登場人物紹介 第2章終了時点
■アルス=ミュラー
年齢:十四歳
所属:ミュラー家嫡流
立場:拠点砦主
本話において中心的に描かれる人物。ミュラー家当主サエル=ミュラーとエリーゼ=ミュラーの間に生まれた子であり、エリクセン家の襲撃による混乱を生き延びた後、北西の廃砦を新たな拠点として定め、その運営を担っている。
特定分野で突出した能力を示すことはないが、あらゆる事柄を一定水準で処理できる器用さを持ち、状況に応じて求められる役割へ自然に適応する傾向がある。
性格は柔和で、対立を避けるだけでなく、関係の間に入り調整することに長けており、年齢や立場の異なる者たちをまとめ上げる実質的な調整役として機能している。また本人の自覚は薄いが、父サエルおよび傅役ゼダンは、アルスが他者の感情や能力の機微を読み取ることに長けている点を高く評価しており、その資質は状況判断そのものに影響を与えるものと見られている。
廃砦では住居や作業場などの整備を進め、流民や孤児、旧ミュラー家の関係者を受け入れながら、新たな共同体の基盤を築いていく。しかし、特別な産物を持たない拠点は慢性的な資金不足という現実に直面し、その打開策として山賊として活動することを決断する。
最初の標的として奴隷商人を狙った襲撃を企て、その一歩を踏み出した。第二章終了時点での拠点居住者は三十八名にまで増加している。
アルス家臣
■ゼダン
年齢:四十五歳
出自:ミュラー家家臣
立場:アルス家臣/アルス傅役/軍事補佐
ミュラー家に長年仕えてきた重臣であり、サエル=ミュラーの代より軍務・家政の両面を支えてきた人物。現在はアルス=ミュラーの傅役としてその傍にあり、常に半歩後方から行動を支えている。
過去にアルスと同年の息子を含む自身の家族を事故で失っており、その喪失を経験した後、サエル=ミュラーの判断によりアルスの傅役として配置された経緯を持つ。このため、ゼダンにとってアルスは主君の子であると同時に、単なる任務対象に留まらない特別な存在として位置付けられている。
忠誠心は極めて強く、個人の感情よりも「守るべき対象の維持」を優先する傾向があり、その最優先事項は現在も変わらずアルスの安全と成長に置かれている。拠点設立後はアルスの留守を預かることも多く、狩猟班への参加や日々の訓練では教官役を務めるなど、共同体の実務を支える中心人物として活動している。
武人としての能力は高く、剣術・槍術・馬術のいずれにも精通し、前線戦力としても十分に機能する。一方で戦略構築を主導することは少ないものの、長年の戦場経験によって状況の歪みや危険の兆候を直感的に察知する能力に優れ、戦術判断の補助として重要な役割を担うことが多い。
また、アルスが「砦主」として共同体を率いる立場となって以降は、主君としての振る舞いや責任について教える教育役としての側面も強めている。
■ティム=ワーラー
年齢:三十四歳
出自:ミュラー家元家臣/元弓兵隊長
立場:アルス家臣
呼号:弓王(自称)
ミュラー家に仕えていた元家臣であり、かつては弓兵部隊の指揮を担っていた人物。
三年前、突如として「陶器の王に俺はなる」という謎の発言を残し、家族と共に出奔した経歴を持つ。
出奔後は陶工を志していたが、体系的な技術習得を行わないまま制作を行ったため、成果物は陶器としての完成度を欠いたものとなっていた。この過程で妻は蒸発している。
エリクセン家侵攻による混乱期において、逃避行中のアルス=ミュラーと接触。その後、帰参という形でミュラー家に復帰し、アルス配下として行動するようになる。
拠点設立後は狩猟班の一員として活動することが多く、弓による狩猟や周辺警戒を担っている。また、「弓王」を名乗っているものの、その呼び名を周囲が積極的に用いることはなく、本人が事あるごとに自称しては周囲へアピールしている。
弓術に関しては高い技量を持ち、かつて弓兵部隊を統率していた経験から、遠距離戦における判断力および命中精度に優れる。普段は軽薄で冗談めかした言動が目立つ一方、ここぞという局面では真剣な表情を見せ、状況を冷静に見極める実務家としての一面も持つ。
戦闘領域においては安定した能力を発揮する一方、戦闘外の行動や思考においては極端に逸脱した傾向を示すことがある。
■レオン=ワーラー
年齢:十四歳
出自:ミュラー家関係者
立場:アルス家臣/ティム=ワーラーの長男/アルス=ミュラーの学友
ティム=ワーラーの長男として生まれ、父がミュラー家に仕えていた時期にアルス=ミュラーと共にゼダンの指導を受けた経歴を持つ。アルスとは幼少期からの学友であり、基礎的な軍事訓練と規律教育を共に学んだ。
ティム=ワーラーの離脱に伴い一時的にミュラー家を離れるが、その後もアルスとの交流は続き、周辺状況や自身の鍛錬経過を記した書簡を定期的に送っていた。父の帰参に同行する形でミュラー家へ復帰し、以後はアルス配下として行動している。
拠点設立当初は狩猟班に所属していたが、次第に諜報活動でも頭角を現し、マティアスと共に情報収集を担当するようになる。北方探索では湖賊との折衝役も務めるなど、近頃は戦闘・諜報・交渉の各分野で急速な成長を見せ、アルス陣営における信頼と立場を高めつつある。
性格は冷静かつ実直で、日常・戦場の双方において安定した判断を下す傾向がある。アルスとは主従関係に留まらない幼少期以来の信頼関係を維持している。
