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第109話 死霊系は普通には遭遇しない

 ゾンビ系からは逃げつつ、他の敵と戦いながら物理無効の敵を探していく。


 だが、やってみてまず思った。


「ここの敵、やっぱり弱いな……」


 アンカーチャージなんて使う必要もない。


 突進だけで大体片が付く。


 ダンジョンのはずなんだが、そこらのフィールドと変わらない感じなのは、ちょっと首をかしげるところだった。


 それでも、俺はヌルヌルブーツで移動しながら墓地の中を探し回る。


 移動そのものは速い。


 かなり速い。


 だが――


「いねぇ!」


 肝心の敵がいない。


 出てくるのは骨か、蝙蝠か、たまにゾンビ系くらいだ。


 物理無効っぽい感じの死霊系が全然出てこない。


「来た道かどうかは、ヌルヌルがあるかどうかで判断できるから、大体の所は回ってると思うんだけどなぁ……」


 本にも出現するとは書いてあったはずだ。


 なのに、それらしいやつが一体も出てこない。


「もういっそのこと、このマップ全体をヌルヌルで埋めるか?」


 思わずそんなことまで口に出る。


 称号とか手に入りそうな気がする。


 いや、絶対ろくでもないやつだろうけど。


 そう愚痴っていると、奥の方から戦闘音が聞こえた。


「ん?」


 俺以外に、このダンジョンで戦っているやつがいるのか?


 少し近づいてみる。


 すると、そこには大量のモンスターに囲まれているプレイヤーがいた。


 骨系ばかりだ。


 ゾンビじゃない。


 それなら特に問題はない。


「助けはいるか?」


 いきなり勝手に助けて、余計なことを、とか言われるのも面倒なので、先に確認だけ入れる。


「助けてくれ!」


 相手は即答だった。


 なら遠慮はいらない。


「バル、いくぞ」


 周りのモンスターを片っ端から倒していく。


 そうして囲みを崩すと、相手はようやく息をついた。


「ありがとう、助かった……。俺はグレイヴ」


「どうも」


 見た感じ、普通のプレイヤーだ。


 だが、こっちを見たあとで、少しだけ眉をひそめた。


「いつもなら囲まれるようなことにはならないんだが、今日は地面に滑る液体のようなものが撒かれていて足を取られたんだ」


「それは災難だったな」


 そう返しながらも、内心ではちょっと気まずい。


 なにせ、その滑る液体のようなものの発生源は、たぶん俺だ。


「他の人のことを考えて欲しいものだ」


 グレイヴがそう言いながら、俺の足元を見た。


 もちろんヌルヌルブーツだ。


 俺が移動した場所には、しっかり滑る液体が残っている。


「確かにそうだな」


 俺はそれだけ返して、そのまま話題を変えた。


「ところで、こんなダンジョンで何をしているんだ?」


 少し周囲を見回す。


「あまりメリットがなさそうなダンジョンだけど」


「これだけ目で言っているのにスルーするのかい!?」


「……悪かったよ」


 流石にまずいかと思って、俺は普通の靴に履き替えた。


「これでいいか? すまんかったな。こんなダンジョン、好き好んでいるやつなんていないかと思って、他の人への影響は考えてなかったんだ」


 グレイヴは少しだけ呆れたような顔をしたが、すぐに肩をすくめた。


「……まあ、確かに私以外にこのダンジョンにいる人は珍しいよ」


 そこで一息つく。


「とりあえず、助けてくれた分は、加害者でもあったんだから貸し借りなしで」


「おっけー」


 それなら話が早い。


「ところで、なんでこんなダンジョンに?」


 今度はこっちから聞く。


「俺は進化のために、色んなモンスターを倒す目的で来たんだが」


「そりゃあ、強くなるためさ」


 グレイヴはわりとあっさり答えた。


「私のモンスターはちょっと特殊なタイプでね。ここだと都合がいいんだ」


「特殊ってどういうことだ?」


 そこは気になる。


 だが、グレイヴは首を振った。


「それは秘密だよ。べらべら喋るつもりはないさ」


「まあ、そりゃ当然か」


 バレたら真似されて、優位性がなくなるもんな。


 真似できるかどうかは別として。


 グレイヴはそこで、今度はこっちの足元を見た。


「ところで、この地面にある滑る液体は消えるのか?」


 俺は少し迷った。


 喋っても問題はない。


 だが、ある意味こちらの優位性が減る可能性はある。


「それは秘密だな。俺もただで喋るつもりはない」


 そう返すと、グレイヴはじっとこちらを見た。


「……私の秘密と、この他人に迷惑をかける滑る液体が消えるかを話さないのは違わないか?」


「うっ」


 正論だ。


 その圧に耐えきれず、別に大した情報でもないので、俺はゲロった。


「数時間後に勝手に消えたはず」


 拠点でも、次の日にログインしたら消えていた。だから勝手に消えるはずだ。


「数時間もかかるのか……」


 グレイヴは露骨に嫌そうな顔をした。


 イベントならともかく、今は普通にプレイ中だ。


 別に俺も愉快犯ではないので、その反応を見ると少し申し訳なく思う。


 思っただけだが。


「ところで」


 せっかくなので、俺は本題を聞くことにした。


「ここに物理攻撃が無効な敵がいると、図書館の本に書かれていたんだが見かけないんだ。どこにいるとか分かるか?」


「それも秘密かな?」


 グレイヴはにやっと笑う。


「本に書かれていないような情報だよ?」


「なるほど……」


 まあ、俺がこいつでもそう答えるな。


 だが、グレイヴはすぐに肩をすくめた。


「なんてね」


 少しだけ表情を緩める。


「一応、原因は君自身ではあったにせよ、助けてもらったのは事実だし」


 そのうえで、淡々と続けた。


「まあ、それぐらいだったら教えてあげるよ。目的を終えるまで、君はこのダンジョンにいて邪魔になりそうだし」


「言い方」


 とは思ったが、教えてくれるなら文句はない。


「死霊系は普通には遭遇しないよ」


「は?」


「ここら辺って墓石があるだろ?」


 グレイヴが周囲を指さす。


「あれを壊せば、ゾンビ系かスケルトン系か死霊系がランダムで出てくるよ。他には徘徊型のボスだね」


「なるほど」


 どおりで見かけないはずだ。


「ありがとう。このまま戦えないままだったわ」


 感謝を伝える。


 ちょうどこの辺りの墓石は、既にグレイヴが壊した後らしい。


 なので、俺はそこでグレイヴから離れた。


「ここは壊してもトラップじゃないのか……?」


 いや、モンスターが出るんだからトラップか?


 まあ、どっちでもいいか。


 とりあえず、目についたあの墓石を壊す。


 壊れて出てきたのは、ゾンビだった。


「違う」


 俺たちは逃げ出して、別の墓石を壊す。


 ゾンビだった。


 さらに別の墓石を壊す。


 ゾンビだった。


 また壊す。


 ゾンビだった。


「……えっ?」


 思わず声が漏れた。


「嘘だろ? この引き」


 墓石ごとに出るものが決まってるんじゃなくて、ここも普通に確率だろ、これ。


 教えてもらったはいい。


 だが、こうなると徘徊しているらしいボスモンスターを探すしかないんじゃないか?


 嫌な予感がしてきた。


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