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落ち延びた三男坊、山で拠点を作ったらやがて帝国になった ――逃避行から始まり、拠点を作って勢力拡大。気付けば、帝国に成ってしまった件について  作者: 六駿
第三章 芽吹

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第64話 友だった頃

 大陸歴一四〇七年八月十九日


 レオンへ話を持って行くと決めたものの、アルスの胸には一つだけ引っ掛かるものが残っていた。


 確かに人選だけを考えれば、レオン以上の適任者は居ない。


 ローデンの土地勘があり、人脈もある。


 その理屈は分かる。分かるのだが、それでも素直に頷けない理由があった。


「レオンで良いのだろうか……」


 思わず漏れた呟きに、ゼダンが静かに視線を向ける。


「それは何とも申せませんな」


 珍しく曖昧な返答だった。


「適任者が一人しか居ない以上、我々が勝手に判断するより、まず本人の考えを聞くべきでしょう」


 アルスも小さく頷く。


 確かにその通りだった。


 こちらが一人で考え込むより、まずは本人がどう考えているのかを聞かなければ始まらないのだが、どうしても気になってしまう。


 ここ最近のレオンは、以前とは少し違っていた。幼い頃から知る、あの気軽に話が出来た幼馴染ではない。


 ティムの家で帰参を受け入れてからというもの、確かに友から臣へと変わると本人が割り切ったのが、言葉遣いなどの変化は確かに有った。


 だが今の違和感は、それとはまた違っていた。どこか思い詰めたような表情を見せることが増え、物事を考え込んでいる姿もよく見掛けるようになっていた。


 それも割と唐突な変化に感じられるのが、少し戸惑っている部分であるのだ。


 その変化が今回の大役へどう影響するのかまでは、アルスにも判断が付かなかった。


「そうなると……」


 自然と別のことも頭に浮かぶ。


「あっちの計画は、まだ当分先送りになりそうかな」


 以前から考えていた別件である。レオンが動けば、その仕事まで同時に任せることは出来ない。


 思わず溜息が漏れた。


 すると、それまで黙って話を聞いていた別件の事を知っているマティアスが、不意に口を開く。


「いえ、それこそそっちをヨアヒムへ任せてみては如何でしょうか」


「え?」


 思わぬ名前に、アルスは目を瞬かせた。


「ヨアヒムに?」


「ええ」


 マティアスは穏やかに頷く。


「駄目なら別の者へ変えれば良いだけの話です。意外と上手くいきそうな気もしますが」


「ヨアヒムか……」


 アルスは腕を組んだ。


 正直、その発想は全く無かった。


 いや、ヨアヒムが頼りにならないと言うつもりはない。大事な仲間であり、拠点を支えてきた一人であることに違いはない。


 だが、その仕事を任せる相手として考えたことは、一度も無かった。


「うーん……」


 少しだけ考え込む。


 だが今は、その話を掘り下げる時ではない。


「その件は、レオンとの話が終わってから考えるよ」


 アルスはそう結論を出した。


「まずはレオンだ」


 ゼダンもマティアスも異論は無いようで、小さく頷く。


 三人は揃って歩き出した。


 向かう先は、街道へ通じる新たな道を引く準備を進めているレオンの元だった。


 レオンは丁度、長い縄を一本ずつ確認しているところだった。 


「レオン、少し良いかな」


 アルスが声を掛けると、レオンはすぐに顔を上げた。


「ええ、構いません」


 落ち着いた口調だった。


「どうされました」


 やはり少し違うなと感じる。


 軽く挨拶を交わしただけなのに、以前のような気安さは感じられない。


 明確にここが変わったと言えるわけではないのだが、レオンだけれどレオンではない。気心の知れた友との会話で居心地の悪さを感じるという、どうにもやりにくい、そんな距離感だった。


