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第100話 知識は力よ?

 ここが図書館か……。


 目の前には、大きな建物が立っていた。


 外から見ただけでも、それなりに立派だ。今まであまり縁がなかった場所だけに、少しだけ場違い感がある。


 とりあえず中へ入る。


 受付で利用料金を聞かれて、一瞬身構えたが――


「1,000モルです」


「……よかった」


 思わず小さくそう漏れた。


 拒否されない。


 たぶん、売買じゃなくて利用だからだろうな。


 これではっきりした。物品のやり取りがないものなら、俺でも普通に使えるらしい。


 金を払って中へ入る。


 すると、そこには大量の本棚が並んでいた。


「うわ……」


 思った以上に本が多い。


 どこから探せばいいのかわからない。


 片っ端から見ていけばそのうち当たるのか? と思ったが、よく見ると本棚の横にジャンルが書かれていた。


「宗教……歴史……商業……農業……」


 まあ、その辺はわかる。


 図書館っぽい。


 だが、次に目に入ったものに思わず眉をひそめた。


「名店リストに、美味しいお店……?」


 図書館の意味を間違ってないか?


 いや、情報の集積場所としては間違ってないのかもしれないが、想像していたよりだいぶ俗っぽい。


 とりあえず、奥の方へ行く。


 そっちには、この世界特有っぽい分類が並んでいた。


 ダンジョン。

 育成論。

 伝説。


「この辺だろうな」


 モンスター図鑑も、おそらくこの近くだ。


 そう思って探し始めた、その時だった。


「……なんでお前がここにいるんだ?」


 ヴェイルがいた。


 本を手にして立っている。


 まるで最初からそこにいたみたいな顔で、普通に本棚の前にいた。


 こっちに気づいたのか、ヴェイルは本を閉じて、一言だけ言った。


「知識は力よ?」


「まだ何も言ってないんだが」


 なのに、妙に答えっぽいことを先に言われた。


 しかも、いかにも自分は正しい場所にいる、みたいな顔をしているのが腹立つ。


 ヴェイルはそのまま、少しだけ口元を歪めた。


「それで、私をハメたあなたはここに何をしに来たの?」


 本気で怒っている感じではない。


 だが、言い方にはちゃんと棘がある。


 まあ、そりゃそうか。


 最後は実質こっちが誘導したような形だったしな。


「ちょっとバルの進化方法を探していてな」


 そう答えると、ヴェイルはバルを見た。


 そして、小さく首を傾げる。


「進化したじゃない」


「バルの望む進化じゃなかったんだ」


 俺がそう返すと、バルはヴェイルから不機嫌そうに顔をそむけた。


 相手に言われると腹立つらしい。


 ヴェイルはそんなバルを見ても特に気にした様子はなかった。


「まあいいわ。あなたの勝手だしね」


 そう言ってから、少しだけ目を細める。


「でも、私に負けたのに、そんな悠長なことしている暇はあるの?」


 そこで俺は、わりと自信満々に答えた。


「もちろんあるさ」


 ヴェイルの視線を正面から受ける。


「お前への対策は、既にできたからな」


 ヴェイルは不敵に笑った。


「じゃあ、せっかく会ったことだし、今から見せてくれるのかしら?」


 その言葉と同時に、ヴェイルのモンスターである炎の精霊が前へ出てきた。


 相手は楽しそうな顔をしている。


 完全に煽ってきてるな、これ。


 負けた借りは返したい。


 それは本音だ。


 だが、ここで勝っても得るのは達成感だけだ。


 イベントでもない、報酬もない、ただの意地の張り合いで切り札を見せるのはもったいない。


「いや、遠慮しておく」


 俺は首を振った。


「ただ戦うだけだともったいないだろ?」


 少しだけ笑う。


「次のイベントまで楽しみに待っとけ」


 ヴェイルは、少しつまらなさそうな顔をした。


 だが、それ以上しつこく迫ってくることはなかった。


 その代わり、こっちへ歩いてくる。


「そう」


 短く言って、そのまま俺の前まで来る。


「それなら、はいこれ」


 差し出されたものを、反射的に受け取る。


「……ん?」


 見れば、それはモンスター図鑑だった。


 俺が探していたまさにそのものだ。


 ヴェイルはもう興味を失ったみたいに背を向けながら言った。


「それじゃあ、次のイベントを楽しみにしておくから」


 少しだけ振り返る。


「せいぜい前回みたいに楽しませてね」


 そう言い残して、ヴェイルは去っていった。


 俺は手元の本を見る。


 受け取った本は、やっぱりモンスター図鑑だった。


「……なんであいつがモンスター図鑑を?」


 なんで持ってる。


 なんで今渡してきた。


 首をかしげるしかなかった。


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