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第24話 運ぶ日

大陸歴一四〇七年四月四日


 アルスは、まだ火の熱がわずかに残っている地面へ視線を落としたまま、昨夜のうちに頭の中で組み直していた数字を、改めて順に辿り直していた。


 昨日までは、どれだけ残っているのかという消費の側から考えていたものが、今は少し形を変えている。どれだけ持ち帰れるかという側へ意識を移した瞬間、残り二日という猶予は、まるで別の意味を持ち始めていた。


 採れる場所は、もう見つかっている。


 量がないわけでもない。


 問題になっているのは、そこではなかった。


 必要なのは、それを持ち帰るための手の数だった。


 拾えるものが目の前にあっても、運べなければ存在しないのと同じになる。


 火の周りでは、昨日と同じように人が動き始めていた。


 採集へ向かう準備をしている者たちは、黙ったまま縄を束ねたり、袋の口を結び直したりしている。誰かが細かく指示を出しているわけではない。それでも、昨日決めたことがそのまま今日の形になろうとしていることは、その動きを見ているだけで十分に読み取れた。


 アルスはしばらくその様子を見ていたが、やがて採集の準備をしている方へ視線を向け、特に前置きを置くこともなく口を開いた。


「採れる場所は見つけたし、量もあるんだ。足りてないのは、持ち帰る手だね」


 その言葉が落ちる。


 誰かが何かを返そうとするよりも早く、アルスは続けた。


「今日は俺も行く」


 その瞬間だけ、周囲の動きが僅かに止まった。


 建設へ回ろうとしていた者の一人が顔を上げ、少し躊躇うように口を開く。


「……こちらは」


 最後まで言葉になる前に、アルスは首を横へ振った。


「寝る場所も必要だよ。こっちはこっちで続けて」


 言葉自体は短い。


 だが、その言い方から建設を軽く見ているわけではないことは十分に伝わる。むしろ必要であることを理解した上で、それでも今は優先が別の場所にあるということだけが、余計な説明を挟まず示されていた。


 ヴァルターはそのやり取りを聞くと、一度だけ小さく頷き、そのまま材木の方へ視線を戻した。


 言葉はなかった。


 だが、その仕草だけで十分だった。


 こちらは任せろ。


 そう言っているのと変わらない。


 アルスはその姿を一度見てから、今度は採集へ向かう側へ視線を移した。今日はこちらへ加わることになったマティアスは、既に縄の結び目を確認しているところだった。


 アルスはその方へ歩み寄る。


「荷は持てるだけ持ってきたい。往復もしよう」


 マティアスは手を止めることなく、短く返した。


「はい」


 短い返事だったが、その声に迷いはない。


 決まったならやるだけだと、その程度の当たり前さで受け止めていた。


 そのやり取りの端で、孤児の妹がこちらを小さく見上げていた。


 何かを言いたいのか、それとも連れて行ってもらえるかを待っているのかは分からない。


 だがアルスは言葉を挟まず、視線だけを向けて小さく首を振った。


「お前は残れ」


 それだけだった。


 それで十分だった。


 少女は一度だけ唇を結び、それ以上何も言わずに視線を落とした。


 今の状況で考えるなら、持ち帰れる量と子供を連れていく危険性を比べた時、連れて行く意味がなかった。誰かの気持ちではなく、必要なものを並べた結果として出てくる判断だった。


 アルスはそれ以上そこへ視線を留めることなく、近くに置かれていた袋を一つ手に取る。


 そして山の麓へ続く方角へ目を向けた。


「行こうか」


 その一言を合図にするように、採集へ向かう者たちが一斉に動き出す。


 誰が先頭で、誰が後ろと決まっているわけではない。


 それでも、それぞれが自分の持てる分を手に取り、自然と歩き始めていた。昨日までの僅かなばらつきはまだ残っている。だが、それでも既に一つの流れとしてまとまり始めていることは感じ取れた。


