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落ち延びた三男坊、山で拠点を作ったらやがて帝国になった ――逃避行から始まり、拠点を作って勢力拡大。気付けば、帝国に成ってしまった件について  作者: 六駿
第三章 芽吹

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第84話 俺の考える最強の布陣

初めてランキング入りしました。皆さんのお陰です。ありがとうございます。

 大陸歴一四〇七年十月三十日


一晩考えても答えは出なかったため、結局更にもう一日考えることにした。


 悩みに悩んだ末、一つだけ腹を括ったことがある。


 交易班長として、ヨアヒムの名前に付けていた「仮」は外そう。責任者として未熟な部分はあるのは、一昨日改めて痛感した。それでも現状、交易を任せられる他の適任者は多忙を極めている。


 ならば腹を括り、任せるしかない。そこまでは決められた。


 だが、本当に悩んでいるのはそこじゃない。


 問題は、マティアスが言っていた、面倒見の良い副官なり補佐なりを付ければ良いという話だ。


 理屈は分かる。


 実際、その役目を本人が言うようにマティアス自身が担えば、これ以上安心できる人選は無いだろう。だが、それで本当に良いのか。


 マティアスには、やるべき仕事が山ほどある。


 そんな人間へ、更に交易まで背負わせることになる。


 優秀だから任せる。


 その理屈を繰り返していけば、結局は何もかも同じ人間へ集中してしまう。


 それでは組織を作る意味が無い。


 だからといって、他に安心して任せられる者が居る訳でもなかった。考えれば考えるほど、堂々巡りになる。


 誰かへ相談したくても、ゼダンは最後の最後で「砦主の専権事項です」と綺麗に逃げてしまった。


 結局、この答えだけは俺自身で決めるしかない。


 誰も完全な正解など持っていない。


 だからこそ、自分で納得できる答えを探すしかないのだ。


 そして、悩み抜いた末に出した答えがこれだった。


 苦肉の策と言えば、その通りなのだろう。


 有為の人材が突然現れる訳でもない以上、今いる者たちで組織を回していくしかない。


 その現実を受け入れた上で、俺は一つの役職を新たに加えることにした。


 ――班長助勤。


 副班長ではない。補佐とも少し違う。責任者を支え、その成長を助けるためだけの立場。


 そういう意味を込めた役職だった。


 そして、その考えを形にしたのが、この人事案である。


_________________________


総帥 アルス=ミュラー


補佐 ゼダン


軍務局 局長 アルス=ミュラー

    副長 ゼダン


    歩兵隊 隊長 ヴァルター

        一番組 組長 ヴァルター

        二番組 組長 リッキー

        三番組 組長 ゲーフ


    弓兵隊 隊長 ティム=ワーラー

        一番組 組長 ティム=ワーラー


    騎馬隊 隊長 マティアス

        一番組 組長 マティアス


    輜重隊 隊長 オットー


    罠 隊 隊長 クラウス


    諜報隊 隊長 マティアス


    埋伏隊 隊長 ジークフリート


内務局 局長 アルス=ミュラー

    副長 オットー


    建設班 班長 ウォルフ


    防諜班 班長 マティアス


    教育班 班長 ゼダン


    糧食班 班長 オットー


    給食班 班長 元ナユリ料理人


    燃料班 班長 孤児妹


    衛生班 班長 ヘルガ


外務局 局長 アルス=ミュラー

    副長 レオン=ワーラー


    渉外班 班長 レオン=ワーラー


    調達班 班長 レオン=ワーラー


    交易班 班長 ヨアヒム

        助勤 マティアス


農務局 局長 アルス=ミュラー

    副長 ヴァルター


    狩猟班 班長 クラウス


    伐採班 班長 ヴァルター


    採集班 班長 ローザ=ワーラー


    畑作班 班長 農家夫


    養鶏班 班長 農家男児


_________________________


 最終的に、マティアスには交易班の「助勤」を任せることにした。


 あくまでも助勤だ。


 副班長であれば、責任者を補佐するだけではなく、不在時には代理として班を率いることも求められる。


 だが、今回マティアスへ求める役割は違う。


 ヨアヒムが責任者として成長するまで支え、導き、必要な時に助言を与えること。


 それだけで良い。


 だから交易班の責任は、どこまで行ってもヨアヒムにある。マティアスが負う責任は、ヨアヒムを支え育てることだけだ。