ただし調理に関しては壊滅的な才能しか持ち合わせておらず、拠点内では「決して任せてはいけない人物」との評価がすでに定着している。
■ローザ=ワーラー
年齢:十二歳
出自:ミュラー家関係者
立場:アルス家臣(ワーラー家随伴)/ティム=ワーラーの長女
ティム=ワーラーの長女として生まれ、父の出奔に伴い家族と共にミュラー家を離れる。
幼少期より兄レオンと行動を共にし、アルス=ミュラーおよびゼダンの訓練環境に接する中で成長した。日常的に教練の様子を観察していたことから、武術や戦闘技術への関心を自然に育んでいる。
父および兄と行動を共にする一方で、早い段階から「戦う側の環境」への適応を見せ、その後ティムの帰参に伴ってミュラー家へ復帰し、アルス=ミュラー配下としての立場を持つこととなる。
拠点設立後は採集班に所属している。訓練における実力はなお発展途上にあるものの、幼少期から兄レオンやアルスの鍛錬を見続けてきた影響により基礎動作はすでに身についており、近頃は目に見える勢いで実力を伸ばしている。
アルス=ミュラーに対しては、他者に明示していない好意的感情を抱いているが、それは明確な恋愛感情として整理されたものではなく、憧憬と興味が未分化のまま共存している状態にある。
性格は対象への関心が強く、集中力の振れ幅が大きい傾向を持つ。一方で感情整理は未成熟であり、内面と行動の一致にはばらつきが見られる。
■ヨアヒム
年齢:二十三歳
出自:ミュラー家兵/アルス随行兵(離散時より同行)
立場:アルス家臣
ミュラー家離散時にアルスへ従った兵の一人。
逃避行中に足を捻挫し、以降は周囲に背負われる形で移動を続けている。
性格は明るく軽口が多く、緊張状態においても場の空気を崩さない傾向を持つ。また食に関する関心が強く、各地の屋台や食事事情に精通しており、収集する情報は一見雑多ながらも移動先の生活環境を把握する上では一定の実用性を持つ。
バウムゼン滞在中には屋台情報の収集を中心に行動していたが、その過程で出会った孤児兄妹に食事を分け与えたことを契機として、結果的に一行へ引き入れることとなった。
拠点設立後は採集班に所属している。軍事・内政の両面において特筆すべき才能はなく、大きな功績を挙げることも少ないが、相変わらず的外れな意見や軽口を口にしては周囲の力を抜かせており、結果として拠点内の雰囲気を和らげる存在となっている。
一団においては戦力としてではなく、生活面および心理的緩衝材として機能する存在である。
■マティアス
年齢:二十八歳
出自:ミュラー家兵/アルス随行兵(離散時より同行)
立場:アルス家臣
家族:既婚・子あり(妻子は町に残留)/弟はクラウス
ミュラー家離散時にアルスへ従った兵の一人。
几帳面な性格で、見聞きした事実を紙片に記録する習慣を持つ。情報の整理および記録能力に優れ、報告時には紙片を用いて内容を照合しながら正確に伝達するため、その報告は再現性と具体性を備え、高い信頼性を持つ。
拠点設立後は諜報班の一員として活動し、正確な情報収集と落ち着いた人柄によって、ゼダンと共にアルスを支える側近の一人となりつつある。北方探索ではレオンと行動を共にし、湖賊との接触にも成功した。
一方で、思ったことをそのまま口にしてしまう実直さも持ち合わせており、交渉の場では腹芸を苦手とする一面を露呈している。帰路ではミュラー領からの避難民を保護して拠点へ連れ帰るなど着実に実績を重ねており、拠点内での人望も高まり始めている。
戦闘要員として目立つ人物ではないが、一行においては情報の蓄積・整理・再利用を担う存在として重要な役割を果たしている。
■クラウス
年齢:二十五歳
出自:ミュラー家兵/アルス随行兵(離散時より同行)
立場:アルス家臣
家族:マティアスの弟
ミュラー家離散時にアルスへ従った兵の一人。兄であるマティアスとは対照的に現場での経験を重視する実務家であり、技術や経験則を他者へ分かりやすく伝えることに長けている。
ミュラー家では主に罠の設置および発見を任されており、獣道の見極めや地形の利用など、実践に基づく知識を豊富に持つ。その技術は感覚だけに頼るものではなく、手順として整理して共有できる点に特徴がある。
拠点設立後は狩猟班の罠担当として活動し、食料確保の一端を担っている。効率的な罠の設置や維持管理を通じて拠点の安定に貢献し、経験の浅い者への指導も行っている。
また、山賊として活動する際には潜伏場所や退避経路の確保も担当しており、周囲の地形を活かした隠れ場所の作成にも手腕を発揮する。
派手な活躍こそ少ないものの、現場で培った知識と経験によって集団を支える、縁の下の力持ちとして重要な役割を担っている。
■ヴァルター
年齢:三十一歳
出自:ミュラー家兵/アルス随行兵(離散時より同行)
立場:アルス家臣
家族:母と弟妹(母と弟妹は町に残留)
ミュラー家離散時にアルスへ従った兵の一人。実直で任された仕事を着実にこなす現場系の信頼枠として周囲から認識されている。
兵士となる以前は樵として働いており、伐採や木材の運搬、地形に応じた作業手順などに豊富な経験を持つ。そのため拠点設立後は前職の知識を活かし、建設用材木の確保や湖側の見通しを確保するための伐採など、木材に関わる仕事を一手に引き受けている。
