第102話 新種ではありませんでした
てっきり研究所というぐらいだから、何か怪しいところにでもあるのかと思っていた。
だが、実際は図書館の場所からそう離れていないところにあった。
「意外と近いな」
病院みたいなものを想像していたが、見た目は窓がない少し大きな建物、という程度だった。
違うと言えば、研究所というだけあって、入る時に研究員のカードが必要だったことくらいか。
ミレイアに導かれて中へ入る。
すると、中にはよくわからない何かを計測する機械と、書類が入っていそうな棚、それから机なんかが並んでいた。
「……それっぽいな」
図書館よりは、よほど研究所っぽい。
中にいた研究員たちは、俺たちが入ってきたことに気づくと、手を止めてこちらを見た。
そして、その視線はすぐにバルへ集まる。
次の瞬間だった。
俺の後ろにいたバルへ、ミレイアがまた抱きついた。
「この子は私が捕まえてきたんだから、私のよ!」
「いや、違うだろ」
何をどう解釈したらそうなるんだ。
だが、周りの研究員たちはもう慣れているのか、ミレイアの奇行そのものにはあまり驚いていなかった。
代わりに、怯えているバルを見て、ひとりの男の研究員が眉をひそめる。
「その子は怯えているようだが?」
落ち着いた声だった。
「満足に調べることはできるのかね?」
ミレイアはすぐに言い返す。
「私だってできるわよ! それに私が手伝おうとしたら拒否するじゃない!」
「それは君が、ここの測定器を満足に使ったことがないからさ」
男の研究員は容赦がなかった。
そのうえで、今度は俺の方を見る。
「君も、ミレイアにいきなり連れてこられたのだろう?」
「まあ、そんな感じだな」
「調べるなら、私たちに任せた方がいいと思うが……今なら手が空いている。どうかね?」
ミレイアがこっちを見た。
断ってほしそうな顔だった。
なので、俺は一度ミレイアに向かって「わかっている」とだけ頷いてから――
「ではお願いします」
そう答えた。
ミレイアは「なんで!?」とでも言いたげな顔で固まった。
裏切られた、みたいな顔だった。
そりゃそうだ。
だが、当然だろう。
満足に測定器とやらを使えないやつに任せる馬鹿はいない。
別に俺は、ミレイアに調べてほしいわけじゃない。
バルを調べてほしいんだ。
だったら、より問題がなさそうな方を選ぶのは当然だろう。
「ほら、バル」
俺はバルへ向き直った。
「この研究員たちに調べてもらえ」
バルは少し警戒していたが、俺の指示には従った。
研究員の男は満足げに頷く。
「任せたまえ」
その声とともに、バルへの調査が始まった。
メジャーを取り出して大きさを測る。
体重を測る。
よくわからない器具に繋ぐ。
唾液を採取する。
見ているだけでも、かなり本格的だった。
その横には、ふてくされたミレイアがいる。
「私が連れてきたのに……」
まだ言っている。
だが、そんなミレイアにも仕事は回ってきたらしい。
他の研究員から紙とペンを渡され、「よろしく」とだけ言われて、そのままこっちへ向き直った。
「薄情者に、あの子のことを聞きますので、正直に答えてください」
「誰が薄情者だ」
とは思ったが、ふてくされてはいても仕事はするらしい。
そこはちゃんとしているのかもしれない。
どうやら、バルのこれまでについて聞きたいらしいので、わかっている限り答えることにした。
「卵を破壊しまくった!?」
ミレイアが紙に書きながら叫ぶ。
「なんて非道な行いを……」
「いや、結果としては孵ったし」
「他の技は普通ですが、アンカーなんてスキルは初めて聞きますね」
「こっちだって最初は意味わからなかったよ」
「進化して巨大化してこの姿……ですか」
「そうだな」
「この間のイベントを一体で六位の成績に!?」
ミレイアの目が輝く。
「やはりレアモンスターでしょうか?」
「そうだといいんだけどな」
「えっ、餌がいくらでも食べることが――」
そこまで言いかけたところで、別の研究員の声が飛んだ。
「唾液からマッチングするモンスターが判明した!」
その一言で、場の空気が一気に変わった。
全員の目が、そちらへ向く。
俺もすぐにそちらへ向かった。
もともと俺が知りたかったのは、なんのモンスターなのか、そこなのだから。
「なんのモンスターだったんだ? 教えてくれ」
バルも、色々調査されてぐったりしている状態ではあるが、目だけはそちらへ向いている。
研究員は、少し間を置いてから答えた。
「……この子は、家畜種コケコの進化後の、家畜種ビッグコケコだ」
「…………は?」
俺が何か言うより早く、研究所の空気が変わった。
さっきまでテンション高めだった連中が、一転して興味を失ったかのように解散し始めたのだ。
露骨すぎる。
ミレイアも呆然としている。
「そんな……!」
バルを見ながら、信じられないという顔で言う。
「これが新種じゃなくて、どこにでもいるビッグコケコ?」
バルは、周りの様子がよくわかっていないようで、研究者たちの反応を順に見ていた。
だが、俺にはわかった。
判明した結果は、あまりよろしくない反応なのだと。
「バル……」
思わず小さく呟く。
「お前、家畜だったのか?」