「今日はこの後、マティアスと一緒に街道までの道筋を決めに行く予定だったよね」


「はい」


「準備で忙しいところ悪いんだけど、少し別の相談があってね」


 レオンは黙って続きを促した。


「今回、三十人増えたことで、少し人員に余裕が出来た」


 アルスは静かに切り出す。


「そうですね。使い物になるかは分かりませんが、数だけは増えましたね」


し……辛辣だな。昔は、もう少し思いやりのある言葉を口にしていたはずなんだが……


「う……ん、ちょっとなんとも返答に困るんだが、それで人も増えたことだし、以前から話に出ていた、ローデンへ残る皆の家族を迎えに行くための準備を始めようと思う」


 レオンは僅かに目を細めた。


「なるほど」


 静かに頷く。


「確かに、ローデンを離れてもう半年近くになるので、家族を残してる方々は、不安も大きいでしょうね」


 アルスも頷いた。


「ただ、いきなり救出と言って、乗り込んで攫って逃走するなんて訳にはいかない」


「ええ」


 レオンはすぐ理解したようだった。


「まずは情報収集ですね」


「そう」


 アルスは続ける。


「近くの村へ潜伏し、街の様子を探る。それから可能なら内部で協力者も見つけたい」


 そこまで説明したところで、レオンは少し考えた後、迷いなく答えた。


「俺が適任でしょうね」


 その声音には迷いが無かった。


「分かりました。やります」


 あまりにも自然な即答に、アルスは思わず苦笑する。


「いや、もう少し悩むかと思った」


「悩む理由がありません」


 レオンは淡々と言った。


「今の拠点を見渡せば、この役目を担える人間は限られています」


 そして少しだけ考え込む。


「ただ」


 一度言葉を切った。


「私一人ではなく、何人か手伝って貰っても構いませんか」


「ああ、もちろん」


 アルスはすぐに頷く。


「救出の時は別に人も出すつもりだけど」


「そこまでは一度現地を見てから判断します」


 レオンは首を横へ振った。


「ですが、準備の段階で、欲しい人間が居ます」


「誰?」


「まずはローザですね」


 意外な名前だった。


「ローザ?」


「ええ」


 レオンは頷く。


「本人は幼かったので、ローデンの記憶は殆ど残っていないでしょう」


「そうだよね」


「ですが」


 レオンは続けた。


「こちらが覚えていなくても、向こうが覚えていれば十分、用は足ります」


 アルスは思わず納得した。


「ああ……そういうことか」


 本人の記憶ではなく、知っている人間が居るかどうか。


 確かにその発想は無かった。


「ただ」


 アルスは苦笑する。


「ローザって馬には乗れたっけ」


「難しいでしょうね」


 レオンも苦笑した。


「子供の頃に乗せてもらった程度だと思います」


「となると荷馬車か」


「そうなります」


 そして再び考え込む。


「あと段取りに二、三人ほど、護衛として別に数名必要になると思います」


「人選も含めて?」


「ええ」


 レオンは静かに頷いた。


「方法も含め、一度整理したいので少し時間を頂けますか」


「もちろん」


 アルスは即答した。


「街道までの道筋を付ける仕事もあるし、焦る必要はない」


「ありがとうございます」


 レオンは深く頭を下げた。


「では、準備を進めます」


 その姿を見送りながら、アルスは静かに息を吐いた。


 やはり以前とは違う。俺と同じ十四歳のはずなのに、不思議な頼もしさがある。貫禄と言うべきなのか、それとも落ち着きがでてきたと言うべきなのか。


 俺も負けていられない。


 そう思わせるだけの成長を、レオンはいつの間にか遂げていたのである。


 マティアスは、レオンから必要な道具を受け取ると、そのまま二人は馬を引いて拠点の外へ向かって動き出した。


 道筋を決めヴァルターの了解を得るまではレオンを抜けないので、マティアスとしても気合を入れ直したのだろう。


「では、行って参ります。今回は泊りで進めてきますので、数日戻りません」


 そう口にするマティアスにレオンが反応する。


「え?マティアスさん、それは聞いてない」


「うん。言ってない。だって今決めたから」


 呆れ顔を見せつつ、レオンは準備をしに戻る。


「私も準備をしてから、二人で出ます」


 そうマティアスが言う。


「うん、頼んだよ」


 アルスが苦笑いを浮かべつつ答えると、マティアスは準備のため姿を消した。




 ゼダンを引き連れ拠点内を移動していると、拠点中へ響くような大声が聞こえた。


「おーい! 狩猟組、出るぞー!」


 振り返れば、二丁斧を腰に提げたリッキーが、広場の真ん中で手を振っている。


 その声へ応えるように、小走りでティムがやって来た。


「へへへ」


 弓を肩へ担ぎながら胸を張る。


「今日も弓王様が大物を射抜いてやるから、お前はちゃんと追い込めよ」


「うるせえな」


 リッキーは鼻で笑う。


「今日は俺が先に仕留める」


「無理だな」


「何でだ」


「お前は追い掛けるのに夢中になる」


「なるか!」


「なる」


「ならねえ!」


 歩き出す前から言い合いが始まっていた。


 少し離れた所では、ゲーフが呆れたように肩を竦めている。


「お前ら朝から元気だな」


「元気じゃなきゃ狩りなんて出来ねえだろ」


「違いねえ」


 三人は笑いながら拠点の外へ向かい、その後ろをクラウスがトボトボという雰囲気で歩いている。


 昨日と全く変わらない光景だった。


 アルスはその様子を見送りながら、小さく笑う。


「ねえ、ゼダン」


「何でしょう」


「ティムが父親で、レオンが息子のはずなんだ」


 ゼダンは一瞬だけ目を閉じ、そして静かに頷く。


「ええ」


 少し間を置いてから苦笑する。


「砦主の言いたいことは、私も痛いほど感じていますので……その辺りは、そっとしておいてあげてください」


「……分かった」


 アルスも苦笑した。


 出来の良い息子と、やんちゃ過ぎる父親。


 普通は逆なのだろうが、あの親子を見ていると、不思議とそれが自然にも思えてしまう。


 家族というものは、それぞれ違う形なのだ。


 だからこそ、マティアスが家族を迎えに行きたいと願った気持ちも分かるし、オットーやヴァルターは、口にはしないだけで、皆同じ思いを違う形で抱えているのだろう。


 まだ時間は掛かるかもしれないが、必ず迎えに行かなければならない。


 そう改めて心へ刻みながら、アルスはゆっくりと歩き出した。


 そして自然と、先ほどマティアスが口にした名前が頭へ浮かぶ。


 ――ヨアヒム。


 レオンに任せるつもりで考えていた仕事だから、少し突飛な意見には感じてしまう。実際ヨアヒムに任せるという選択は有るのだろうか……。


マティアスが推薦したんだ。駄目と決めつけずに、一度真面目に考えてみようか。

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