拠点の人口が増え、補佐として共に木を伐る者が増えてからも、その気質は変わらない。自ら先頭に立って斧を振るい、誰よりも早く現場へ向かい、誰よりも遅くまで働く姿勢を貫いている。
また、山賊として活動する際には、奴隷商人の襲撃に備えて街道を塞ぐための材木の伐り出しも担当するなど、その技術は戦術面にも応用されている。
突出した戦功を挙げる人物ではないが、拠点の維持と発展に不可欠な労働を黙々と担う、アルス陣営を足元から支える実務家の一人である。
■オットー
年齢:三十八歳
出自:ミュラー家兵/アルス随行兵(離散時より同行)
立場:アルス家臣
家族:既婚・子あり(妻子は町に残留)
ミュラー家離散時にアルスへ従った兵の一人。落ち着いた気質の持ち主であり、状況に応じて必要な仕事を淡々とこなす実務家として周囲から信頼を集めている。
ミュラー家では輜重隊に所属し、食材の管理や補給業務を担当していた。物資の消費量や保存期間を把握し、限られた資源を無駄なく運用することに長けている。
拠点設立当初はマティアスと共に諜報班として活動していたが、採集物や狩猟による獲物が増えるにつれ、その経験を活かして保存食の作成と管理を担う中心人物へと役割を変えていった。食料事情を把握する立場から、拠点の安定した運営に大きく貢献している。
また、その仕事柄拠点内の多くの人々と関わりを持っており、人間関係も広い。アルスとゼダンが共に留守にする際には、拠点を預かる責任者の一人として見られるようになっており、住民たちからも厚い信頼を寄せられている。
戦場で目立つ武功を挙げる人物ではないが、人々の暮らしを支える「食」を管理することで集団を支え続ける、アルス陣営に欠かせない縁の下の力持ちである。
■ウォルフ
年齢:三十六歳
出自:不明(バウムゼンでディートリヒに紹介され仲間入り)
立場:アルス家臣
家族:ヘルガの夫
アルスが逃避行の途中でバウムゼンへ立ち寄った際、協力を約束したディートリヒの紹介によって一行へ加わり、拠点候補地への移動以降も行動を共にしている。何らかの事情で街に居づらくなっているらしいが、その理由について本人は多くを語らず、現在も詳細は不明のままである。
当初は「大工仕事のできる人材」として紹介されたものの、実際には大工は本業ではなく趣味であることが判明し、周囲を驚かせた。しかし、その腕前は確かなもので、拠点建設においては中心人物の一人として活躍している。
また、大木槌を得物として扱う豪傑でもあり、建設作業だけでなく訓練の場でも高い武勇を示す。温厚な職人のような振る舞いと豪快な戦いぶりの落差は、一行の中でもよく知られている。
奴隷商人襲撃の際には強く参戦を希望するなど荒事への抵抗は薄く、むしろ積極的な一面を見せることもある。一方で、妻ヘルガには頭が上がらず、周囲からは恐妻家として認識されている。
■ヘルガ
年齢:二十六歳
出自:不明(バウムゼンでディートリヒに紹介され仲間入り)
立場:アルス家臣
家族:ウォルフの妻
アルスが逃避行の途中でバウムゼンへ立ち寄った際、協力を約束したディートリヒの紹介によって一行へ加わり、拠点候補地への移動以降も行動を共にしている。何らかの事情で街に居づらくなっているらしいが、その理由について本人は多くを語らず、現在も詳細は不明のままである。
当初は「大工仕事のできる人材」として紹介されたものの、実際には大工は本業ではなく趣味であることが判明し、周囲を驚かせた。しかし、その腕前は確かなもので、夫ウォルフと共に拠点建設の中心人物として活躍している。
得物は、丸太を削った棍棒に無数の釘を打ち付けた凶悪な一品。顔には目元と頬を彩る紅と黒の濃い化粧を施しており、時折意匠は変わるものの、基本的には威圧感のある恐ろしい顔立ちとなる。そのため初対面の子どもには怖がられることが多い。
一方で、化粧を落とした素顔は非常に美しく、幼い子どもへ気遣いを見せる優しさも持ち合わせている。ただし、過去には得物を手にしたまま夫ウォルフを一晩中追い回したこともあり、その豪胆さと迫力は折り紙付きである。
夫と同様に建設作業だけでなく訓練の場でも高い武勇を示す豪傑の一人であり、奴隷商人襲撃の際にも強く参戦を希望するなど、荒事にも積極的な姿勢を見せている。
■リッキー
年齢:二十九歳
出自:ディーの傭兵団の元構成員
立場:アルス家臣
アルスが拠点設立後、物資の不足分を補うためバウムゼンを再訪した際、ディートリヒの紹介によって仲間入りした人物。かつてはディーが隊長を務めていた傭兵団の一員として各地を転戦していた。
傭兵団解散後は帰郷するものの、旧友の仇討ちへの協力を選んだ結果、お尋ね者となって故郷を離れることとなった。そのため再び流浪の身となり、ディーの縁を通じてアルス陣営へ加わる。
性格は非常に義侠心が強く、善悪や損得よりも「漢かどうか」という独自の判断基準を重視する。その価値観は周囲から理解されないことも多いが、本人の中では一貫しており、一度認めた相手には厚い情と忠義を示す。
傭兵団時代にはディーと共にサエル=ミュラー率いる部隊の救援を受けた経験があり、その恩を今なお忘れていない。サエルの息子であるアルスに力を貸すことにも迷いはなく、世話になったディートリヒの薦めもあり当然のように受け止めている。
