第119話 アンカーチャージ・ハードバレット
ヌルヌルを落としたミレイアとともに、風切岳まで歩いて行った。
出てくる敵は、今まで戦った敵よりも強い。だが、アンカーチャージであれば大半は一撃で倒せる。ただ、たまに倒せない敵も出てきた。
「さすが、資格がないと入れないってだけはあるな」
そうして進んでいき、ようやくお目当ての山にたどり着いた。
……と思ったのだが。
目の前にあったのは、山道というより、高い壁だった。
「道でも間違えたのか?」
俺が聞くと、ミレイアは真面目な顔で答えた。
「違うわよ。見てのとおり、目の前の壁を登っていくのよ」
「マジで?」
思わず上を見上げる。
見えるのは、ほとんど垂直に近い高い壁。
ところどころ手をかけられそうな場所はある。だが、どう見ても道ではない。
マジで登るのか?
マジで?
「登るために必要な道具とか持ってないんだけど」
俺がそう言うと、ミレイアは俺の顔を見て、急に笑い出した。
「冗談よ」
「冗談かよ」
「足りないけど、さっきの仕返しよ」
ミレイアはひとしきり笑ってから、肩をすくめた。
「登っていこうとしたら、私たちはただのモンスターの的になるわよ。私についてきなさい」
そう言って、ミレイアは壁伝いに左の方へと移動していった。
俺とバルもその後を追う。
しばらく歩いた後、ミレイアは何かの目印を見つけたらしい。そこでモンスターをゴーレムに切り替えた。
「ちょっとじっとしてて」
そう言うと、ゴーレムが俺とミレイアを掴み、上の方へ持ち上げた。
置かれたのは、三人くらいなら通れそうな細い場所だった。続けてバルも持ち上げられる。
「前にここの頂上に行こうとした時に見つけたルートよ」
ミレイアがそう説明する。
「でも残念ながら、私のゴーレムだとここじゃ戦えなくてね。この先の途中で引き返したの」
「なるほど」
正直、戦いやすい場所ではない。バルがギリギリ通れるくらいの幅しかない。
少しでも足を踏み外せば、そのまま下に落ちていきそうだし、この先もずっとこの幅で道が続いているとは限らない。
「ここからゴーレムが出せるような開けたところに出るまでは、戦闘よろしくね、助手くん」
「あれ? 話が違うような気がするんだが」
「よろしくね!」
有無を言わせる気はないらしい。
結局、バルが先頭を進んで戦う流れになった。言外に、足りない分の仕返しだから働けと言われている気がする。
まあ、色んな敵と戦うという意味でも、強くなるという意味でも、戦うこと自体は構わない。
構わないのだが、腑に落ちない。
出てくる敵は、見たことがない敵だった。岩に擬態した感じのモンスターが多い。
ただ、不意打ちを食らうとか以前に、バルが通れない場所にいる時点で邪魔だった。
「バル、アンカーチャージであの岩を壊せ」
そう指示したら、それがモンスターだった。
発覚したので、そのままぶっ飛ばす。
以降、邪魔なものは、本当に岩であろうがモンスターであろうが、アンカーチャージでぶっ飛ばして進むことにした。
もちろん、この道でアンカーチャージを放てば、バルはそのままぶっ飛んでいって見えなくなる。だが、しばらくすると俺の近くに出現するので、進行には問題ない。
その流れを繰り返しながら進んでいく。
道中は順調に上へ進んでいけた。
だが、途中で道幅が狭くなった。
バルも通れない狭さだ。
「さすがにこの先はバルが通れないんだが……」
俺は前方を見る。
「というか、これバルだけじゃなくて、普通に道がないのでは?」
ミレイアも前を覗き込む。
「見た感じ、そうね……」
「そうね、じゃないが」
「前に見つけた時は結構道幅があったから、頂上まで行けるかと思ってたのに……」
ここまで来て収穫なしは嫌だ。
どうにかできないか考える。
正攻法はなさそうだ。
