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第110話 俺の最低保証は変えられない

 ゾンビから逃げつつ、周りを滑りまくった。


 ヌルヌルブーツは履いていないが、既にこのダンジョンのマップは大半滑った後だ。新たにヌルヌルを生み出さなくても、移動自体はできる。


 だが、ふと思う。


「……これ、さっきまでマップ全域を滑りまくってて見つかってないんだから、これ以上探しても見つからないんじゃないか?」


 そんな気がしてきた。


 墓を壊すみたいに、何か特定条件があるとか、そういう類じゃないのか?


 そうなると、さっき会ったグレイヴを探してもう一回聞いてみるのが早いかもしれない。


「秘密秘密って言ってたし、あいつ何か隠してるんじゃね?」


 そう思って、俺はグレイヴを探しに行った。


 さっき見つけた場所まで戻る。


 だが、当然ながらグレイヴはもういなかった。


「そりゃそうか」


 同じ場所にずっといるわけがない。


 俺がグレイヴの立場なら、この戦いにくい場所であの後も戦うか? と言われたら――まあ、ないな。


 となるとどうする?


「一旦、このヌルヌルが消えるまで帰るよな」


 俺ならバルに攻撃させてリスポーン地点に戻るが、普通のプレイヤーはそんなことをしないはずだ。


 となると、ここから入り口へ向かっている可能性が一番高い。


 そう当たりをつけて、入り口の方向へ滑っていく。


 すると、見つけた。


 背中がヌルヌルになって、地面に転んでいるグレイヴを。


「ヌルヌルを楽しんでいるようだ」


 俺がそう言うと、グレイヴは地面に伏したまま、心底呆れた声を出した。


「これを見てそう思うのかい?」


「俺もヌルヌルダンジョンで十分に楽しんだからな」


 俺は胸を張る。


「俺はヌルヌルの称号持ちだぜ?」


「悪評を広げたくなかったら、そのヌルヌルを出す靴は封印することをすすめるよ」


「そこまで言うか」


 だが、言いたいことはわかる。


 グレイヴは起き上がると、服を払ってこちらを見た。


「で、どうしたんだい?」


 視線が鋭い。


「ここに留まっているということは、私に用があるんだろう?」


「まあな」


 俺は墓石からゾンビしか出ないことと、徘徊するボスモンスターも見つからないことを簡単に説明した。


 すると、グレイヴは怪訝そうな顔になる。


「死霊系はレアでもあるけど、二十個くらい破壊したら一、二回くらいは見つかるはずだよ?」


「試行回数が少ないんじゃない?」


「百個壊して全部ゾンビ系だ」


「何それ怖い」


 即答だった。


 しかも、わりと本気で引いている。


「いや、ゾンビはハズレ枠だと思うけど、それでも十回に一回くらいだよ?」


 グレイヴは眉をひそめる。


「ちょっと回数盛りすぎじゃない?」


「俺は運が悪いんだよ」


 そこはきっぱり言っておく。


「だから徘徊するボスの方に遭遇したいんだが、もしかして墓を壊すみたいに何かあるのか?」


 そう聞くと、グレイヴは黙った。


「……」


 こいつ、何か知ってやがるな。


 しばらくしてから、グレイヴは小さく息を吐いた。


「……わかった」


「お?」


「そんなに言うなら、私が墓石を壊して出してあげるよ」


「マジで?」


「それで目的を達成したら、もうこのダンジョンには来ないでくれる?」


 ボスの出し方そのものを教えてほしいところではある。


 だが、俺の目的は別にボスじゃない。


 物理無効の敵と戦いたいだけだ。


 それなら、うまくいくならそれでいい。


「わかった。頼む」


「それじゃあ数をこなす必要があるから、ちゃんとついてきてよ」


「よろしく頼む」


 そこまで言ってから、俺は一つだけ付け足した。


「ちなみに、ゾンビ系が出てきたら俺は戦わずに逃げるからな」


「は?」


 グレイヴが露骨に嫌そうな顔をした。


「完全物理で体当たりするしかないから、体に腐肉と腐臭がついて嫌がるんだよ、俺の相棒は」


 そう言うと、バルは横を向いた。


 お前、そこで目をそらすのか。


 グレイヴは深いため息をついた。


「……悪いな」


 結局、グレイヴが倒してくれることになった。


 そのモンスターを見て、俺は少し目を細める。


「鎧か」


 グレイヴのモンスターは、鎧を着たようなモンスターだった。


 人なわけはないから、スケルトンに鎧を装備させたのか、あるいはリビングアーマーとか、そんなところだろう。


 グレイヴはさっそく墓石を壊し始めた。


 一匹目、ゾンビ。


「幸先悪いな……」


 二匹目、ゾンビ。


「二回連続って珍しい」


 三匹目、ゾンビ。


 四匹目、ゾンビ。


 五匹目、ゾンビ。


「いや、五回連続はどう考えてもバグってるでしょこれ?」


「やっぱりか……」


 俺はそこで、改めて思い出す。


 俺がガチャで最低保証ばかり引くのが、ただ単に運が悪いだけだったら、別の人にガチャだけ回してもらえば済む話だ。


 だが、それで解決していないのは、もちろん理由がある。


 俺のためのガチャ、という時点で運命が決まる。


 回す時だけ親に頼んだりしたこともある。


 だが、それが結果として俺のものになる、という時点で、ガチャは俺が回したのと変わらない結果になる。


 そんな馬鹿な、と思う。


 だが、何度も現実にそうなっている。


 だから、これはまた一つ、それが可視化されただけだ。


 グレイヴは、この現象に対してゲームシステム的な何かで考えているようだった。


 だが、これは俺自身の問題だ。


「どうだ?」


 俺はグレイヴを見る。


「嘘じゃなかっただろ?」


 グレイヴはしばらく黙っていたが、やがて諦めたように肩を落とした。


「……はぁ。わかったよ」


「お?」


「ボスの情報は渡せない」


 そこはやっぱりか。


「でも、ちょうど夜の時間だ。ここじゃ戦いにくいし、ダンジョンの外で私の死霊系と戦わせてあげるよ」


「マジか」


 少し予想はしていたが、やっぱり死霊系を持ってるのか。


 それはありがたい。


 ボスの情報を頑なに渋っているってことは、何かしらメリットがあるんだろうことも想像はつく。


 だが、正直ここで無為に時間を過ごすのは勘弁してほしい。


 戦わせてくれるなら、それで十分だ。


「でも約束して」


 グレイヴの声が少し低くなる。


「私のモンスターの情報については広めないって。広まってたら、君が原因だとわかるからね」


「もちろんだ」


 そこは即答した。


 そもそも俺に、べらべら話す相手なんていない。


 約束自体は何の問題もない。


「それじゃあ、外に出るよ?」


 グレイヴは軽く振り返る。


「私はせいぜい、ヴェイルのジェルベアを倒した実力でも見せてもらうよ」


「……ん?」


 俺は少し眉をひそめた。


 俺のことは話してなかったはずだが。


「お前、俺のこと知ってたのか?」


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