表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/74

第10話 初めてのPVP、売られた喧嘩は買ってやる

 世界観に似つかわしくもないエレベーターで地上へ戻ると、俺は大きくため息をついた。


 なんだろう、この徒労感は。


 秘密のダンジョンだと思って入った先で待っていたのは、お悩み相談室と説教だった。何も得るものがなかったとは言わない。少なくとも、この世界の普通の人間にモンスターをけしかけたら普通に犯罪者になる、という知識は手に入った。だがそれだけだ。


 しかも、あの場所を紹介してきたやつには仕返しもできない。


 それをしたら俺が犯罪者になるのだから、余計に腹が立つ。


「はぁ……」


 またひとつ息を吐く。


 そんな時だった。


「だからぁ、れいにゃはそういうの、困るんだよぉ」


 間延びした声が耳に入った。


 見ると、少し離れたところで女性プレイヤーが男性プレイヤーに絡まれていた。頭上の表示を見るに、男はレグルス、女はれいにゃらしい。女のほうは明らかに嫌がっている。口調は妙にのんびりしているが、拒絶自体ははっきりしていた。


 だがレグルスのほうはまるで聞こえていないみたいにしつこい。


「大丈夫だって。こういう世界だしさ、れいにゃみたいな子は危ない目にも遭いやすいだろ? だから俺が守ってあげるって言ってんの」


「れいにゃはそういうの求めてないんだよぉ」


「遠慮しなくていいって。俺の力、ちゃんと見せてあげるからさ」


 ……なんか、面倒そうだな。


 そう思った俺は、その場を立ち去ろうとした。


 別に正義感がないわけじゃない。だが、さっきまで変な場所で変な説教を食らってきたばかりだ。これ以上、厄介ごとに首を突っ込みたくない。


 すると、そのレグルスの方がこっちに気付いた。


「おい、邪魔すんじゃねぇよ」


「いや、してないけど」


 そもそも俺は立ち去ろうとしていたんだ。勝手にやってくれ。


 そう思ってそのまま歩こうとしたら、今度は露骨な嘲笑が飛んできた。


「よっわw」

「逃げ足だけはいっちょ前だなw」


 ぴたりと足が止まる。


 ……女性を助ける気は、正直そんなになかった。


 だが、喧嘩を売られたなら話は別だ。


「その喧嘩、買ってやるよ」


 言いながら、俺はレグルスを見た。


 ゲームを始めてからというもの、やってきたのは周辺のモンスター相手の戦闘ばかりだ。正直、フラストレーションはかなり溜まっていた。秘密のダンジョンの件もあって、なおさらだ。


