第116話 加護持ちの研究者
今、俺はミレイアと街の外にいる。
それも、結構街から離れた場所だ。
なぜこんなところまで来ているのか。理由は単純で、これからミレイアと戦うことになったからだ。
風切岳へ行く話が出た時、俺は最初、一人で行こうと思っていた。というより、ミレイアからは明らかに俺たちを利用しようとする雰囲気が出ていた。
それなら、わざわざ連れていく必要はない。
そう思ったのだが、ミレイアに止められた。
「あそこは危険区域でもあるから、勝手には入れないわよ?」
「危険区域?」
「そう。試験を受けて認定を受けるか、私のように資格保有者と一緒に行くしかないわ」
そう言って、ミレイアは前に見せた身分証とは別のプレートを見せてきた。
なるほど。
つまり、風切岳へ行くにはミレイアを連れていく必要があるらしい。
だが、それはそれで面倒だ。
「ミレイアを守りながら行くのは面倒なんだが」
俺は正直に言った。
「帰る時とかに、死に戻りで短縮とかできなくなりそうだし」
すると、ミレイアが笑い出した。
「私を守るなんてしなくていいわよ」
ひとしきり笑い終えると、ミレイアは目元を拭うような仕草をしてから言った。
「なんで私が測定器とか、研究所にある設備をあまり使ったことがないかわかる?」
「不器用だから」
俺が即答すると、バルも間髪を入れずに頷いた。
そうだろう。初対面からの言動を見る限り、機械を細かく扱うよりも勢いで何とかするタイプに見える。
「失礼ね! 違うわよ!」
「違うのか」
「違うわよ!」
ミレイアは大げさにため息をついた。
「はぁ。私も加護持ちなの」
「加護持ち?」
「それで、加護持ちの研究者がいます、となると他の人はどうすると思う?」
少し考える。
加護持ち。普通のNPCよりも強い存在。
そして、研究者。
それなら答えは一つだ。
「他の人にはできない危険な仕事を割り当てる?」
「正解」
ミレイアはにやりと笑った。
「私、結構強いわよ?」
その瞬間、目の前の女の雰囲気が変わった。
「少なくとも、あなたが参加したイベントに手加減したモンスターで参加した加護持ちよりもね」
思わず、少しだけ姿勢を正す。
さっきまでの徹夜明けでテンションのおかしい研究者とは違う。これは、戦う側の雰囲気だ。
「私の役に立つようだったら連れて行ってあげるから、使えるか見てあげる」
ミレイアはそう言って、街の外へ視線を向けた。
「ここだと色々壊しちゃうから、街の外に行くわよ」
そして、俺はバルとともにミレイアについていき、今に至る。
ちなみにバルは、この間ずっと俺の後ろにいて、ミレイアから距離を取っている。
もしかして、バルはこのミレイアの本質を本能的に悟って怖がっていたのか?
……いや、最初の出会いからアレな感じだったな。
気付け薬の件もあるし、怖がる理由は十分にある。
「じゃあ、戦い始めるわね」
ミレイアがそう言った直後、彼女の横でふよふよ漂っていたモンスターが消えた。
そして、代わりに巨大なゴーレムが現れる。
「私の戦闘用は、この重殻ゴーレムよ」
明らかに巨大で、固そうなゴーレムだった。
分厚い装甲板を何層にも重ねたような巨人。高さはバルの四、五倍くらいはある。見上げるほどの大きさだ。
「こちらから仕掛けてもいいけど、一撃で終わっちゃうと何も見れないから、攻撃を待ってあげるわ」
「言ってくれるな」
今までで一番の強敵かもしれない。
そう思い、俺は気を取り直した。
だが、そうやって余裕を持っていられるのも今のうちだ。今までそうやって余裕を見せた相手を、バルは何度も一撃で葬ってきた。
「バル!」
俺は腕を振る。
「最初っから全力でアンカーチャージだ! 胸を狙え!」
バルも全力だった。
今までで最高のアンカーチャージを放つ。
次の瞬間、聞いたことがないような衝突音が鳴った。
重い音。
硬いもの同士が真正面からぶつかり合ったような音。
バルの一撃は、重殻ゴーレムの胸をへこませた。そして、そのまま仰向けに転がすことに成功した。
「ナイスだ! バル!」
思わず声が出る。
だが、これまでの敵とは違った。
確かにダメージを受けた様子はある。胸の装甲はへこんでいる。だが、重殻ゴーレムは倒れたままでは終わらなかった。
ゆっくりと起き上がってくる。
「へぇ……」
ミレイアが目を細めた。
「六位というのも、運が良かっただけとかじゃないのね」
その声には、少しだけ感心が混じっていた。
「今度はこちらの番よ」
ミレイアが手を掲げる。
「アースインパクト!」
バル目掛けて、ゴーレムの握られた拳が落ちてくる。
このまま食らうとまずい。だが、逆に今まで使ってこなかったあの技が使えるかもしれない。
「バル! アンカーからの硬質化だ!」
バルは俺の意図を理解した。
その場でアンカーを使い、逃げずに硬質化する。
ゴーレムの一撃を、体で受け止めた。
轟音が響く。
地面が揺れた。
初めて有効に使えた気がする。そして、読み通りだった。
ゴーレムの拳に、ひびが入った。
ミレイアが驚いているのがわかる。
「バル! 今だ!」
俺はすぐに叫んだ。
「もう一度アンカーチャージで、あの拳を狙うんだ!」
だが、バルは動かなかった。
いや、違う。
動かなかったのではない。
動けなかった。
「……バル?」
今まで、どれだけ攻撃を食らっても耐えていたはずのバルが、もうやられかけの状態で動けない。
相手のゴーレムは拳にひびが入っている。だが、まだ動ける。
このままじゃ負ける。
そう考えた時、ミレイアが口を開いた。
「思った結果とは少し違ったけど、見るものは見れたから、これで見極めは終わりよ」
それは、戦闘終了の言葉だった。
俺はすぐにバルへ近づき、手当を始めた。バルはまだ動けない。さっきの一撃が、それだけ重かったということだ。
手当をしている間に、ミレイアが先ほどの戦闘について話しかけてきた。
「私のゴーレムを転がせるだけの攻撃力は凄いわね」
ミレイアは、へこんだ胸部装甲を見ながら言う。
「進化を一度しかしていない、それも家畜種なんて信じられないぐらいの強さだわ」
それから、ひびの入った拳を見る。
「アースインパクトの攻撃にも真正面から耐えて生き残っているのも、信じられないタフさね。しかも拳にひびを入れさせるなんて」
ミレイアの言葉には称賛が感じられた。
だが、これだけやられた後だと、少しむなしくも感じる。
「ミレイアって強いんだな」
俺は素直に言った。
「物理無効化の敵以外だと倒せると思ってたから、少し自信を失った」
「何言ってるのよ?」
ミレイアは呆れたように言う。
「私のゴーレムは、これでも三回進化してるのよ? 強いに決まってるじゃない」
「三回進化……」
「それを相手にして、ここまでやれるなんて相当よ?」
ミレイアは軽く笑った。
「これだけ強けりゃ、足手まといにはならなさそうだし」
そして、楽しそうに言う。
「最初に言っていた通り、ご褒美に連れて行ってあげるわ。助手として」
「助手……か」
まあ、これだけ強ければ、ミレイアを守る必要はなさそうだ。むしろ、逆に守ってもらう感じになるかもしれない。
手当が終わる頃には、バルも少し落ち着いていた。
俺はそのバルを見て、撫でながら言う。
「バル、俺たちまだまだだな」
ヴェイル以外にも、上がいる。
そのことを、はっきり認識させられた。




