第101話 新種だーーー!!!!
なぜヴェイルが、俺が探していたモンスター図鑑を読んでいたのかはわからん。
だが、ちょうどいいので、そのまま窓際の椅子があるところへ移動して、バルを調べることにした。
とはいえ、正直、バルと同じモンスターがそのまま載っているとは考えていない。
今のバルは、生まれる過程も進化の仕方も普通じゃない。
だから、図鑑にある何かに完全一致する、というよりは、それらしい系統を探すしかないだろう。
「さて……」
まず、昆虫系統はない。
バルに硬い殻っぽいものとか、節だった構造とか、そういうのはないからだ。
そして、水棲系統でもないだろう。
水の中で普通に溺死していたしな。
完全物理というところから考えて、精霊とか幽霊とか、そういうあやふやなものでもないはずだ。
龍系ならちょっと嬉しいが、鱗もないので違うだろう。
そうやって、なさそうなものを順に抜いていく。
「やっぱ肉弾戦か……」
そうなると、一番あり得そうなのはやはり肉弾戦主体の系統だ。
そして、巨大化したという点まで考えると、獣系統が近い気がする。
「……とりあえず獣系統から見るか」
そうして当たりをつけて探してみる。
だが、どれもいまいちピンとこない。
似ているようで違う。違うようで、そもそもバルに特徴が少なすぎて判断材料にならない。
感想としては、今まで会ったことのないモンスターも多いんだな、というくらいだった。
図鑑としては面白い。
でも、今欲しいのは面白さじゃなくて答えだ。
俺はちらりとバルを見る。
巨大な球だ。
「特徴が……ない!」
思わず小さく声に出た。
いや、球という特徴はある。あるんだが、それは俺が原因でそうなった部分が大きいから、種族的な特徴と呼んでいいのか怪しい。
それを除いたら、あえて言うなら――
「特徴がないのが特徴って、どうやって調べろっていうんだよ……」
頭を抱えたくなる。
そんな俺をよそに、バルは気楽なものだった。
俺が本を読んでいる間、することがないからか、窓から差し込む光の温かさにあてられて、その場で寝ている。
「待機モードか、お前は」
ゲーム的に言うなら、そういう感じなんだろうか。
お前の進化のことを調べている最中だというのに、その態度はどうなんだ。
見つからない苛立ちもあって、少しだけ悪戯したくなってくる。
「……ちょっとぐらいいいか?」
そう思って、バルの口を手で塞ぐとか、その程度の悪戯でも仕掛けようかと手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
「新種だーーー!!!!」
「うおっ!?」
後ろからいきなり声が飛んできた。
次の瞬間、白衣をまとった女性がバルに抱き着いた。
「……は?」
バルはいきなりのことで戸惑っている。
いや、戸惑っているのは俺も同じだ。
なんだこいつは。
しかも、頭上に名前が表示されていない。
ということはNPCなんだろうが、それにしても登場の仕方がだいぶおかしい。
俺はとりあえず、その女性の肩を叩いて離れるよう促した。
すると、ようやく自分が奇行に走っていたことに気づいたのか、少し慌てた様子で離れてくれた。
「申し遅れました」
女性は勢いを殺しきれていない声のまま、びしっと姿勢を正した。
「私、モンスターの研究を行っている研究者の一人で、ミレイア・ノクスです」
目の前の女性は、自己紹介をしたかと思うと、その流れのまま、いきなりバルをくれと言ってきた。
「俺の唯一の相棒をやるわけないだろ」
即答だった。
何を言っているんだ、この女は。
このテンションに負けたのか、いきなり抱きつかれたからか、バルは怖がって俺の後ろに隠れている。
そこまで露骨に嫌がるのも珍しい。
「すみません。気がはやりました」
ミレイア・ノクスはすぐに言い直した。
「言葉が足りませんでしたね。その子を調べさせてほしいだけです。少しお力を貸していただきたいなと」
「……そんな感じだったか?」
怪しい。
ものすごく怪しい。
だが、こいつはさっき、新種だと言っていた。
ということは、少なくとも図鑑に載っているモンスターを一通り把握していないと、その言葉は出てこないよな。
そして、俺がこのまま一人で図鑑を見ても、バルのことはわからなさそうだということも、もう十分わかっている。
「俺も今ちょうどバルのことを調べてはいる。なので、調べてもらうのはこちらにとっても都合はいい。だがお前は怪し――」
「調べさせてくれるんですね!! ではこちらに来てください!」
最後まで言わせず、いきなり手を掴まれた。
「うおっ」
そのまま引っ張られる。
どんどん先へ進もうとしていて、一瞬あっけに取られたが、流石に俺の方が力は強い。その場に踏みとどまった。
「だから、お前が怪しいからついていきたくないんだって!」
ようやくこっちの言っていることを理解したのか、ミレイア・ノクスは白衣のポケットから一枚のカードを取り出して見せてきた。
そこには、ミレイア・ノクスの名前と、東方魔物研究院所属と書かれていた。
「これでどうです?」
自信満々に胸を張る。
「怪しくないですよね?」
「いや、行動は怪しいだろ」
所属はまともそうでも、行動が怪しすぎる。
だが、ミレイア・ノクスは構わず続けた。
「それに、今気づきましたけど、手に持っているモンスター図鑑の作者を見てください」
「この本の作者?」
言われて本の後ろを見る。
すると、共著のひとりにミレイア・ノクスの名前があった。
「……あ」
たしかに書いてある。
さっきまで怪しい女だと思っていた相手が、いきなり本の著者欄に載っていると、流石に反応に困る。
「これで問題は解決しましたね!」
本人だけが勢いよく話を進める。
「では東方魔物研究所へ!」
本を出していて、しかも図書館に納品までされているということは、少なくとも完全に怪しい相手ではないのだろう。
そこは納得した。
俺は持っていた本を本棚へ戻す。
そして、ミレイア・ノクスについていくことにした。
バルは俺を壁にするように、ぴったり後ろへ隠れたままだった。