戦闘では二丁の斧を豪快に振るう前衛として活躍し、細かな理屈よりも胆力と勢いを重んじる。その単純明快な生き方は、混乱の続く拠点の中においても独特の存在感を放っている。
■トビアス
年齢:十二歳
出自:バウムゼンの孤児
立場:アルス家臣
バウムゼンで孤児として暮らしていた少年。八歳の妹を抱えながら、十二歳という若さで二人きりの生活を支えてきた。
アルスが逃避行の途中でバウムゼンへ立ち寄った際、ヨアヒムの持つ串焼きを奪おうとして近づくものの、逆に串焼きを分け与えられる。その理由は本人にも分からないまま、気付けばヨアヒムの後をついて行った。
そこで出会ったアルスから「共に来るか」と声を掛けられ、妹と共に拠点候補地へ向かう一行へ加わり、以後はアルス陣営の一員として生活することとなる。
特別な才能があるわけではないが、孤児として生き抜いてきた経験から食べられる野草に関する知識を持ち、拠点設立後は採集班として活動している。生活の知恵と逞しさは同年代の子どもたちの中でも際立っている。
また、採集や訓練を通じて同年のローザと行動を共にすることが多く、本人に自覚はないものの、次第に彼女へ特別な感情を抱き始めている。
気の強さと年相応の幼さを併せ持ちながらも、大切な妹を守ろうとする責任感は強く、過酷な環境の中で少しずつ居場所と仲間を得て成長を続けている。
ミュラー家嫡流
■ファビオ=ミュラー
年齢:二十一歳
所属:ミュラー家嫡流
立場:ミュラー家嫡男/家中後継候補/北方放浪中
ミュラー家当主サエル=ミュラーの長男であり、家の嫡男として扱われる存在。弟であるアルス=ミュラーにとっては最も強く意識される兄であり、家中においても次代を担う人物として極めて高い評価を受けている。
文武両面において高い資質を持ち、戦場・統治の双方に対応可能な器量を備えている。特に判断力と自己制御に優れ、感情に流されず状況を俯瞰した行動を取るため、若年ながら完成度の高い後継者として認識されている。また、周囲への配慮と統率にも自然な安定感を持ち、家族・家臣・領民のいずれからも次代の中心として見られている。
内面には熱量と衝動性を秘めているが、それらは判断と行動を支える原動力として制御されており、軽率な形で表に現れることは少ない。
ミュラー領北領境遭遇戦においては、父サエルの突撃に並び敵陣突破を試みる。その過程で戦況が防衛ではなく崩壊段階にあることを即座に理解し、家の維持が不可能であると判断する。
戦後は生存した側近ニコ、エンゾを伴って街道沿いに北進し、討ち死にしたマルクを悼みながら敵であるエリクセンおよびフォーゲルの実態を自らの目で確かめる旅に出る。グライフ領フェルデンではしばらく滞在して情報収集を行い、その後フォーゲル領都シュタインブルクへ到達。都市の歪さを実感する中でナユリ王国の兵制へ関心を抱くようになるが、当地に留まる意義は薄いと判断し、新たな目的地としてフォーゲルの商都ハーゼルフェルトへの移動を決定する。
■セアド=ミュラー
年齢:十九歳
所属:ミュラー家嫡流
立場:ミュラー家次男/放浪中
ミュラー家当主サエル=ミュラーの次男であり、ファビオ=ミュラーの弟、アルス=ミュラーの兄にあたる人物。
知略および事務処理能力に優れ、書類整理や戦略補助、立案補佐といった領内運営の実務面で早くから能力を発揮している。そのため家中では、長兄ファビオの補佐役となるのか、あるいは独立した才を持ち別の役割を担うのか、評価が分かれる存在でもある。
表面的には感情を抑えた冷静な人物として見られることが多く、自らを律しながら熟考を重ねて行動する傾向を持つ。一方で内面には強い家族意識と情を抱いており、特に兄たちに対しては深い尊敬と信頼を寄せている。
ミュラー領北領境遭遇戦では父サエルの後方を追走し、その戦いを目の当たりにすることで、「模倣の次元ではない」と自身の理解を超えた領域の存在を初めて自覚する。戦場離脱後は燃える屋敷を遠望しながら山中へ逃れ、極限状態の放浪を続ける中で、これまで押さえ込んできた自身の在り方を見つめ直すこととなった。
その結果、周囲の期待に応えるため自制を重ねてきた従来の姿から少しずつ変化し、思うままに道を選び、好きに歌を口ずさみながら山中を進むようになる。放浪の果てには空き家を発見し、当面の拠点として借用することを決めるなど、理性と衝動を併せ持つ新たな一面を見せ始めている。
長兄ファビオへの敬意は変わらないものの、自身の能力と生き方がどこへ向かうのかは、いまだ定まっていない。
■ジョナス=ミュラー
年齢:十歳
所属:ミュラー家嫡流
立場:サエル=ミュラー五男(末弟)/サーン家娘婿
ミュラー家当主サエル=ミュラーとエリーゼ=ミュラーの間に生まれた末弟であり、アルス=ミュラーの弟にあたる。
年齢的には幼く、家中での役割はまだ定まっていない。感情の制御は未発達であり、思考よりも衝動が先に行動へ現れる傾向が強い。そのため突発的な行動も多いが、状況への適応速度や踏み込みの大胆さとして現れる側面もある。
身体的な反応や直感的判断においては年齢に不釣り合いな鋭さを見せることがあり、一定の戦闘的適性がうかがえる。一方で、その資質は未体系であり、制御・学習ともに未成熟であるため、将来的な方向性は定まっていない。
エリクセン家来襲時にはヨシュアに伴われ、コンラート、ユリアンと共に海路による退避行動に入る。その後、漁師の手引きによって紅鯨団の本拠へ身を寄せ、紅鯨団二頭領の一人であるタカ=サーンの娘と成り行きで模擬戦を行うこととなる。
