第13話 初めての同行者
レグルスだと思って強気に声をかけた相手が、まったく知らない別人だったせいで、少しだけ気まずい空気が流れた。
「……誰?」
ついもう一度聞いてしまう。
相手はびくりと肩を跳ねさせたあと、おそるおそる口を開いた。
「み、ミルトです……」
どう見てもレグルスではない。
年齢も雰囲気も違う。さっきみたいな鬱陶しい自信満々さもないし、どちらかといえば押しの弱そうなタイプだった。
俺は軽く咳払いをした。
「……悪い。別のやつだと思った」
「い、いえ……」
ミルトはまだ緊張した様子のままだった。
だが、後をつけてきたのは事実らしい。そこは誤解ではなかったようだ。
「で、なんでついてきたんだ?」
そう聞くと、ミルトは少しためらったあと、ぽつぽつと事情を話し始めた。
召喚スタイル。
生産職志望。
そして、ガチャで引いたモンスターが弱くてまともに進めないこと。
「……なるほど」
聞きながら、俺は内心で深く頷いた。
やはりガチャは悪い文化だ。
俺は勝手に、ミルトを心の中の仲間リストに加えた。こいつもまた、ガチャ被害者の一人である。境遇は違っても、根本の理不尽さは同じだ。
ミルトはさらに続けた。
「道中で、すごく簡単に敵を倒してるのが見えて……それで、声をかけようと思ったんです」
「ほう」
見る目がある。
俺は少しだけ気分をよくした。
「でも……」
ミルトの視線が、俺の横にいるバルへ向く。
「途中で、その……仲間のモンスターに攻撃されてるのを見てしまって」
「ああ」
そこか。
「それで、声をかけていいのか迷ってるうちに、ずるずるここまで……」
「なるほどな」
正直に言えば、俺はレグルスが仕返しでもしに来たのかと思っていた。だから、変なことをされる前に釘を刺しておこうとしただけだ。
だがそうじゃないなら、別に無視して一人でダンジョンに入ってもいい。
いい、のだが。
俺はミルトを見た。
召喚ガチャに失敗して進めない。
生産職志望。
そして今後、装備や素材を扱う側になりそう。
……よく考えたら、かなり悪くない。
レア武器、レア素材、そういうガチャ要素が絡みそうなものは、俺には基本的に縁がない。なら、強い装備や便利なアイテムを作ってくれる相手というのはかなりありがたい存在だ。
ここで恩を売っておくのは、十分ありだろう。
決して、召喚ガチャに失敗したという一点だけで助けようと思ったわけではない。……たぶん。
俺はにこやかな笑顔を作った。
「じゃあ、一緒に行こうか」
これで話は早い。
そう思ったのだが、ミルトはなぜかそこで即答しなかった。
「え、あ、あの……」
妙に悩み始める。
解せぬ。
仲間になってほしくて後をつけてきたんじゃないのか?
俺が首を傾げていると、ミルトはかなり言いづらそうにしながらも本音を出した。
「その、バル……でしたっけ」
「おう」
「さっきから、あなたを攻撃してますよね?」
「まあ、たまに」
「たまに……?」
ミルトの目が若干泳いだ。
「い、いえ、見た感じだと、たまにというより普通に……」
「細かいことはいい」
よくないのかもしれないが、ここでそこを掘り下げる必要はない。
ミルトが不安そうにしている理由はわかる。自分も攻撃されるんじゃないかとか、そもそもバルの攻撃で俺がやられて途中で消えるんじゃないかとか、そのあたりだろう。
「まず言っておくけど、お前を攻撃することはない」
俺ははっきりと言った。
「あれはプレイヤー全般を狙ってるんじゃない。俺を狙ってるんだ」
「それ、安心していい情報ですか?」
「……まあ、たしかに言い方はあれだけど」
でも事実だ。
バルが狙うのは基本的に俺だ。他人に向かっていくタイプではない。少なくとも今までの感じではそうだ。
「それと、俺が途中で消える件は……」
そこは少し言葉を濁した。
「気を抜かなければ、そうそうならない」
「そうそう、ってことは、あるんですよね?」
「……絶対ないとは言わない」
ミルトは真顔になった。
そりゃそうだろう。俺でもそうなる。
だが、ここで変に取り繕っても仕方ない。バル絡みは、下手に盛ると後で事故る。そこはもう経験済みだ。
ミルトはしばらく悩んでいた。
ダンジョンの入口の前で、俺とバルを見て、また考え込む。
そしてかなり長く悩んだ末に、ようやく結論を出した。
「……一緒に行きます」
「お、決めたか」
「どうせ一人で潜ってもやられるので」
「……」
なんだろう。
俺が仲間に入れてやろう、みたいな流れだったはずなのに、いつの間にか「しぶしぶ消去法で同行する」みたいな空気になっている気がする。
解せぬ。
だが、来るというならそれでいい。
「よし。じゃあ行くか」
俺がそう言うと、ミルトはまだ少しだけ不安そうな顔で頷いた。
バルはその横で、いつものように丸かった。
たぶん大丈夫だ。
たぶん。




