表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ち延びた三男坊、山で拠点を作ったらやがて帝国になった ――逃避行から始まり、拠点を作って勢力拡大。気付けば、帝国に成ってしまった件について  作者: 六駿
第二章 礎石

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/122

幕間14 湖上の戦い(五)結ばれた縁

 大陸歴一四〇七年六月九日


 共同軍の撤退から半日ほどが過ぎた頃、館では戦後の後始末が慌ただしく進められていた。


 負傷者の手当てや舟の修理、各拠点への連絡、失われた物資の補充手配など、頭領として決めなければならないことは幾らでもあった。フレンチは館の一室で次々と上がって来る報告へ目を通しながら指示を飛ばしていたが、生き残った湖賊たちはそれぞれの役目を理解して動いており、館も見た目ほど混乱してはいなかった。


 だからこそ、ある程度の目途が立ったところでフレンチは側近たちへ次の指示を出す。


「今夜は宴を開く」


 それは頭領として当然の命令だった。


 失ったものが少なくなかったとはいえ、勝利を宣言し、仲間たちを労い、生き残った者たちへ一区切りを与える場を設けることが必要である。


 だが、その命を下した当の本人は、どこが勝利だと内心で苦く笑わずにはいられなかった。


 確かに共同軍は退き、湖も守り切った。しかし、その代償が決して軽くなかったこともまた事実である。


 それでも頭領である以上、「実際は大損害だった」などとは口に出来ない。


 奴らが儂の言うことを聞くのは、儂が勝つからだ。忠義だの命懸けの覚悟だのではなく、勝つ頭領だからこそ付いて来る。


 だから言い聞かせる必要がある。


 我々は勝ったのだ、と。


 死んでいった者たちに報いるためにも、今夜は盛大に騒ぐのだ、と。


 そんなことを考えながら書状へ目を落としていた。


 その時、部屋の外から慌ただしい足音が近付き、ほどなくして一人の部下が入室の許可を求めてくる。


「頭領」


「何だ」


「現場で後片付けをしていた者たちから報告です。少々妙な連中を連れて来まして……」


 妙な連中という言葉に、フレンチは眉を上げた。


 共同軍の残党でも捕まえたのかと思ったが、続く説明は少し予想外だった。


「南方の山に住んでいると言う者たちです。領主の関係者には見えませんでしたので、一先ず連れて参ったとのことです」


 その瞬間、フレンチの表情が険しくなる。


「馬鹿者。どこの誰とも知れん人間を本拠へ連れて来るとは何事だ」


 部下が思わず肩を震わせるが、慌てたように言葉を続けた。


「い、いえ、その、場所は割れていないと思います」


「何?」


「目隠しをした上で舟へ乗せたそうで……。連中が館の場所を把握している可能性は低いかと」


 そこまで聞いて、フレンチはようやく息を吐いた。


 最初からそう言え。


 思わずそう言いたくなったが、実際に相手を連れて来る以上、部下なりに危険性は考えていたのだろう。


 しっかり手を打ってあるのなら、叱るまでの話でもない。


 何より、戦が終わったばかりのこの時期に、わざわざ姿を見せたという点は少し気になる。


 共同軍の残党という風でもなく、領主の使いにも見えない南方の山に住む者だと?その者たちは一体何者なのか。


 フレンチはしばらく考えた後、小さく椅子へ背を預けた。


「まあ良い」


 そして軽く手を振る。


「丁度こちらも身体が空いたところだ。会おう」


 その言葉に部下が姿勢を正す。


「呼んで来い」



 二人が連れて来られたのは、それから程なくしてのことだった。


 一人は落ち着いた雰囲気を纏う男であり、もう一人はそれより若く見える。どちらも旅の途中であることを示すような格好をしていたが、不思議なことに荒事を生業としている者特有の荒んだ空気が薄く、かといって商人や職人とも違う。


 館へ案内されても必要以上に怯える様子はなく、周囲を忙しなく見回すこともない。むろん警戒していない訳ではないのだろうが、それを表へ出さぬ程度には場慣れしているように見えた。