 背後では、建設へ回った者たちが再び材木を動かし始める音が聞こえてくる。木が擦れる音や、誰かが呼び掛ける声が少しずつ遠ざかっていく。


 だがアルスは振り返らなかった。


 その音を背に受けたまま、前だけを見て歩を進めていく。


 今日は、運ぶ日だった。


 採れるものを取り、持てるだけ持ち帰る。


 それ以外のことは考えない。


 そう決めてしまった単純さは、かえって余計な迷いを削ぎ落としていた。残された二日という猶予の中で、何を積み上げるべきなのか。


 その問いに対して今出せる答えとしては、それで十分だった。



 道そのものは、昨日と同じなので既に標となりつつあった。どちらへ向かえばいいのかを探りながら進む感覚はほとんどない。木々の間を抜ける順番も、足場の悪い場所も、自然と身体が覚え始めている。


 迷う余地がないというだけで、人は思っていた以上に余計な力を使わなくて済むものだった。


 先頭を歩いているマティアスが、振り返ることもなく手だけで進路を示す。言葉はない。それでも十分だった。


 アルスもまた、その後ろを歩きながら、「この道を行けば辿り着く」という共通認識の中へ身を置いていた。誰かを率いるというより、今は自分もまた一人の運び手として列の中へ加わっているだけだった。


 採集地へ辿り着くと、誰かが合図を出したわけでもないのに、それぞれが自然と散っていく。


 拾う者、束ねる者、袋へ詰める者。


 それぞれの動きに多少の違いはあったが、何をするべきか迷って立ち止まる姿はほとんど見られない。


 そして、すぐに分かった。


 採ること自体は難しくない。


 その事実は、実際に手を動かしてみればすぐ理解できるものだった。アルス自身もまた、繰り返しの中で、どの順番で拾えば無駄なく回れるのか、何を先に集めれば効率がいいのかを少しずつ身体で覚え始めていた。


