第123話 ゴレムンを助けに行く
休憩所には、青い顔をしたミレイアがいた。
今にも倒れそうな顔だ。
いきなり山が崩壊したのだから、俺も意味がわからない。だが、ミレイアは何か事情を知っていそうだった。
「おい、ミレイア。何があった?」
そう聞いたが、ミレイアは焦っているのか、まともに答えられる状態ではなかった。
「黒いのが……神社が……ゴレムンが……私、そんなつもりじゃ……!」
「落ち着け」
「でも、でも、ゴレムンが……!」
何を言っているのかわからない。
ただ、かなりまずいことが起きたらしいことだけはわかった。
俺はミレイアが同じ言葉を繰り返すたびに、一つずつ確認していった。どこで、何をやって、何があって、何が消えて、何がまずいのか。何度も聞き直して、ようやく話の形が見えてくる。
「まとめると、鳥居のダンジョンに入ったせいで黒いもやが出て、ミレイアのゴーレムが奪われて、神社が壊れたらあの山も崩壊したってことか?」
俺は遠くを見る。
風切岳があった場所は、今や崩れた岩の山のようになっていた。遠目からでも、さっきまであった山の形が変わっているのがわかる。
崩壊の音を聞いたのか、ここに入る時にいた番人もやってきた。俺はミレイアから聞いた内容を、できるだけ整理して説明する。
番人は顔色を変え、すぐに街の方へ向かって走っていった。たぶん、自分だけでは対応できないから、判断を仰ぎに行ったのだろう。
その間も、ミレイアは泣きながら同じ言葉を繰り返していた。
「ゴレムン……ゴレムン……」
自身のモンスターであるゴーレムの名前なのだろう。
このままでは使い物にならない。会話でどうにかするより、今は物理の方が通じるかもしれない。
俺はミレイアの頬を叩いた。
乾いた音が鳴る。
ミレイアが呆然とした顔で俺を見た。
「ほら、ゴーレムの所に行くぞ」
「……助けてくれるの?」
小さな声だった。
「行ってみないとわからない」
俺は正直に答える。
「だが、乗りかかった船だし、助けられるなら助けてやるよ」
「……ありがとう」
そうして俺は、ミレイアを連れてバルとともに崩壊した風切岳へ向かった。
そこにはもう、高かった壁はない。代わりに、岩の山が広がっていた。
「ちょっとこれは、ゴーレムにたどり着くのも難しいのでは?」
思わず愚痴がこぼれる。
すると、ミレイアがまた泣きそうな顔になった。
「いや、今のは独り言だ」
俺は慌ててなだめる。
「行けないとは言ってない」
そして、バルを見る。
「バル。アンカーチャージ・ハードバレットで、先に進めるように斜めに道を作ってくれ」
バルで強制的に道を作る。
道なき道を作るのはいい。いいのだが、あまりこの方法ばかりに頼ると、まずいことになりそうなんだよな。
今回はもうしょうがないけど。
バルがアンカーチャージ・ハードバレットを放つ。
岩が砕け、崩れた山の一部に進めそうな道ができた。
俺たちはそこを進み、また道が途切れたら、バルに壊してもらう。そうやって無理やり進んでいくと、低いうなり声のような音が聞こえてきた。
「……いたか」
その先にいたのは、黒いもやがかかったゴーレムだった。
ミレイアのゴーレム。
おそらく、ゴレムンと呼ばれていたモンスターだ。
正直、見つけたからといってどうにかなるとは思っていない。そもそも、ここに来る前に戦った時、こちらはいいようにやられた相手だ。
新たに会得したハードバレットなら撃破できそうな気はする。だが、それはそれで怖い。
完全に倒してしまえば、ゴーレム自体が野良モンスターと同じように消滅してしまうかもしれない。
なんせ、今のミレイアは別のモンスターを出している状態だ。それなのにゴーレムも出ている。繋がりが消えている、と判断してもおかしくないように思う。
そう考えている間に、ゴーレムがこちらを見つけた。
巨体を揺らしながら向かってくる。
「ゴレムン、止まって!」
ミレイアが叫ぶ。
「私の言うことを聞いて、ゴレムン!」
だが、ミレイアの声掛けもむなしく、ゴーレムはこちらへ向かってくる。
「とりあえず、アンカーチャージで様子を見るぞ、バル!」
バルが動く。
ゴーレムに対してアンカーチャージをぶつけた。
最初に戦った時と同じように、ゴーレムを仰向けに転がすことには成功する。
だが、今度は少し違った。
「……起き上がるのが遅いな」
以前より、動きが鈍い。
もしかして弱体化しているのか?
この分だと、撃破すること自体はそこまで難しくなさそうだ。問題は、この黒いもやをどうすれば外せるかだ。
とりあえず、ゴーレムが起き上がるたびに、バルが胸にアンカーチャージを放って仰向けに転がし続ける。
ミレイアにも手伝ってほしいところだが、横にいるふよふよ漂っているモンスターは戦闘用ではないらしい。
何かいい方法がないか考える。
だが、あまり思いつかない。
正直、一か八かで撃破してしまえば、このもやも消えて元に戻る可能性もあるのではないか。そんな考えが頭をよぎった。
しかし、その結果の責任は取りたくない。
ミレイアのゴーレムだ。俺が勝手に決めていい話ではない。
その間も、バルはゴーレムを転がし続けている。
今のバルの様子には余裕があった。むしろ、やられた相手を何度もひっくり返せることを、割と楽しんでいるように見える。
先ほどまでやっていた飛び降り、もとい飛行訓練で、色々溜まっていたのかもしれない。
その後も、ずっと攻撃を繰り返した。
アンカーチャージを放つ。
ゴーレムが仰向けに転がる。
起き上がる。
また転がす。
だが、消滅する様子はない。
「どれだけタフなんだ?」
もしかして、この黒いもやには自動回復とかもついているのではないか。
今はまだバルが元気なので大丈夫だ。だが、ずっと攻撃を続けられるわけではない。後になれば厳しくなる。
そう思い、俺はミレイアに声をかけることにした。
悪いが、決断を迫る必要がある。
「なあ、ミレイア……」
「ええ、私もわかったわ」
ミレイアが静かに言った。
どうやら、ミレイアもこれ以上続けても効果がないことを、薄々わかっていたのだろう。ずっとは続けられない。それも理解しているはずだ。
ただ、俺がそれを決めるのは違う。
ゴーレムはミレイアのモンスターだ。俺が勝手に倒す判断をして、その結果として本当に消滅したら、さすがに責任が重すぎる。
いや、責任というより、あとから責められるのが嫌だ。
だから、俺は続く答えを待った。
決めるなら、ミレイア自身に決めてもらうしかない。
「攻撃を与えるたびに、周囲の黒いもやが減っていますね」
「……え?」
「もしかしたら、このまま攻撃し続けるだけで、この黒いもやを散らすことができるかも……」
「……そうだな!」
俺はすぐに頷いた。
「このまま転がし続けようか!」
あっぶねぇ……!
続きを聞いてよかった。
勝手に判断しなくて、本当に良かった!