 勝てる見込みがあるかと聞かれたら微妙だ。


 だが、負けたとしても無駄じゃない。初めての対人戦で、自分の今の立ち位置くらいは見えるだろう。


 そういう意味では利もある。


「へぇ、やんの?」


 レグルスはにやにやしながら前に出てくる。


 どうやら本気で俺を雑魚だと思っているらしい。


「ちょうどいいわ。れいにゃにも、俺の力を見せてあげるよ」


 そしてそのまま、初めてのPVPが始まった。


 開始早々、そいつは俺のモンスターを見て鼻で笑った。


「なんだその丸っこいの。戦えんの?」


「見た目で強さが決まるわけじゃないだろ」


 実際、見た目のかっこよさで比べたらまず勝てない。


 向こうのモンスターは見るからにそれっぽかった。いかにも強そうで、いかにも映える。対してこっちは球体だ。どう見てもネタ寄りである。


 だが、見た目の性能が高いからといって強いとは限らない。


 むしろ、そういうのは何度も見てきた。


 レグルスは慢心しているのか、初手を俺に譲ってきた。


「先やっていいぜ」


「じゃあ遠慮なく」


 俺はすぐにバルへ命じた。


「渾身の突進だ!」


 バルが弾かれたように飛び出す。


 そのまま一直線に相手のモンスターへ突っ込み――次の瞬間、相手は思いのほかあっけなく吹っ飛んだ。


「……え?」


 俺も少し拍子抜けした。


 そのまま相手のモンスターは倒れる。


 一撃だった。


 正直、ここまでとは思っていなかった。相手が弱いだけか? そう思ったが、向こうのレグルスは全然焦っていない。


「見た目は球体で馬鹿みてぇだけど、なかなか強いじゃん」


 そんなことを言いながら、レグルスは肩をすくめた。


「でも、さっきのは召喚ガチャのハズレの方なんだよ」


 負け惜しみみたいなことを言った直後、新しいモンスターが現れる。


 どうやら今度が本命らしい。


「こっちが本命。珍しく空を飛べるやつでさ――」


 レグルスは戦闘中だというのに、さっき絡んでいた女性に向かってぺらぺらと自分のモンスターの良さを語り始めた。


 召喚で出たレア。空を飛べる優秀な個体。そういうことらしい。


 全体の線は細く、いかにも重戦士みたいなゴツさはない。代わりに羽も姿勢も妙に整っていて、いかにも自分をかっこいいと思っていそうな見た目をしていた。


 正直、見た目だけならちょっと羨ましい。


 レグルス本人には似合っていないが、モンスター単体で見ればかなり当たり感がある。


「バル、先手必勝だ!」


 俺はすぐに命じた。


 だが、バルの突進は敵モンスターにかわされた。


 そのまま相手はふわりと空へ上がっていく。


「うわ、届かねぇ」


 バルが今持っている攻撃手段では、空を飛ばれると届かない。


 そして敵モンスターは、上空から羽を飛ばしてきた。


 鋭い羽がバルをかすめ、少しずつダメージが蓄積していく。


 大したことはない。ないが、こっちは攻撃手段が届かない以上、じり貧なのは明らかだった。


 向こうもそれがわかっているのだろう。


 レグルスは余裕たっぷりに女性へ話しかける暇すらある。


「こういうのが本物なんだよ。わかる?」

「れいにゃはさ、こういうちゃんと守れるやつを選んだ方がいいって」


 バルは明らかに怒っていた。


 侮辱されていると理解しているのかもしれない。だが、相手は攻撃できる場所に降りてこない。どうにもできない。


 空を飛ぶのは卑怯だ、と叫ぶのは簡単だ。


 だがそれはただの負け惜しみでしかない。


 俺は歯を食いしばって、バルに声をかけた。


「俺はあんなやつに、このまま何もできずに負けるのは嫌だ」


 バルが一瞬だけこちらを見る。


「バル、お前はどうだ。悔しいか?」


 羽が飛ぶ。


 バルがまた傷つく。


「どうしても勝ちたいか?」


「気持ちだけで勝てるわけねぇだろ」


 レグルスが笑う。


 だが俺はそいつに話しかけているんじゃない。


「うるさい。今、俺はバルと話してるんだ」


 バルは背中に攻撃を受けながら、それでも一度だけ俺を見た。


 一度だけ。


 まるで、今回だけだぞ、と言いたげな目だった。


 ……今度こそ、本当に通じ合った気がした。


「頼むぞ」


 次の瞬間、バルがこっちへ向かってきた。


 だが狙っているのは俺自身じゃない。俺の右手だ。


 俺は迷わず踏み込んだ。


 今まで何度も何度も繰り返してきた感覚がある。卵の頃から、バルになってからも、嫌というほどやってきた。


 右手でバルを掴む。


 そのまま、何度も繰り返した投球フォームで敵モンスターへ向かって投げつけた。


「行けぇっ!」


 レグルスは口を開けたまま、何が起きたのかわからない顔をしていた。


 だが遅い。


 投げられたバルは一直線に飛び、空を飛ぶ敵モンスターへクリティカルヒットした。


 鈍い音とともに、相手が地へ落ちる。


 そこへ、着地したバルがそのまま突進で追撃した。


 敵モンスターが消える。


 撃破だ。


「……は?」


 呆けたのは相手の方だった。


 モンスターと俺を交互に見て、信じられないという顔をしている。


 だが、現実は変わらない。


 しばらくして、そいつの姿は霞のように消え始めた。


 敗北判定なのだろう。


 俺はその様子を見ながら、された時と同じように口の端を吊り上げた。


「逃げ足だけはいっちょ前じゃなかったのか?」


 そのまま、勝ちを宣言する。


「俺の勝ちだ」


 レグルスは、最後まで信じられない顔のまま消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