 だが、その実感がそのまま気楽さへ繋がるわけではなかった。


 袋は思った以上に早く膨らんでいく。


 肩へ掛けた縄が少しずつ食い込み、持ち上げた瞬間に重さが腕へ伝わる。足を踏み出した時の感覚も、一段だけ深くなる。


 これを一度運び切るだけでも、相応の負担になる。


 その事実は、十分過ぎるほど理解できた。


「思ったより、簡単に貯まるね」


 誰へ向けたともつかない声が落ちる。


 近くで同じように袋を持ち上げていたローザが、小さく息を吐いた。


「採るのは早いんですけど、運ぶのは別なんですよね」


 アルスはその言葉を聞きながら、自分の手にある袋へ視線を落とした。


 持ち上げるだけなら持てる。


 だが、それを山の上まで運ぶ話になると別だった。


 少なくとも、今日は昨日と違い一度で終わる選択などない。


 そのことだけは明らかだった。


 一度目の往復は、まだ身体が動いていた。


 坂を上り、拠点へ戻る道のりも、足が止まるほどではない。途中の会話も完全に途切れることはなかった。


 運ぶという行為が負担であることは理解している。だが、その負担はまだ限界へ直結するものではなく、「疲れる」で済む範囲に収まっていた。


 拠点へ戻り、肩から荷を下ろした瞬間には、はっきりと分かるほど身体が軽くなる。


 肩へ掛かっていた重みが抜けるだけで、呼吸まで少し楽になる感覚があった。


 だが、そこで終わりではない。


 誰も何も言わなかった。


 それでも自然と再び袋へ手が伸び、また同じ道へ戻っていく。


 二度目に採集地へ向かう頃には、先ほどまでの軽さはもう残っていなかった。


 同じ距離を歩いているはずなのに、道が少し長くなったように感じる。足そのものは動いているが、身体の内側では確実に何かが削れていた。


 それでも作業は滞らない。


 短い時間で、再び袋は膨らみ始める。


 その途中だった。


 周囲の視線が、一瞬だけ別の方向へ向いた。


 昨日の段階で、狩猟班と合流するならこの辺りだろうと考えていた時間である。


 アルスもまた手を動かしながら、一度だけ顔を上げた。


 だが、その先に人影はない。


 木々の間にも、動くものは見えなかった。


 遅れているだけか。


 まず最初に、その可能性を当てはめる。


 予定通りに進まないことはある。明確な時間を決めていたわけでもない。


 ただ――もう合流していても不思議ではない程度の時間は過ぎていた。


 誰かが怪我でもしたのだろうか。追うなと言ったのに獲物を追っているのか。あるいは単純に遅れているだけなのか。


 だが、それならなおさら妙だった。


 一度くらいは誰かを寄越してもよさそうなものだった。


 もし位置を見失っているのだとしたら――


 アルスはそこまで考えたところで、思考を止めた。


 違和感を言葉にはしない。


 今見えていない。


 まずはその事実だけを、そのまま置いておく。


 二度目の採集が終わりに近付き、袋の口を縛る頃になっても、なお新しい気配は現れなかった。


 まだ来ない。


 それはもう、ただの遅れとして片付けるには少し重いものになり始めていた。


 二度目の採集を終えた頃には、肩へ掛かる重さは一度目とは比べものにならなくなっていた。


 だが、それ以上にはっきりしていたのは、ここから待っている道が下りではなく上りだという事実だった。


 来る時にはほとんど意識せず歩いていた斜面が、今はそのまま目の前へ立ち塞がっているように見える。


 最初の一歩を踏み出した瞬間に分かる。


 上りになっただけで、足の運びは別物になる。


 踏み込んだ足へ身体がついてこない。


 一度目の帰りにはまだ残っていた会話も、この二度目ではほとんど消えていた。


 今はただ、足を止めないことだけが優先されていた。


 アルスもまた、その流れの中で同じように歩く。


 歩調を乱さないよう意識しなければならない程度には、自分の余力も削られていることを認めざるを得なかった。


 それでも、足を止める者は誰もいなかった。


 止まったところで、この重さから逃げる方法があるわけではない。


 その単純な事実だけが、全員の選択を同じ方向へ揃えていた。


 ようやく中腹の拠点が見えた時、誰かが小さく息を漏らした。


 それは休息への安堵ではなく、ただ一区切りへ辿り着いたことへの反応だった。


 まだ終わっていない。


 それは全員が分かっていた。


 アルスは、地面へ下ろされた袋の量を一度見渡し、ここまででどれだけ運び込めたのかを頭の中で素早く組み直していた。


 昨日の段階で考えていた想定は、わずかではあるが上回っている。


 それ自体は悪くない。


 むしろ、ここまでの疲労を考えれば十分に成果は出ていると言ってよかった。


 だが、それで足りるかという問いに対しては、答えはまるで別だった。


 足りない。


 その判断だけは、迷う余地がなかった。


 さらに、本来であればそこへ加わるはずだった狩猟班の成果が、未だ見えていないという事実もあった。もし合流していれば、その分は上積みとして計算に入れられる。だが、まだ姿を見せていない以上、それを当てにした数字を組むことはできない。期待を前提にした計算は、外れた瞬間に崩れる。