この模擬戦に勝利したことを契機として、ジョナスはサーン家の娘婿として迎えられることとなった。当初は周囲を困惑させたものの、婿として舟に触れ始めると、二ヶ月で潮を読み、四ヶ月で船を自在に扱うまでに成長するなど、海に関する天性の才を発揮し始めている。
衝動的で常識に囚われない行動力は健在だが、それは未知の環境へ飛び込む適応力としても機能しており、新たな居場所において独自の成長を見せつつある。
■エリーゼ=ミュラー
年齢:三十九歳
所属:ミュラー家(ローゼンベルク家出身)
立場:サエル=ミュラーの正室/ローゼンベルク里帰り中
ローゼンベルク家の出身であり、ミュラー家当主サエル=ミュラーの正室。ファビオ、セアド、アルス、カミル、ジョナスおよびアルビーナの母にあたる。
貴族社会においても完成度の高い人物として認識されており、家中外からも高い評価を受けている。表面的には穏やかで落ち着いた母親として振る舞うが、その内面では感情と判断が明確に分離されており、状況に応じて極めて冷静な選択を下すことができる。
母としての情と貴族としての判断を切り離して運用できる稀有な存在であり、その均衡が彼女の安定性を支えている。
エリクセン家来襲時にはアルビーナを伴って馬車で南方へ退避し、実家であるローゼンベルク家へと到着する。父でありローゼンベルク家当主でもあるエルンストの保護を受けながら、夫や子どもたちの消息を待ち続ける日々を送っている。
しかし、待てども家族の行方は判明せず、エリーゼは父に対して救出と捜索のための出兵を懇願するものの、領主としての判断を優先したエルンストにその願いを退けられる。母としての焦燥と貴族としての理性の狭間に立ちながらも、彼女はなお気丈さを失わずにいる。
■アルビーナ=ミュラー
年齢:四歳
所属:ミュラー家嫡流
立場:サエル=ミュラー三女(末妹)/ローゼンベルク家滞在中
ミュラー家当主サエル=ミュラーとエリーゼ=ミュラーの間に生まれた末娘であり、アルス=ミュラーの妹にあたる。
幼少期であり、性格・嗜好・能力のいずれも未形成の段階にある。そのため家族内において特定の役割や評価軸に結び付けられることはなく、他の兄弟姉妹がすでに役割を持ち始めている中で、唯一その構造から外れた位置にある存在として扱われている。
これは無価値という意味ではなく、役割によって定義される家の中において、まだいかなる機能にも接続されていない状態を意味する。
エリクセン家来襲時には母エリーゼに伴われ、馬車で南方へ退避し、ローゼンベルク家へと身を寄せる。その後は母と共に父や兄たちの無事を信じながら、その帰還を待つ日々を送っている。
無邪気な言葉と素直な感情は、時として大人たちの理屈を揺るがす力を持つ。母の出兵要請を拒否した祖父エルンストに対しても、「お父様やお兄様に会いたい」という率直な願いを口にし、その言葉は領主として振る舞おうとする祖父の心を静かに揺さぶることとなる。
ミュラー家一門衆
■ヨシュア=ミュラー
年齢:四十歳
所属:ミュラー家一門衆
立場:サエル=ミュラーの弟/アルスの叔父/サーン家客分
ミュラー家当主サエル=ミュラーの実弟であり、家中の運営において実務・調整・現場対応を担ってきた人物。
表舞台に立つことは少ないが、状況処理能力に優れ、安定性を重視した判断を下す実務型の統治補佐である。派手さはないものの、家中における破綻の抑制と継続性の維持を役割としてきた。
エリクセン家来襲時にはサエル不在の中で居館の維持を担い、最終的にはジョナスを伴って海路による退避を選択する。この判断は、混乱下において家の存続可能性を最大化するための現実的選択として位置付けられる。
その後はジョナスらを引き連れて紅鯨団サーン家へ身を寄せ、一団の責任者として交渉の場に臨む。ミュラー家一門衆筆頭にして領主の弟として、何よりジョナスを守るために奔走するものの、当初の交渉は不調に終わる。
しかし、その窮地は当のジョナスによって思わぬ形で覆され、結果として一行はサーン家の客分として迎えられることとなった。以後は奔放なジョナスに振り回され続ける日々を送り、親子三人揃って慢性的な胃痛に悩まされている。そのため最近では、「胃痛責任者」として密かに認識されつつある。
■コンラート=ミュラー
年齢:十九歳
所属:ミュラー家一門衆
立場:ヨシュア=ミュラーの長男/アルスの従兄/サーン家客分
ミュラー家の一員として育てられており、家中の動きには一定の理解を持つ。真面目で責任感が強く、与えられた役割を着実に果たそうとする堅実な気質の持ち主である。
エリクセン家来襲後はジョナスと行動を共にし、ヨシュアやユリアンと共に海路による退避行動を取る。その後は紅鯨団サーン家へ身を寄せ、奔放なジョナスを守ろうとする父ヨシュアの交渉を見守ることとなった。
しかし、その交渉は不調に終わり、一時は先行きの見えない状況に陥る。ところが、その窮地を当のジョナスが予想外の形で覆したことで、一行はサーン家の客分として迎えられることとなった。
以後は自由奔放なジョナスに振り回される日々を送っており、ヨシュアやユリアンと共に慢性的な胃痛へ悩まされている。真面目な性格ゆえに苦労を一身に引き受けがちである。そのため最近では「真面目な胃痛担当」として扱われている。
