第99話 君はモンスターかい?
バルを連れて、レーニーのいるトレーニング施設へ向かった。
まずは一通り鍛錬させる。
最初からレーニーへ話しかけてもよかったんだが、また別のやつが先に話していたし、鍛錬の後でいいかと思ったからだ。
「先にやることやっとくか」
そういうわけで、いつものようにトレーニングを始める。
バルを走らせる。
打ち込ませる。
ついでに俺も一緒に走る。
俺もついでに打ち込む。
周りのNPCは、相変わらず引いているように見えた。
まあ、いつものことだ。
今さら気にしても仕方ない。
「おら、バル、もう一本!」
バルもバルで、やる気はある。
進化のことを聞きに来たとはいえ、鍛えること自体に損はない。むしろ、こういうのは積み重ねだ。
そうして一通り終えた頃には、さっきまでレーニーと話していたやつもいなくなっていた。
「よし」
今なら空いている。
俺はそのタイミングを見計らって、レーニーの方へ向かった。
「ちょっとバルについて聞きたいことがあるんだが、今いいか?」
そう声をかけると、レーニーは俺を見た。
……なんか、目が冷たい気がする。
嫌な予感がした。
「さっきから見ていたが」
レーニーは落ち着いた声で言った。
「君はモンスターかい?」
「……は?」
何を言っているんだ、こいつは。
「俺がモンスターにでも見えるというのか?」
そう返すと、レーニーは腕を組んだまま平然と続ける。
「ここはモンスター専用のトレーニング施設だ」
「そうだけど」
「では、それを利用している君はなんだと思う?」
「……」
言い方が悪い。
いや、理屈としてはわからなくもないが、納得はできない。
「鍛えるためにまた来ますって前に言ったじゃん」
そう言うと、レーニーは即答した。
「覚えているよ?」
そのまま、微妙に言葉を区切る。
「モンスターを鍛えるために来るのは歓迎するよ、とは」
「いや、あれは自分を鍛えるためにまた来ますって言ったんだ」
そこでレーニーは、胸の前で組んでいた腕をほどき、頭に手をやった。
露骨に頭痛がしてきたみたいな反応だった。
「モンスターと一緒に訓練なんて、接触で死んでしまう危険性があるから禁止だ」
「……」
「そもそも、自分を鍛えてもしょうがないだろう」
いや、俺には効果ありそうなんだけど。
実際、前に称号で身体能力上がったし。
たぶん鍛えたら鍛えた分だけ伸びる余地はある。
あるとは思うが、今ここでそこを押しても話が長くなりそうだ。
「まあ、そんなことより」
俺は強引に本題へ戻した。
「物理無効化に対抗する手段はどうにかなったから、元々の目的だったバルの進化について聞きたいんだ」
レーニーの顔が、少しだけまともな方向へ戻る。
「これ以上の先の進化はあるのか、とか」
俺は指を折るように言った。
「同じように色んな敵と戦えばいいのか、とか」
レーニーはおもむろに息を吐いた。
さっきまでの呆れ半分の空気を一度切り替えるように。
「進化について説明しよう」
「おう」
「基本的には、色々な敵と戦い、経験を積めば進化できるというのは間違っていない」
そこはやっぱりそうらしい。
ガルディーノから聞いた話とも一致する。
「色んな経験を積むことで、それに対応しようとした結果が進化だからな」
「なるほど」
今のバルの進化も、そういうことだったのだろう。
イベントで色々やった。
戦った。
食った。
その結果が、あの巨大化だ。
……最後の部分が余計な気もするが。
レーニーはそのまま続けた。
「そして、進化後のモンスターがさらに進化するかと言われると、Yesだ」
「おお」
そこは素直に嬉しい。
やっぱり一回で打ち止めとは限らないらしい。
「ただし」
そこでレーニーは釘を刺す。
「進化については、よくわかっていないことも多い」
「まあ、だろうな」
「それ以外にも、特殊な方法で進化するモンスターもいるようだ」
「特殊な方法?」
そこは少し気になった。
だが、今の段階で具体例が出るわけでもなさそうだ。
俺はすぐに本題へ戻す。
「バルについてはどうだ?」
レーニーは、改めてバルを見た。
じっと見る。
少し目を細める。
その視線には、前に見た時と同じような、理解しきれないものを見る感じが混じっていた。
「正直」
レーニーはゆっくりと言った。
「個体としては、私の目がおかしいのではないかと思うほどに強いことはわかる」
「それはわかるのか」
「わかるとも」
そこは断言された。
「だが、進化と言われても、すべてのモンスターを把握しているわけではないからな……」
そこで少しだけ困ったように首を振る。
「それこそ、図書館のモンスター図鑑などを見た方が情報を得られるんじゃないか?」
「図書館があるのか」
そこは初耳だった。
いや、よく考えればあってもおかしくはない。だが、今まで用事がなかったから意識していなかった。
「ある」
レーニーは頷く。
「モンスターの情報を調べたいなら、私よりそっちの方が向いているかもしれない」
「なるほどな」
トレーナーとしての知識と、図鑑としてまとまった知識は別ということか。
それなら、進化の細かい情報を図書館で調べろと言うのもわかる。
俺はそのままレーニーに図書館の場所を聞いた。
位置関係をざっくり頭に入れて、トレーニング施設を後にする。
「ありがとう」
去り際に言う。
「また鍛錬に来るよ」
すると、レーニーは即座に返してきた。
「自分自身を鍛えたければ、次からは人間用のトレーニング施設に行きなさい」
「まだそこ引っかかってるのかよ……」
思わず小さくそう漏らしたが、レーニーの顔は本気だった。
どうやら、そっちの認識だけは最後まで修正できなかったらしい。
まあいい。
進化についての手掛かりは得た。
次は図書館だ。