 そのことも含めて、アルスは頭の中で一つずつ整理していく。


 ここまで来ても、まだ来ない。


 遅れているだけという説明で済ませるには、少し時間が過ぎていた。


 だが、だからといって、いまこの場で確かめに動けるだけの余裕もない。


 アルスは一度だけ山の裾野の方へ視線を向けた。


 木々の向こうに、人の動きは見えない。


 その確認だけをすると、それ以上は追わず、視線を切り上げて再び目の前の荷へ意識を戻した。


 ここで終わらせれば、おそらく維持になる。


 消費する人数を考えれば、増やしたことにはならない。


 ただ今日一日を少し先へ延ばしただけだ。


 その一点だけは、もう揺らがなかった。


 アルスは息を整えながら、周囲にいる者たちの様子を順に見ていく。


 肩で息をしている者。


 膝へ手をついたまま呼吸を整えている者。


 何も言わず立っている者。


 疲労の形はそれぞれ違っていたが、誰がまだ動けて、誰が限界へ近いのかは、短く見回すだけでも十分に読み取れた。


 その様子を確かめ終えると、アルスは声を張り上げることなく、それでも全員へ届く程度の強さで言葉を落とした。


「ここまでで終わらせるなら、それでもいい。その場合は、今日の分を一日延ばしただけになると思う」


 一度言葉を区切る。


「狩猟班が合流していない以上、これだけじゃ上積みにはならないだろうし、狩猟の結果がどうであれ、それに頼る形になるなら外した時にそのまま崩れることになる」


 そして、少しだけ視線を巡らせながら続ける。


「それを避けるなら、もう一回下へ降りて運ぶしかない。ただし全員で行く必要はないよ。身体がついてくる者だけで行こう。途中で止まるくらいなら、残って明日頑張ればいい」


 長く続けられたその言葉は、普段のアルスと比べて少し乱暴な言い方にも聞こえた。


 選択肢を示しているようにも聞こえる。


 だが、その実、ここで残ることが何を意味するのかを理解している者にとっては、ほとんど答えは一つしかないに等しかった。


 最初に立ち上がったのはマティアスだった。


 迷いはない。


 それに続くように、共に動いていた兵たちも腰を上げる。


 ヨアヒムは一度だけ腰を叩き、大きく息を吐いてから顔を上げた。


 その表情には面倒そうな色がはっきりと浮かんでいたが、それでも結局は袋へ手を伸ばす。


 そして、わずかに遅れてローザと孤児の兄も動いた。


 二人とも、消耗していることは立ち上がる動きの重さだけで十分に分かる。


 足に力を入れるだけでも負担になっていることが伝わってくる。


 それでも座ったまま残るという選択をしないのは、ローザにおいては元来からの負けん気によるものだったし、孤児の兄は、生きるということの難しさを誰より身近で知っているからだった。