 そうすることで、責任の所在を曖昧にせず、それでいて現状の不安も補える。


 言葉遊びのような役職ではある。


 それでも今の俺には、この形が最も現実的な答えに思えたのだった。


 この人事案を見て、皆はどう思うだろうか。


 恐らく、大半の者は役職名など気にしない。


 目が行くのは、自分の名前や知っている者の名前が記されているかどうかだろう。


 誰が選ばれ、誰が選ばれなかったのか。そんなところばかりが気になるはずだ。


 だから、「班長助勤」という役職へ込めた意味に気付く者は、きっと少ない。


 副班長ではなく助勤にした理由も。


 責任の所在をヨアヒムへ残したまま、育成だけをマティアスへ託したという考えも。


 恐らく大部分の者には伝わらないだろうが、それならそれで構わない。


 そこを理解してもらうのを目的にしているわけではないのだから。


 ただ、この人事に不満を口にする者は出てくるだろうと思っている。


 何であいつなんだ。上は何も分かっていない。そんな愚痴くらいは、どこかで出るはずだ。


 自分が当てられない理由を考えるのではなく、批判をすることで同調圧力を高めて再検討を促そうとする者ほど声が大きいものだ。


 だが、そんな話を聞く必要などないだろう。


 全員が納得する人事など、この世には存在しないのだから。


 きっと誰かの不満に合わせて人事を変えれば、また別の誰かが不満を言うだけだ。


 それなら俺は、俺が納得した形を貫く。


 何故なら、この人事を決めた責任は、全て俺にあるのだから。


 ヨアヒムへ責任者という立場を与える以上、その責任を負わせる。


 ならば同じ理屈で、この組織図を作った俺もまた、砦主、いや今後は総帥として責任を負わなければならない。


 誰かが失敗したり組織が上手く回らなかった、もしくは人選を誤った。


 その責任を最後に負うのは、ヨアヒムではない。マティアスでもない。


 この人事を決めた俺だ。全ての責任は最終的には俺に帰結する。


 責任を負う立場とは、そういうものなのだろう。


 だから、もう他人のせいには出来ない。


 良くても悪くても、この人事は俺の答えだ。


 その責任だけは、最後まで背負い続けようと思う。


 願わくば、この人事を見て兼務の多さや、まだ子供である者まで責任者に据えられていることの理由に気付く者がいてほしい。


「なら自分も成果を出せば役を任せてもらえるかもしれない」


 そう前向きに考える者が、一人でも二人でも現れてくれれば十分だ。


 紙へ視線を落とす。


 そこへ書かれている内容は、昨日までと比べるとヨアヒムの「仮」が消えたのと、マティアスが助勤に成ったこと以外何も変わっていない。


 変わったのは、俺の覚悟だけだった。同じ名前が、あちらにもこちらにも並んでいる。


 マティアス、ゼダン、ヴァルター、オットー、レオン。


 頼れる者へ仕事が集中しているのは、一目で分かった。


 もっと多くの者へ「任せた」と言えればいい。だが、その一言を口にするということは、その仕事を最後まで任せるということでもある。


 そして、その判断をした責任は、最後には俺へ返ってくる。


 だから簡単には任せられない。


 結局、今の俺ではこの布陣が限界だった。


 格好良いことを思ってみても、結局はこうなるんだよな。思わず苦笑が漏れる。


 誰もが役割を持ち、それぞれが支え合うという理想を思い描いていたのに、出来上がったのは同じ名前ばかりが並ぶ、いかにも人材不足な組織だった。


 それでも、今ある人材だけで悩み抜いた、俺の考える最強の布陣がこれなのだ。


 見栄えを整えるためだけに無理な配置をするより、現実を受け入れた方が良い。


 ……それにしても。


「やっぱりゼダンは逃げたよな」


 最後の最後で「砦主の専権事項です」と言い残して去っていった姿を改めて思い出す。


 草案までは二人で考えていたのに、最後の決断だけ俺へ投げてきた。


 もう少しくらい、一緒に悩んでくれても良かったじゃないか。


 そんな恨み言が頭を過る。


 もっとも、ゼダンなりに「最後に決めるのは砦主の役目だ」と教えたかったのかもしれない。


 そう考えれば、少しだけ悔しさも薄れる。


 俺は人事案を丁寧に畳み、机の上へ置いた。全員が揃うのを待っていたら、いつまで経っても何も始まらない。


 遠征へ出ている者には、戻ってから説明すればいい。


 まずは今夜、この拠点にいる皆へ発表しよう。


 これが吉と出るか凶と出るか。そんなものは、今の俺に分かるはずがない。


 なら、答えは実際に動かして確かめるしかない。


「まずはやってみようか」

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