■ユリアン=ミュラー
年齢:十七歳
所属:ミュラー家一門衆
立場:ヨシュア=ミュラーの次男/アルスの従兄/サーン家客分
ミュラー家の一員として育てられており、家中の動きには一定の理解を持つ。物事を感情だけで判断せず、状況を冷静に観察する傾向が強い人物である。
エリクセン家来襲後はジョナスと行動を共にし、ヨシュアやコンラートと共に海路による退避行動を取る。その後は紅鯨団サーン家へ身を寄せ、ジョナスを守ろうとする父ヨシュアの交渉を支えることとなった。
しかし、その交渉は不調に終わり、一時は先の見えない状況へ追い込まれる。ところが、その窮地を当のジョナスが思いもよらぬ形で覆したことで、一行はサーン家の客分として迎えられることとなった。
以後は自由奔放なジョナスに振り回される日々を送っており、ヨシュアやコンラートと共に慢性的な胃痛に悩まされている。その中でも比較的冷静さを保っているものの、内心ではしっかりと疲弊している。そのため最近では「冷静な胃痛担当」として扱われている。
ファビオ家臣
■ニコ
年齢:二十歳
所属:ファビオ家臣
立場:ファビオ側近/北方放浪中
ファビオと同年代の学友の一人であり、側近として行動を共にする人物。
戦況の把握および整理を担い、現場情報を言語化・構造化して伝達する役割を持つ。感情や局面に流されず、距離を保った視点から状況を観測し、判断材料として再構成することを得意としている。
ミュラー領北領境遭遇戦を生存し、戦後はファビオと共に北方への逃避行へ同行する。各地では主に情報収集の面で力を発揮し、現地の情勢や人々の動向を整理しながら一行の判断を支えている。
一方で、ファビオ一行の中では暴走癖のあるエンゾを窘める常識人としての役割も担っている。しかし、そのエンゾに同調して興味本位で行動を決める主ファビオにはたびたび呆れさせられており、苦労しながらも結局は最後まで付き合っている。
冷静な観察眼と情報整理能力を持つ一方で、振り回される側の苦労人として、一行の均衡を保つ存在でもある。
■エンゾ
年齢:二十二歳
所属:ファビオ家臣
立場:ファビオ側近/北方放浪中
ファビオと同年代の学友の一人であり、側近として行動を共にする人物。
戦場においては精神的支柱として機能し、戦況や判断に伴う迷い・動揺を受け止める役割を担う。情報や状況の整理を担うニコとは対照的に、判断以前の感情領域においてファビオを支える存在である。
ミュラー領北領境遭遇戦を生存し、戦後はファビオと共に北方への逃避行を続ける。必要に迫られて行う情報収集にも可能な限り協力する一方、本来は騒がしい場を好む性分であり、身を潜めるべき状況であってもファビオを盛り場へ連れ出そうとするなど、しばしば周囲を振り回している。
ファビオ一行の中では揺るぎない意志を持つ精神的支柱である反面、暴走癖も強く、常識人であるニコに窘められることも少なくない。しかし、そうした自分に呆れながらも付き合ってくれるニコを非常に信頼しており、ファビオとも気が合うため、結果として三人で行動を共にしている現状を楽しんでいる。
豪放で騒がしい人物ではあるものの、その明るさと迷いのなさは、過酷な逃避行を続ける一行を支える大きな力となっている。
外部協力者
■ディートリヒ 愛称「ディー」
年齢:四十四歳
出自:傭兵出身
立場:バウムゼンの酒場店主/元傭兵隊長
元傭兵隊長であり、現在はバウムゼンで酒場を営んでいる人物。かつて戦場で伏兵に包囲された際、サエル=ミュラー率いる部隊に救われた経歴を持つ。
その際に受けた「退け。生きろ」という言葉を強く記憶しており、以後、サエルへの恩義を行動原理の一つとして抱えている。
傭兵業からは退いているものの、戦場時代の人脈と情報網を活かし、バウムゼンで一定の影響力を持つ。ティムとは旧傭兵時代からの旧知であり、その縁を通じてアルス一行と関わることとなった。
アルス一行に対しては、拠点候補地の提示をはじめ、金銭・馬・武具・道具類、野菜の種や荷車を提供し、さらに大工仕事のできるウォルフ・ヘルガ夫婦を紹介するなど、拠点再建を支援している。その後も再来したアルスへ人材を融通していたが、三か月ほど姿を見せなくなったことを案じており、次に備えて人材を確保しつつ、自ら連れて行く方法まで考え始めている。
現在も直接従属することなく、恩義によって動く外部協力者としてアルスたちを支え続けている。
外部勢力
■フレンチ=ドレッシン
年齢:四十四歳
出自:ドレッシン家嫡流
立場:湖賊頭領
家族:シーザー、サウザン、バルサミコの父。他に娘が一名
拠点北方の湖に勢力を築く湖賊の頭領。マティアスとレオンが北方探索の最中に接触した人物であり、湖上において絶対的な影響力を持つ。
その正体は、かつて西部四十八家の一つとして南方湿地帯を治めていたドレッシン家嫡流の血を引く生き残りである。幼少期に父へ手を引かれて逃避行を続けた末、この湖へと辿り着き、以後は湖賊として勢力を築いた父の跡を継いで頭領となった。
幼き日の記憶から陸への郷愁を抱く一方、湖賊として生きる現在の暮らしにも強い愛着を持っている。湖の地形や水流を熟知し、その地の利を最大限に活かした戦いを得意としており、武勇と智謀を兼ね備えた名将として正規軍との戦いでもほぼ常勝を誇ってきた。