 フレンチは二人を観察しながら、まずは向かいの席を示した。


「遠路ご苦労であったな。儂はフレンチ。この湖賊を率いている」


 二人が席へ着いたのを確認してから続ける。


「まずは話を聞こう。南方の山に住んでおるそうだが、何用でここまで来られた」


 すると年長に見える男が軽く頭を下げた。


「突然の来訪にも拘らず、お時間を頂き感謝致します。私はマティアス。隣に座るがレオンと申す。見知りおきください」


 隣に座る若い男も軽く頭を下げる。


 山に住む者と聞いていたので、もっと粗野な連中を想像していたが、実際に現れた二人はその予想から大きく外れていた。


 言葉遣いひとつ取っても賊や流れ者の類ではなく、礼儀を知り、人前でどう振る舞うべきかを理解している。


 少なくとも湖賊の頭へ会いに来たとは思えぬほど自然に会話を進めている。


 それだけのやり取りだったが、フレンチは内心で警戒を一段引き上げていた。 


 そのフレンチの考えを余所に、マティアスは穏やかな口調のまま話を続けた。


「我々は主の命により、南方の拠点から湖を回る形で周辺の街道や地形を確認しておりました。その帰路にて偶然、此度の戦へ遭遇した次第です」


「ほう」


 主の命という言葉にフレンチは僅かに眉を動かした。


 少なくとも二人の上には誰かがいる。


「誠に勝手ながら開戦前から一部始終を見させて頂きました」


 随分と正直な男である。普通ならば多少は誤魔化すところであろうに、その口調には妙な開き直りも嘘臭さも感じられなかった。


「つまり儂らの戦を見物しておったと」


「その通りです」


 否定すらしない辺りが、ますます分からん。


 フレンチは表面上こそ笑みを崩さなかったが、頭の中では相手の正体について幾つもの可能性を並べ始めていた。


 だが、この二人が見た目以上に厄介な相手であることだけは既に察していた。


 すると今度はレオンが口を開いた。


「それでですね」


 どこか気楽な調子だった。


「我々の住む山と、この湖は隣り合っておりますので」


「ふむ」


「隣家への挨拶くらいはしておこうかと思いまして」


 フレンチは思わず瞬きをした。


 隣家。


 今この男は隣家と言ったか。


「それで湖岸へ降りて声を掛けさせて頂いたところ、思いのほか話が進みましてね」


「なるほど」


 なるほどではない。


 どういう経緯でそうなる。


 だが表情には出さずに返答をする。


「すると、此度は挨拶ということですかな、ご丁寧に痛み入る。今後とも良しなに」


 この程度の挨拶で帰ってくれるのであれば、それが一番良い。


 するとレオンは少しだけ笑った。


「まあ、正直に申し上げると挨拶というのは半分ほど口実です」


「ほう?」


「面白そうだったので」


 一瞬、部屋の空気が止まった。


「おい」


 隣のマティアスが即座に咎める。


「もう少し言い方というものがあるだろう」


「いや、でも本当でしょう」


「本当だから問題なのだ」


 フレンチは黙って二人を見ていた。


 何だこいつらは。明らかに立場が上の儂が目の前いるにも拘らず、全く遠慮をしている風が無い。


 そもそも、この二人の関係性は一体どのような物なのか。若い方が上役と考えるべきか、それとも上下など気にせず振る舞える環境なのか。取り様によっては主の統制が効いていないとも取れる。


 そしてフレンチ自身、その奇妙さに少し興味を抱き始めていることを自覚していた。


 するとレオンは気にした様子もなく話を続ける。


「戦を見せて頂いた上で、やはりというか、領主の軍と対立関係と見ました」


「まあ、そうであろうな」


「それであれば我々とも共通する部分があるかもしれません」


 レオンはそこで僅かに身を乗り出し、先程までの気楽な空気が少しだけ薄れる。


 ようやく本題か。


 フレンチも自然と相手を見据えた。


「そこで一つ、お尋ねしたいのです」


「何かな」


「我々と手を結ぶ余地がないかと愚考した次第ですが、フレンチ殿は如何お考えでしょうか」




 レオンの言葉を聞きながら、フレンチはすぐには返答しなかった。


 手を結ぶなどと言うのは簡単だ。しかし、湖で生きる者と山で生きる者では、そもそも見ている世界が違う。


 物資の融通や情報のやり取り程度ならば思い付くが、それとて相手の正体が分からぬ以上、安易に頷ける話ではなかった。


 何より、フレンチは未だに二人の素性を掴み切れていない。どこの誰なのか、何を持ち、どれほどの力を抱えているのか。それが分からぬままでは、協力も警戒も判断のしようがなかった。


