第111話 合体……だと!
ダンジョンを出るまで、結構時間がかかった。
道中のゾンビ以外のモンスターは、バルが突進で全部倒した。
問題はそこじゃない。
グレイヴが滑って転ぶせいで、移動がまるで進まなかったのだ。
「だから言っただろう、他の人のことを考えろって……!」
「いや、今は反省してるって」
してはいる。
してはいるが、だからといって今すぐ消せるわけでもない。
ヌルヌルが残る以上、進むたびにグレイヴが足を取られる。
しかも、転ぶたびに微妙にこっちを見るのが気まずい。
「プレイヤーを攻撃させてリスポーン地点に戻るのがおすすめなんだが」
俺がそう言うと、グレイヴは即座に拒否した。
「嫌だよ」
「即答だな」
「レアアイテムを持ってるからね。こんなところで死にたくない」
なるほど。
それなら仕方ない。
俺だけ先に戻っても意味がないので、結局そのまま護衛しながらダンジョンの外まで出ることになった。
そして墓地の外へ出たところで、グレイヴが振り返る。
「それじゃ、非公開モードでPVPを開始するから了承してよ」
「非公開モード?」
聞き返すと、グレイヴは少し意外そうな顔をした。
「知らないのかい? 前回のイベントで経験しただろ? あれが通常のPVPでも選択できるようになったんだよ」
「なるほど」
それは知らなかった。
だが、問題はない。
俺は了承した。
「それと」
グレイヴは念押しするように続ける。
「あくまでこれは、君に死霊系と戦わせてあげるために戦うんだからね。私の残りモンスターが一体になったら、君が降参を宣言して」
「それも問題ない」
もともと、こっちの目的は勝つことじゃない。
物理無効への対策がどこまで通じるか、その確認だ。
なら、それで十分だった。
そうして、非公開モードでのPVPが始まった。
グレイヴの前に現れたのは、霧の幽霊みたいなモンスターだった。
「この子はグレイヴミスト」
グレイヴが少し誇らしげに言う。
「君が戦いたかった、物理無効のモンスターだよ。先手は譲ってあげる」
「それは助かる」
俺はすぐにバルへ向き直った。
ミルトに作ってもらった角型の武器を、頭に貼る。
全力でいくならアンカーチャージだ。
だが、いきなりこっちの全部を見せる必要もない。
とりあえず、通じるかどうかが知りたいだけだ。
「バル! 突進だ!」
バルは、尻ではなく頭に貼られたことで、目に見えて機嫌がよくなった。
やる気満々だ。
勢いよくグレイヴミストへ向かっていく。
そして、ダメージが入ったのは確認できた。
「……入ったな」
だが、結果は微妙だった。
相手が強いというならわからなくもない。
だが、バルは正直、個体としてはだいぶ強いはずだ。
一撃で吹き飛ばすまではいかなくても、相応のダメージは与えられるはずなのに、今の手応えは薄い。
グレイヴが目を細める。
「……なるほど。武器分のダメージは食らう、と」
そして、どこか満足そうに言った。
「こちらも有用な結果だったよ」
「そっちにも有用なのか」
「試したいことは、これで終わりかい?」
少し口元を上げる。
「消化不良なんだけど」
思いのほかダメージが低い。
正直、これだとヴェイルを倒す武器とは言えない。
俺はバルを手招きして、頭に貼り付けた武器を外し、今度は尻に装着した。
バルは、取り外した時に「持ってかれた」とでも言いたげに口を開けて落ち込み、その後で尻につけられて露骨に不機嫌になった。
「悪いが、最大ダメージを見たい」
このままだと微妙すぎる。
「バル! お前の力を見せてやれ! アンカーチャージだ!」
バルは露骨にため息をついた。
それでも、指示には従う。
最大火力であるアンカーチャージが、グレイヴミストへ叩き込まれた。
確かにダメージは増えた。
だが――やっぱり微妙だ。
「もしかして、物理ダメージ分はカットされて、武器分のダメージしか入ってないのか……?」
そうだとすると、正直、武器の作り直しを考えないといけないレベルだ。
グレイヴも同じようなことを思ったらしい。
「それなりのダメージは食らったけど、これだとグレイヴミストだけなら君を倒すのは難しくなさそうだね……」
そこで少しだけ表情を変えた。
「ただ、そうなってくると君は私の敵にはならなそうだし、今度はこっちに付き合ってもらえるかい?」
「いいぞ」
何をする気かはわからないが、弱点は見つかった。
協力すること自体はやぶさかではない。
なんなら、改善した後にまた戦いを挑むための貸しにもなるかもしれないしな。
「何をすればいい?」
「これから違うモンスターを出すけど、そのモンスターと本気で戦ってほしいかな」
「こっちのお願いを聞いてくれたんだ。問題ない」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って、グレイヴはさっきまでゾンビと戦っていた鎧のモンスターを出してきた。
物理があるんだから、特に問題なく倒せそうな相手だが――と思った、その直後だった。
交代した後に、先ほどのグレイヴミストがその鎧のモンスターと合体した。
「……は?」
俺は思わず目を見開いた。
霧と鎧が、一つの存在として重なる。
グレイヴが口元を吊り上げる。
「完成したのが最近なんだよね、これ」
明らかに自慢げだった。
「君の物理攻撃は効くようになってしまうけど、その分ステータスの伸びは凄いよ? 一体で二体分だからね」
「合体……だと!」
思わず声が出た。
ロマンじゃねぇか。
俺もしたい。
グレイヴが自信満々なのもわかる。
そして口ぶりからして、たぶん俺に見せたのが初めてなんだろう。
その高揚は、こっちにまで伝わってきた。
「準備はできたから、全力で来てみてよ!」
グレイヴが笑う。
「君のモンスターの実力をね」
バルを見る。
俺たちも気合が入った。
「バル! まずは全力でアンカーチャージだ!」
これまで幾度となく敵を葬ってきたアンカーチャージ。
バルの攻撃は、一撃で相手のモンスターを貫いた。
そして――
「えっ」
グレイヴの合体したモンスターはやられ、その代わりに、さっきのダンジョンでもよく見かけた大きな蝙蝠型のモンスターが現れた。
グレイヴの残りモンスターは一体だ。
「…………」
さっきまで高揚していたグレイヴの顔と、いきなり消失した合体モンスター。
その落差があまりにもひどくて、いたたまれなくなる。
だから俺は、約束通りに言った。
「降参で」
そうして、降参した。