 止まった先に何があるのかを、もう知っている。


 アルスはその様子を見ても、特に止めることはしなかった。


 ただ、小さく頷きを返す。


 それだけで十分だった。


 そして再び、山の裾野へ続く道へ視線を向ける。


 三度目の往復になる。


 行きは、また下りだ。


 だが、帰りは――


 同じ坂を、もう一度上ることになる。


 三度目に山の裾へ向かって歩き出した頃には、ここまでほとんど意識することのなかった下りの斜面ですら、踏み出した足に対してわずかな抵抗を返してくるように感じられた。


 もちろん、地面そのものが変わったわけではない。


 道は朝から何も変わっていない。木々の並びも、足場の悪い場所も、石の出ている箇所も同じままだ。変わっているのは、自分たちの側だった。


 先ほどの上りで削られた脚の筋肉が、十分に戻りきらないまま再び動かされている。身体の奥に残った疲労が、鈍い重さとして少しずつ積み上がり始めていた。


 アルスもまた、その流れの中を歩きながら、先ほどの上りでどこに負担が溜まっているのかを確かめるように身体の内側へ意識を向けていた。


 太腿の奥に残る重さ。


 踏み込むたびに少しずつ感じる張り。


 だが、確かめたところで何かが軽くなるわけではない。


 結局のところ、それを受け入れたまま歩き続けるしかなかった。


 何気なく横へ視線を流すと、自然とローザと孤児の兄の姿が目に入る。


 二人とも、明らかに余力は少なくなっていた。


 歩幅は少しだけ短くなっている。足の上げ下ろしにもわずかな遅れがあり、前との距離が開くたび、小さく駆けるような動きを挟んで列へ追いついていた。


 それでも、列から外れることはない。


 体力が残っているからではなかった。


 むしろ逆だった。


 身体は限界へ近付いている。


 それでも動いているのは、自分で行くと決めたからだ。


 ここで止まるわけにはいかないという、意地に近いものが身体を引っ張っているように見えた。


 助けるべきか。


 その考えが頭を過ぎらないわけではない。


 だが同時に、自分自身を振り返れば、人を支えられるほどの余裕が残っていないことも理解してしまう。


 アルスはその事実へ余計な意識を割くことをやめた。


 いま必要なのは誰か一人を支えることではなく、全体の流れを崩さないことだった。


 そう判断を置き直し、そのまま歩を進める。


 やがて三度目の採集地へ辿り着いた。


 三度目ともなれば、流石に目に見えて減っているかもしれないと思っていた。


 だが、現実は違った。


 手を伸ばせばまだ拾える。


 少し場所を変えれば、さらに見つかる。


 そこにはまだ、十分過ぎるほどの量が残されていた。


 その事実は、当分は何とか繋げられるという小さな安心感をもたらしていた。


 まだ終わっていない。


 まだ取れる。


 その感覚だけでも、人の気持ちは少し軽くなるものだった。


 そして――


 やはり、狩猟班の姿はない。


 アルスはその場で一度だけ視線を巡らせる。


 木々の間の揺れ。


 遠くから聞こえる音。


 人が動けば、何かしらの気配は現れる。


 だが、何もない。


 ここまで来ても合流がないという状況は、もはや単純な遅れや行き違いではないと判断せざるを得ない。


 何かが起きている。


 三度目の帰着後には、捜索へ出る必要があるかもしれない。


 その考えは自然と頭に浮かび上がる。


 だが――


 今はまだ、その時ではなかった。


 アルスは一度だけ視線を落とし、呼吸を整えながら自分たちの状態を測り直していた。


 自分はまだ動ける。


 だが余裕は少ない。


 ローザと孤児の兄は、もう限界が近い。


 マティアスたちも表へ出していないだけで、負担は確実に積み重なっている。


 ここで無理をすれば、帰りの上りで崩れる。


 あるいは明日へ響く。


 それでは意味がなかった。


 アルスは顔を上げ、散り始めていた者たちへ声を掛ける。


「今日一日で三回もここへ来た。欲張って背負い込めば、帰りの上りで必ずどこかに無理が出る。この坂は馬でも誰かが引かなければ上がれないくらい急なんだ。明日動けなくなれば、今日の分も無駄になる。だから今回は、それぞれが確実に持って帰れると思う分だけにしよう。上まで運び切れるかどうか、それだけを基準にして」


 そこで一度言葉を区切り、続ける。


「大丈夫。この三回目は上積みになるはずだから」


 その言葉は制限でもあり、同時に許可でもあった。


 これ以上は求めない。


 その線をはっきり引くことで、無理をしてでも多く持とうとする動きを抑え、結果として全体の成功率を上げる判断だった。


 反論する者はいない。


 むしろ基準が示されたことで、それぞれが自分の身体と相談し始める。


 さっきまでのように袋を膨らませることが目的ではなく、今度は運び切ることが前提になっていた。


 アルス自身も袋へ手を伸ばし、少し量を調整して口を縛る。


 それ以上は加えない。


 そして静かに背負い直した。


 三度目の帰り道は、最初から楽ではなかった。


 再び上りへ差しかかる頃には、苦しみながらも何とか一歩ずつ進み続けられる程度に収まっているというだけだった。


 呼吸は浅くなる。


 視線は自然と足元へ落ちる。


 誰も顔を上げる余裕がない。


 ようやく中腹の拠点が見えた時には、そこへ辿り着くこと自体が一つの到達として身体に認識されるほど、消耗は限界へ近付いていた。


 荷を下ろした瞬間、支えていた力が抜ける。


 袋が地面へ落ちる音と同時に、何人かがその場へ座り込み、あるいは膝をついたまま動かなくなった。


 それを咎める者はいない。


 立ち続ける理由が、今この場にはなかったからだった。


 それでも時間だけは止まらない。


 アルスは息を整えながら、山の裾野へ続く方角へ視線を向けた。


 だが、そこに新しい動きはない。


 狩猟班は、まだ戻っていなかった。

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