「ほう。手を結ぶ、か」


 フレンチは椅子へ背を預けながら二人を見た。


「どのように、と聞くべきなのだろうが、それ以前に儂は貴殿らが何者なのかも知らぬ。何が出来て、どの程度の力を持っておるのかも分からぬ相手へ、軽々しく返事は出来ぬな」


 するとレオンは納得したように頷いた。


「それもそうですね」


 そして隣へ視線を向ける。


「どう思われます、マティアスさん」


 確認するような口調だった。


 それを受けたマティアスも少し考えた後、静かに頷く。


「そうだな。問題が無いとは言い切れぬが、少なくともフレンチ殿であれば構わんだろう」


 そう前置きした上で、彼は真っ直ぐフレンチを見た。


「実は我々も、正規の領主軍とは敵対関係にあるのです」


 その言葉に、フレンチの眉が僅かに動く。


「敵対関係?」


「ええ」


「すると何だ。奴らは湖へ兵を向けながら、山にも兵を回しておるのか」


 思わず声が低くなった。


 それは聞き捨てならぬ話だった。


 今回の共同軍だけでも決して軽い相手ではなかった。それにも拘らず、なお別方面へ兵を割く余裕があるというのなら、こちらが辛うじて追い返した軍など連中にとっては片手間に過ぎず、次は更に大きな軍勢が湖へ押し寄せることになる。


