第108話 ヌルヌルブーツの使い道
もう一度ダンジョンに入る前に、バルと話し合うことにした。
ゾンビ系を倒した後に毎回スタート地点へ戻されるのは困るからだ。
「どうしてこのリスポーン地点に戻されたかわかっているな?」
俺はバルに向かって言う。
「今度ゾンビ系を倒しても、俺に擦り付けようとするなよ?」
バルは、こっちの言葉自体は大体理解している。
だから、口で説明して納得してもらえれば、なんとかなると思っていた。
だが――バルはあろうことか、頷く仕草をしなかった。
それどころか、お前も味わえ、とでも言いたげに、むしろ否定した。
「……おい」
つまり、こいつは少なくとも一回は俺に擦り付ける気でいるらしい。
そうしないと気が済まないのか。
「こりゃ駄目だな……」
俺はどうにかできないか考えた。
戦闘が終わるたびに毎回拭くか?
いや、そもそも拭くようなものを持っていないし、俺だって触りたくない。
考えた末、結局まともな案は出なかった。
「……しょうがない」
そうして、俺は別方向から解決することにした。
「わかった。腐肉系のモンスターが出た時は戦わず逃げよう」
その答えに、バルも少し意外だったらしい。
一拍置いてから、頷いた。
お目当ての素材があるわけでもないし、何が何でも倒さなきゃいけない相手じゃない。
敵は腐肉系以外にもたくさんいるんだ。
だったら、特定のモンスターとだけ戦わなければいい。
そして、逃げるための新兵器は既にある。
「ヌルヌルブーツだ」
街中では使えなかったが、ダンジョン内なら大丈夫だろう。
他のプレイヤーの邪魔になるかもしれないが、今のところ他のプレイヤーは見ていない。
ここも不人気ダンジョンっぽいしな。
敵は強くないし、ドロップも微妙そうだし、物理型だったら腐肉系のモンスターの腐臭でそもそも入りたがらないはずだ。
そう判断して、俺はダンジョンの中に入ってからヌルヌルブーツを履いた。
拠点では使っていたが、ダンジョンで試すのは初めてだ。
ここは洞窟と違って広い。
だから、モンスターを避けるのも難しくない。
しかも、ヌルヌルブーツでできたヌルヌルに乗って、バルも一緒に移動できる。置いていく心配もない。
戦う時だけヌルヌルを無効化すればいい。
「それに」
昨日試しているうちに、一ついい方法も思いついた。
早速、骨系モンスターを見つける。
「お前はスケさんだ」
仮名をつけた。
深い意味はない。
そのスケさん相手に、まずはヌルヌルブーツで周囲をぐるっと一周する。
モンスターの周りを囲むように、円の軌道を描いて、その外側で戦闘開始だ。
開幕すぐに突進で倒せる相手ではある。
だが、今回は実験を優先する。
バルには、その場で待機と言ってある。
スケさんは、円の外側にいるバルを攻撃しようとして向かってくる。
そして、その途中にあるヌルヌルへ足を取られた。
滑る。
転ぶ。
「よし!」
思った通り使える。
ヌルヌルの床は、敵にとってもしっかり妨害になるらしい。
「バル、もういいぞ。突進だ」
あとはいつも通りだ。
一撃でスケさんを倒す。
「悪くないな、これ」
ここのモンスター相手にわざわざ使う必要はない。
だが、広いマップで戦う時には、この戦法はかなり使える。
あのヌルヌルダンジョンに行って、さらに称号まで手に入れたプレイヤーなんて少ないだろうし、地に足がついてさえいれば、大半の相手には通じるんじゃないか?
「新たな強武器を手に入れてしまったな!」
ヌルヌルブーツの力を確認できて満足した俺は、周りを見回した。
ヌルヌルが巻き散らかされた地面。
バルも下の部分はヌルヌルだ。
そして、相手もヌルヌルになっている。
「……強いが」
少し間を置く。
「絵面は最悪だな!」
そこだけは、どうしようもなかった。




