを手伝ってくれ、とかだろうか。


 そう思いながら開くと、そこには一言だけ書かれていた。


『通報しました。』


 ……心当たりは、ヌルヌルダンジョンしかない。


 そして、思った以上に怒っていらっしゃる。


 俺がそう思った直後、拠点の入口から見慣れない服装のNPCが入ってきた。


 NPCはまっすぐこちらへ近づいてくると、事務的な口調で告げた。


「治安管理局のものです。通報がありましたので、やましいことがないのであれば同行をお願いします」


 マジで通報したのかよ!


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