 そんな想像が脳裏を過ぎる。


 だがマティアスは慌てて首を横へ振る。


「ああ、いや、申し訳ない。誤解をさせてしまいましたか」


 そう言いながら後頭部を掻く。


「まだ我々は戦端を開いておりません。それ以前に、見つかってもいない」


「見つかっていない?」


「ただ隠れているだけですよ」


「なるほど……」


 フレンチはゆっくり頷いた。


 なるほど。


 全く分からん。


 つい先程までの儂は、領主どもが湖へ兵を向けながら山にも軍を差し向けるほど余力を残しており、今回退けた共同軍などその一部に過ぎなかったのだと考えていた。


 その先に待つ結末など、考えるまでもない。


 儂の頭の中では既に湖賊滅亡まで話が進んでいたというのに、それを僅か数言でひっくり返してくる辺り、中々どうして恐ろしい策略家である。


 フレンチがそんなことを考えていると、マティアスは改めて姿勢を正した。


「我々は西方にて小領ながら領主を務めていたミュラーという家の生き残りです」


 フレンチの思考が止まる。


「残党と言うべきでしょうか。エリクセンとフォーゲルによる急襲を受け家は滅亡し、現在はこの地で再起を図っております」


 言葉は聞こえているのだが理解が追い付かない。


 ミュラー家。


 今、ミュラー家と言ったか。


 しかもそれが滅亡。


 更にエリクセンとフォーゲル。


 短い時間の中で、予想もしなかった名が次々と投げ込まれ、フレンチは思わず相手の顔を見直した。


 冗談を口にしている様子はない。少なくとも本人たちは本気で語っている。


「待て」


 自然と声が漏れた。


「その話、少し詳しく聞かせてもらえるか」


 そして続ける。


「儂らは御覧の通り湖で暮らしておる。そのせいで世情には少々疎くてな」


 一度言葉を区切り、確認するように尋ねた。


「ミュラー家とは、西部四十八家のあのミュラー家か」


 エリクセンとフォーゲルの名まで出た以上、恐らく間違いは無いのだが、それでも確認せずにはいられなかった。


 するとマティアスは静かに頷いた。


「ご存じでしたか。ええ、そのミュラー家です」


 その顔へ僅かに苦味が浮かぶ。


「去る三月、エリクセンの急襲を受け陥落致しました。その際に脱出した領主の御子息が、今は南の山で力を蓄えております」


 悔しさを滲ませながら語り始めた表情は、話が主へ及ぶにつれて少しずつ誇らしさへ変わっていく。


 少なくとも嘘ではないということだけは、伝わって来た。


「故に、未だ戦端は開いておりませんが、潜在的にはフレンチ殿と同じく領主たちと対峙する立場にあります」


 マティアスは真っ直ぐ言った。


「それを踏まえた上で、連携は成らぬものか。それが本日の趣旨です」


 フレンチはしばらく黙っていた。


 そして誰へともなく呟く。


「……そうか」


 声は思った以上に静かだった。


「ミュラー家が滅んだか」


 フレンチはそう呟くと、しばらく二人の顔を見つめた。


 正直な感想を言うのであれば、随分と思い切った話をしたものである。


 確かに儂は領主の軍と争っている。しかし、それは別に領主どもを憎んでいるからではない。我らの住処である湖を守るためであり、ここで生きることさえ認められるのであれば、別段こちらから争う理由など存在しない。


 それこそ、この場で聞いたミュラー家の話が我らの利益になるというのであれば、その潜伏先を領主へ売ることに躊躇などせぬだろう。


 にも拘らず、この二人はそれを明かした。


 また、南の山に潜伏しているという話にも危うさを感じていた。


 湖と山では事情が違う。我らの住処である湖は舟がなければ容易に近付けぬが、山は歩けば辿り着ける。どれほど深い山中へ潜もうとも、絶対の安全など有り得ない。


 南に山など幾らでもあるとはいえ、領主どもが本気で探し始めれば、いずれは見つかる。


 それでも語ったということは、その危険を承知の上でなお話す価値があると判断したのか。


 あるいは、そこまで考えていないだけか。


 ……いや、それは無いな。


 ここまでの受け答えを見る限り、少なくとも愚か者ではない。


 ならば覚悟の上か。


 そう考えたところで、フレンチは僅かに口元を緩めた。



 面白い。



 少なくとも、話す価値のない相手ではない。


 それに、相手がミュラー家であるというのは無視できぬ話でもある。万に一つでも再興が成るのであれば、この湖だけでは得られぬ陸との繋がりが生まれる可能性がある上、つい先ほどまで考えていた息子たちへ陸の景色を見せてやりたいという願いとも不思議なほど噛み合っていた。


 父が最後まで諦めきれなかった故郷というものを、一度くらいは見せてやれるやも知れん。


 それを考えれば、この縁は悪くない。


 いや、むしろ面白いと言うべきか。


 手のひらを軽く前へ翳し、フレンチはしばらく考えを整理してから口を開いた。


「うむ。そういう話であれば、これも何かの縁かもしれんな。ならば少し儂の昔語りをしよう」


 マティアスとレオンが姿勢を正す。


 それを確認したフレンチは、椅子へ深く腰掛け直しながら、ゆっくりと語り始めた。


「儂は生まれながらの湖の人間ではない。西部四十八家の支配する地の南部、その中でも湿地帯が多い土地で生まれ育った」


 口にするのも随分久しぶりだった。


「幼い頃に色々あってな。父に連れられ故郷を離れた。その後は放浪よ。今日の寝床を探すことだけで精一杯の暮らしを続けながら各地を転々とし、最後に流れ着いたのがこの湖だった」


