第120話 飛ぶ練習は飛び降りることだった
ミレイアの助言で、新必殺技を会得できた。
「助かった。ミレイアのおかげだ」
俺が素直に礼を言うと、ミレイアは複雑そうな顔をした。
なぜだ。
ちゃんと役に立ったのだから、もっと誇ってもいいだろうに。
アンカーチャージ・ハードバレット。
あれなら、今ならミレイアのゴーレムだって倒せるかもしれない。
とりあえず俺たちは休憩所に戻されたので、先ほどまでいた道まで戻ることになった。一度通った道だ。苦労するところはない。
そして、先ほど破壊した場所までたどり着いた。
「……思った以上に壊れてるな」
壁というより、道そのものが壊れていた。
ただ、高い壁としてそびえているよりは、崩れた分だけ登れそうな形になっている。なら問題ない。
そのまま上へ登っていく。
道がなくなったら、またバルのアンカーチャージ・ハードバレットで道を作る。
壊して、登る。
また壊して、また登る。
その繰り返しだ。
「あんた無茶苦茶ね……色々」
ミレイアが後ろから呟いた。
「何を言ってるんだ?」
俺は振り返る。
「ミレイアのおかげでできた道だぞ?」
「それを私のせいにするの?」
「実際に登れているんだから、正規ルートだろう?」
「正規とは」
ミレイアが何か言っているが、実際に進めているのだから問題ない。
道を作って進んでいるからなのか、なぜかモンスターは出てこなかった。少し不思議ではあるが、進みやすいので助かる。
そうして、道を作りながら登っていくのを繰り返す。
やがて、近くに雲が見えるくらいの場所まで来た。そこで、少し開けた場所に出る。
頂上まであと少しといったところだ。
その場所には鳥居があった。それに、リスポーン地点もある。
「こんなところにもダンジョンがあるのか……」
まずは忘れずに、リスポーン地点を更新した。
ミレイアは周囲を見回し、少しだけ満足そうに頷く。
「ここが目的地よ」
「ここが?」
「思っていたのと違う感じだったけど、たどり着けて良かったわ」
目的地は、この鳥居のダンジョンだったらしい。
特別なアイテムやモンスターでも出るのだろうか。
「この鳥居のダンジョンをクリアすればいいのか?」
俺が聞くと、ミレイアは首を横に振った。
「違うわよ」
「違うのか」
「その子は空を飛びたいんでしょう?」
「ああ」
「ダンジョンなんかクリアしたって、何も変わらないわよ」
ダンジョンを否定された。
「あなたたちに必要なのはこっち」
そう言うと、ミレイアは俺たちを崖の方へ誘導した。
崖の下をのぞく。
かなり高い。
落ちたら普通に死ぬ高さだ。
「今からその子には、ここから何度も飛んでもらいます!」
「飛ぶ?」
「正確には、何度も飛び降りてもらいます」
俺とバルは見合わせた。
どういうことだ。
続きを促すと、ミレイアは説明を続ける。
「ビッグコケコには羽があったのを覚えているわよね?」
「画像で見たな」
「その子は……球体だから今はないけど、素養はあるはず」
ミレイアはバルを見る。
「だから、ここで飛ぶ練習を積むのよ」
「それだけで飛べるようになるのか?」
「そんなことはないわよ?」
即答だった。
「でも、進化の方向性を飛ぶことができるように誘導はできるはずよ。特に、風切岳と呼ばれるここだとね」
「はっきりとはわからんが……イメージトレーニングとか、そんな感じか?」
「まあ、そんなものだと思ってもらっていいわ。本質は同じようなものだし」
「とりあえず、ここから空に向かってアンカーチャージをしまくればいいと?」
そう聞くと、ミレイアは首を振った。
「でも、飛ぶのは自力で飛ばないと意味がないわ」
「自力で」
「アンカーチャージは空を飛ぶんじゃなくて、球を発射する感じでしょ?」
「なるほど……」
確かに、それは飛んでいるというより撃ち出されているだけだ。飛行とは違う。
「ということらしいぞ、バル」
俺がそう言うと、バルは崖の下をのぞき込んだ。そして、こちらを見る。
本当に?
そんな感じで聞いてきている。
「本当かどうかはわからん」
俺は正直に答えた。
「ただ、空を飛びたいなら信じるしかないんじゃないか?」
そう伝えると、バルは少し考え込んだ。
そして、覚悟を決めたように崖の方へ向かう。
次の瞬間、飛び降りていった。
「……本当に飛んだな」
ミレイアがぽつりと言う。
「崖から飛ぶようにとは言ったけど、本当にやるとは、あの子もおかしいわね……」
「えっ? 嘘だったのか?」
マジかこいつ。
「嘘じゃないわよ」
ミレイアは呆れたように言う。
「普通は、言っても実行するには相当の信頼やら確信がないと難しいのに、ってことよ」
「なるほど」
それなら納得だ。
「まあ、俺とバルの関係だからな」
「どんな関係なんでしょうね……」
ミレイアは少し遠い目をした。
「とりあえず、ここでやることは、この崖から飛ぶことと、後は時たまやってくるモンスターを倒すことよ」
「それが俺たちのやることか」
「ええ。後は私は関係ないから、私は私のやりたいことをやるわね」
そう言い残すと、ミレイアは鳥居のダンジョンへ向かって歩いていった。そして、そのまま中に入っていく。
あのダンジョンは気になる。
だが、今はこっちが先だ。
バルの飛び降りを続けさせる必要がある。
そう考えたところで、一定距離を離れたバルが、いつものように俺の隣へ戻ってきた。
「お帰り、バル」
俺は戻ってきたバルを見る。
「戻ってきたところ悪いが、これを何度も繰り返すんだってさ」
バルの顔が嫌そうになる。
「時間も有限だから、すぐ飛んでくれ」
バルはさらに嫌な顔をした。
それでも、もう一度崖へ向かう。
そして、再び飛び降りていった。
「本当にこんなことをやって飛べるようになるのか?」
正直、疑問ではある。
「……まあ、今のところこれ以外に思いつかないけど」
そうやって、ログアウトするまで何度もバルを崖から飛ばせた。
一日中、バルを崖から飛び降りさせた。
だが、バルの体に変化は見られなかった。
変化があったとすれば、飛び降りるたびにバルの表情が死んでいったことぐらいだ。
そして、得られたものは称号だった。
『断崖の教官』
飛行能力のない、または未熟なモンスターに対し、落下を伴う飛行訓練を百回実行。
『奈落の教官』
飛行能力のない、または未熟なモンスターに対し、落下を伴う飛行訓練を五百回実行。
「……これ、本当に合ってるのか?」
俺は称号の説明を見ながら、心の底からそう思った。