なら、力技しかない。
「道がなければ、道を作ればいいじゃない」
「何を言ってるの?」
ミレイアが怪訝そうな顔をする。
俺はバルに指示を出し、壁目掛けてアンカーチャージを放たせた。
壁は削れた。
だが、削れたのはほんの少しだ。この調子だと、何度も何度もアンカーチャージを叩き込む必要がありそうだった。
これは時間がかかる。
「なあ、ミレイア」
「何?」
「ミレイアのモンスターで、俺のバルの力を強くするスキルとかないか?」
「残念ながらないわ」
ミレイアはあっさり首を振った。
「私のモンスターは、戦闘用のゴーレムと、研究のお手伝いをしてくれるこの子ぐらいよ」
思ったより役に立たないな、こいつ。
そんなことを思った瞬間だった。
「こいつ役立たずだな、とでも思ったでしょ」
「……」
「顔に出てるわよ」
そんな顔をしたつもりはなかった。だが、わかってしまうくらいには出ていたらしい。
「強くするスキルはないけど、強くする方法は思いついたんだけどなー」
ミレイアがわざとらしく言う。
「どんな方法だ?」
「教えてほしい?」
「教えてほしい」
「教えてほしければ、相応の態度ってあるわよね?」
「教えてください」
俺は即座に言った。
「というか、教えないというならここでずっと足止めか? サポートしてくれるんじゃなかったのか?」
そう言うと、ミレイアは少し面白くなさそうな顔をした。
だが、説明はしてくれた。
「私のゴーレムの拳を砕いた技があったじゃない?」
「ああ」
「アレを使って壁にぶつければ、攻撃力が上がるんじゃない?」
「いや、アンカーは弾力性がないと伸びなくて、硬質化を使うと今のように放つことができないんだ」
俺はすぐに否定する。
「それはもう試したことがある」
「……それじゃあ、放った後に硬質化を使うのは?」
「放った後に?」
「できるかわからないけど、放った後であればいいんでしょ?」
「そんなこと、指示が間に合わな……いや、待てよ」
途中で気づく。
元々、先に指示していればどうだ?
アンカーチャージだって、もともとアンカーと逆方向への突進という流れを、俺がアンカーチャージと言って指示しているだけだ。正式に覚えたスキルとは違う。
なら、新しい流れとして覚えさせればいい。
試してみる価値はある。
「バル、よく聞いてくれ」
俺はバルの前に立つ。
「アンカーチャージの時と同じように、一連の技を覚えてほしい」
バルに技の流れを説明した。
これまで通りアンカーチャージを放つ。そして、飛んでいく途中で硬質化を実行する。
とりあえず名前があった方がわかりやすい。
「この流れの技を、今後アンカーチャージ・ハードバレットと呼ぶことにする」
うまくいけば、新必殺技ができるかもしれない。
「バル!」
俺は壁を指差す。
「壁に目掛けて、アンカーチャージ・ハードバレットだ!」
硬質化するためには、少し距離が必要かもしれない。だから、先ほどまでアンカーチャージを放っていた位置よりも離れる。
バルはアンカーを使い、反対方向へ突進する。
そして、放たれたタイミングで――硬質化した。
成功したように見えた。
次の瞬間。
聞いたことがないような轟音が響いた。
先ほどまでのように、少しずつ削るのとは違う。壁に大きなひびが入り、そのまま大きな衝撃とともにぶち壊れた。
目の前の壁だけではない。その周辺までまとめて壊すほどの威力だった。
「……おお」
俺は感動していた。
ミレイアの助言を得て、バルの新必殺技を手に入れることができたからだ。
自身の放った一撃の威力に自信を得たのか、バルも上機嫌だ。
不機嫌なのは、俺とともに死んで休憩所で復活したミレイアだけだった。
あの一撃で周辺の壁も壊れたのだ。
俺たちが無事でいられるわけがない。
この結末は、当然のことだった。