 語りながら思い出すのは、まだ小さかった頃の記憶である。


 父に手を引かれながら歩いた見知らぬ土地。


 今となっては断片しか残っていないが、それでも完全に忘れたわけではなかった。


「最初は本当に何も無かったな。身内と、父に付いて来た僅かな者たちだけだ。舟も少なく、人も少なく、食うにも困る有様だった」


 そこでフレンチは小さく笑う。


「それでも少しずつ仲間が増え、舟が増え、子が生まれ、父が亡くなり儂が跡を継ぐ頃には、それなりの物に成っていた」


 湖賊と呼ばれてはいる。


 だがフレンチの中では、ここは単なる賊の根城ではない。


 家であり、村であり、故郷であった。


「父は死ぬまで陸へ戻りたいと言い続けていたな」


 その言葉だけは、少し静かになった。


「故郷を懐かしんでおった。湿地の景色を、陸の暮らしを、何度も何度も語っておったものだ」


 だが自分は違う。


 湖で生き、湖で家族を作り、湖で歳を取った。


 今さら故郷へ帰りたいとも思わぬ。


「儂自身はそこまでではないがな」


 フレンチは少しだけ目を細めた。


「それでも時折、幼い頃の景色を思い出すことはある。息子たちが何を選ぶかは奴ら次第だが、一度くらいは陸というものを見せてやりたいと思うこともあるのだ」


 そこで話を終えたフレンチに対し、レオンが感心したように頷いた。


「なるほど。フレンチ殿は生まれながらの湖賊ではなかったのですな。道理で思っていた雰囲気と違うわけです」


「雰囲気か」


「ええ。もっと荒っぽい人物を想像しておりましたので」


「失礼な奴だな。まあお互い様だが」


 苦笑しながら返したところで、フレンチはふと一つ思い出した。


 肝心なことを、まだ話していない。


 ここまで昔語りをしておきながら、一番重要な部分だけ抜け落ちていた。


「改めて名乗るべきであろうな」


 二人の視線が集まる。


 フレンチは背もたれから身体を起こし、真っ直ぐ二人を見た。


「儂はフレンチ=ドレッシンと申す」


 フレンチは静かに続けた。


「元はミュラー家と同じく、西部四十八家の一つとして南方湿地帯を治めていたドレッシン家の生き残りだ」


 そして少しだけ口元を緩める。


「つまりは貴殿らの主と同じ立場ということになるな」


 その言葉が落ちた瞬間、それまで比較的砕けた調子を崩さなかったレオンの表情が僅かに変わった。


 隣のマティアスもまた驚きを隠せぬ様子で目を見開き、二人はほとんど同時に居住まいを正す。


「それは……失礼致しました」


「まさか、そのような方とは思わず」


 先ほどまで「面白そうだったので」などと口にしていた若者とは思えぬほど自然な所作で、レオンは膝を直し頭を下げた。


 フレンチはその様子を眺めながら、内心で小さく唸る。


 これは単なる無礼ではない。


 先ほどまでの気安さも、今こうして礼を尽くす姿も、どちらかが取り繕ったものではなく、その場に応じて必要な振る舞いを選んでいるだけなのだろう。


 くだけるべき場ではくだけ、礼を尽くすべき場では礼を尽くす。


 それが出来るということは、人の顔色ばかり窺って生きてきた者ではないということだ。


 互いに余計な説明を必要とせず、それぞれが何をすべきか理解して動いているからこそ、あの砕けたやり取りも成り立っていたのだろう。


 少なくとも、この二人については信用しても良い。


 そして、そのような者たちを傍へ置き、自由に振る舞わせている主もまた、ただ者ではあるまい。


 奇縁と言ってしまえばそれまでだが、こうして湖の真ん中で顔を合わせたのも何かの巡り合わせなのかもしれない。


 万に一つ、この縁が本物となるのであれば、息子たちへ陸を見せるという長年の願いにも繋がるやもしれぬ。


 そう考えると、悪い話ではなかった。


 フレンチは小さく笑うと、二人へ向き直った。


「そう硬くなるな。同じような道を歩む者同士だ。せっかくの縁でもある」


 そして、軽く手を振る。


「今夜は戦勝の宴を開く予定でな。貴殿らも参加すると良い。もっと色々と話を聞かせてくれ」


 二人は顔を見合わせ、それから改めて頷いた。


「ありがとうございます」


「では、お言葉に甘えさせて頂きます」


 さて、この二人がどういう人間で、その後ろに居る主がどんな男なのか、しっかり見定めさせてもらおうか。

もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ページ下部の☆を押して評価をお願い致します!


作者の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