現在は優秀な息子たちに恵まれたことで自ら戦場へ出る機会は大きく減っているものの、湖賊たちからの信望は厚く、その存在感はいまだ衰えていない。
一方で、唯一の娘に対しては異常なほどの親バカぶりを見せることでも知られており、冷静沈着な名指揮官としての姿との落差は、家族や配下の間で半ば公然の秘密となっている。
■シーザー=ドレッシン
年齢:二十一歳
出自:ドレッシン家嫡流
立場:ドレッシン家嫡男/湖賊部隊長/湖賊頭領後継候補
家族:フレンチの子。サウザン、バルサミコの兄。他に妹が一名
フレンチ=ドレッシンの長男にして、湖賊たちの次期頭領と目される青年。マティアスとレオンが北方探索の最中、勝利の宴を通じて縁を結ぶこととなった。湖賊の部隊長を務めており、父が出陣しない際には代理の指揮官として一団を率いている。
ドレッシン家嫡流の血を引く生き残りの一人であり、湖上では二人の弟と共に鬼神の如き戦いぶりを見せる豪傑として知られている。武勇に優れるだけでなく、父フレンチの言葉の真意を素早く汲み取る洞察力や勘の鋭さも持ち合わせており、智謀の面でも高い資質を覗かせる。
一方で、湖賊として生まれ育った影響もあってか、父とは異なり粗野な部分も目立つ。礼儀作法や貴族的な振る舞いにはほとんど興味を示さず、豪快さのままに振る舞うことも少なくない。そのためフレンチは「育て方を間違えたか」と頭を悩ませることもあるが、本人はまったく気にしていない。
まだ若年ゆえに経験不足な部分は残しているものの、その欠点を補って余りある器量を備えており、周囲からは将来的に父と並ぶ名将へ成長することを期待されている。
なお、父に負けないほどの妹好きでもあり、唯一の妹に対しては理性を失うほどの兄バカぶりを発揮する。その姿は豪傑としての威厳と並び、湖賊たちの間ではすっかりお馴染みとなっている。
■サウザン=ドレッシン
年齢:十八歳
出自:ドレッシン家嫡流
立場:ドレッシン家次男/湖賊部隊長
家族:フレンチの子。シーザーの弟、バルサミコの兄。他に妹が一名
フレンチ=ドレッシンの次男。マティアスとレオンが北方探索の最中、勝利の宴を通じて縁を結ぶこととなった。湖賊の部隊長を務めており、父が出陣しない際には代理の指揮官を担う兄シーザーを補佐し、一団の運営を支えている。
ドレッシン家嫡流の血を引く生き残りの一人であり、湖上では兄弟たちと共に鬼神の如き戦いぶりを見せる豪傑として知られている。特に操船技術に優れ、その技量差を活かして敵を分断し、孤立した相手を各個撃破する戦い方を得意としている。
一方で、湖賊として生まれ育った影響もあってか、父とは異なり粗野な部分も目立つ。礼儀作法や貴族的な振る舞いにはほとんど興味を示さず、豪快さのままに振る舞うことも少なくない。そのためフレンチは「育て方を間違えたか」と頭を悩ませることもあるが、本人はまったく気にしていない。
兄シーザーよりは落ち着いた性格ではあるものの、兄弟の中では最も戦場そのものを愛しており、危険な状況ほど高揚を見せる戦闘狂としての一面を持つ。冷静さと好戦性を併せ持つその気質は、周囲からも一目置かれている。
なお、父や兄弟に負けないほどの妹好きでもあり、唯一の妹に対しては理性を失うほどの兄バカぶりを発揮する。その姿は豪傑としての威厳と並び、湖賊たちの間ではすっかりお馴染みとなっている。
■バルサミコ=ドレッシン
年齢:十六歳
出自:ドレッシン家嫡流
立場:ドレッシン家三男/湖賊部隊長
家族:フレンチの子。シーザー、サウザンの弟。他に妹が一名
フレンチ=ドレッシンの三男。マティアスとレオンが北方探索の最中、勝利の宴を通じて縁を結ぶこととなった。湖賊の部隊長を務めており、父が出陣しない際には代理の指揮官を担う兄シーザーを補佐し、一団の運営を支えている。
ドレッシン家嫡流の血を引く生き残りの一人であり、湖上では兄弟たちと共に鬼神の如き戦いぶりを見せる豪傑として知られている。兄弟の中では特に智に優れ、自ら仕掛けるだけでなく味方へ的確な合図を送り、敵を包囲へ誘導するなど、状況全体を見渡した戦い方を得意としている。
一方で、湖賊として生まれ育った影響もあってか、父とは異なり粗野な部分も目立つ。礼儀作法や貴族的な振る舞いにはほとんど興味を示さず、豪快さのままに振る舞うことも少なくない。そのためフレンチは「育て方を間違えたか」と頭を悩ませることもあるが、本人はまったく気にしていない。
兄弟の中では容姿が父フレンチに最もよく似ており、若き日の頭領をそのまま映したかのようだと言われている。また性格は非常に明るく、人との距離感も近いため、相手が父であっても遠慮なく茶化すことのできる気安さを持つ。その親しみやすさから、配下からの人気も高い。
なお、父や兄に負けないほどの妹好きでもあり、唯一の妹に対しては理性を失うほどの兄バカぶりを発揮する。その姿は豪傑としての威厳と並び、湖賊たちの間ではすっかりお馴染みとなっている。
■エルンスト=ローゼンベルク
年齢:六十三歳
出自:ローゼンベルク家嫡流
立場:ローゼンベルク家当主
家族:エリーゼ=ミュラーの父
西部四十八家の中でも殊更古くから続く名門として知られるローゼンベルク家の現当主。西部四十八家内の会合や諍いの際には調停役を務めることも多く、堅実かつ安定した手腕によって家を大過なく治めてきた人物である。
感情に流されず現実を見据える冷静さを持ち、家の存続と領民の安寧を最優先に判断する実務家でもある。その一方で家族への情も深く、娘であるエリーゼや孫たちを大切に思っている。
ミュラー家陥落後、退避してきた娘エリーゼと孫アルビーナを保護し、ローゼンベルク家の庇護下へ迎え入れた。しかし、ミュラー家救援の要請に対しては、確証のないまま軍を動かすことの危険性を理由に出兵を拒否している。
家の諜報網を駆使してミュラー家の生存者捜索を続けているものの、誰一人として消息を掴めない状況が続いており、表には出さないながらも焦燥を募らせている。娘や孫のためにも、さらなる調査と新たな手段の検討を進めつつある。
■タカ=サーン
年齢:五十三歳
出自:サーン家嫡流
立場:紅鮭団二頭領の一人
家族:娘が一人
ローゼンベルク領より北西の海上にある小島を拠点とする海賊勢力「紅鮭団」の二頭領の一人。父の代より兄弟で率いてきた海賊団の跡を継ぎ、現在では周辺の島々や沿岸の漁村にも影響力を持つ。
元々はどこにも属さない漁師たちの島だったが、漁だけでは立ち行かなくなり、周辺を通る商船から通行料の名目で物資を徴収したことが海賊化の始まりであった。
情と損得を両立する現実主義者であり、一度交わした約束は守り抜き、決めたことは曲げない。笑顔のまま相手に圧力をかけ、本質を見抜く鋭さを持つ一方、利益だけでなく「面白さ」も重視する。
晩年に授かった一人娘を後継者として育てていたが、偶然島へ逃れてきたジョナス=ミュラーと娘の婚約が成立したことで状況は一変する。舟に触れて間もなく才能を見せ始めたジョナスを高く評価しており、密かに紅鮭団の後継者にしようと考えている。
優しいが甘くはなく、情に厚いが島のためなら情を切ることもできる。「笑っている現実主義者」と呼ぶべき海の頭領である。
■ノリ=サーン
年齢:四十八歳
出自:サーン家傍流
立場:紅鮭団二頭領の一人
タカ=サーンの従弟であり、ローゼンベルク領より北西の海上にある小島を拠点とする海賊勢力「紅鮭団」を共に率いる二頭領の一人。父の代より続く海賊団の運営を支え、現在では周辺の島々や沿岸の漁村にも影響力を持つ。
短気で口が悪く、威圧的な態度から第一印象は完全に怖い人物である。しかし実際には、紅鮭団の中で最も「普通の感覚」を持つ常識人でもある。
感情がそのまま顔に出る性格で、言葉を飾らず嘘もつかない。身内には甘く、仲間を害する外敵には一切容赦しない。また、相手が同じ頭領のタカであっても間違っていると思えば遠慮なく反対意見を口にする。
感情的に見えて組織の現実を最も直視している男であり、その率直さと良識が紅鯨団の均衡を支えている。「怒鳴る良識人」と呼ぶべき海の頭領である。
敵陣営
■ゲルハルト=エリクセン
年齢:五十三歳
出自:エリクセン家傍流(先代当主の弟)
立場:エリクセン家後見人/実質的支配者
エリクセン家先代当主の弟にあたる人物。先代当主が原因不明の事故により急死した後、幼少の当主の後見人として家中の実務を掌握する立場に就いた。
当初は後見人として家政に関与していたが、次第に要職へ自らの息のかかった者を配置し、フォーゲル家重臣ハインリヒ=クラウゼンの支援を受けることで、家中の実権を事実上掌握するに至る。現在では幼い当主の権限は名目的なものに留まり、領政の大半はゲルハルトの意向によって決定されている。
ミュラー領への急襲を成功させ、旧ミュラー領をエリクセン領へ編入した立役者でもある。戦後は領内の塩を徴発し、旧ミュラー領でも略奪を行ってその戦利品をフォーゲルへ送り、自らの権威と地位を維持するためハインリヒへの接近を続けている。
領内では重税と強権的な統治を推し進め、その支配は秩序の維持よりも権力の固定化を優先する傾向が強い。フォーゲルとの結び付きを背景に軍事行動にも積極的であり、周辺領への圧力を強める一方で、領内外に不満と緊張を蓄積させている。
幼少期より兄と比較され、劣った存在として扱われ続けたことが影響しているのか、自己顕示欲は極めて強い。他者もまた自分と同じく名誉や権勢によって動くものだと信じており、その思い込みは彼の判断や統治姿勢にも色濃く表れている。
■ハインリヒ=クラウゼン
年齢:四十一歳
出自:不明(フォーゲル家臣として台頭)
立場:フォーゲル家重臣/策略担当
大領フォーゲル家に仕える重臣の一人であり、主に対外戦略および政略を担う人物。比較的若年ながら、その実務能力と成果によって家中での発言力を拡大している。
現在のフォーゲル家では、ナユリ王国への侵攻の長期化による重臣間の権力争いと、塩をはじめとする物資不足が深刻化している。
こうした状況下でハインリヒは、以前より関係を築いていたエリクセン家を実質的な従属下に置き、内通者も活用しながらミュラー領への侵攻を主導した。その結果、エリクセンからの徴発分と旧ミュラー領からの略奪分によって塩不足を一定程度緩和し、失策続きだった他重臣との差を示すことで家中での信頼を高めることに成功する。
現在はさらなる成果を期待され、エリクセンに追加確保を指示しているものの、協力者であるゲルハルト=エリクセンの強い自己顕示欲と独善的な判断には不安を抱き始めている。
状況を利用して成果へと転化する手腕に優れ、なお続く権力闘争の中で、その地位を着実に強めつつある。




