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落ち延びた三男坊、山で拠点を作ったらやがて帝国になった ――逃避行から始まり、拠点を作って勢力拡大。気付けば、帝国に成ってしまった件について  作者: 六駿
第三章 芽吹

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第72話 動き出す計画

 大陸歴一四〇七年九月二十三日


 昨日、交易へ出ていたゼダンたちが無事に戻ってきた。


 ならば、次に進むべきだ。


 朝食を終えたアルスは、ゼダン、マティアス、レオンの三人を集め、アルスの家の前にある広場で打ち合わせを始めた。


 議題は一つ。


 ローデン近隣の村へ向かう潜入部隊の最終確認である。


 もっとも、以前から責任者はレオンに任せると決めていた。


 今日の話し合いは、一から計画を立てるためではなく、レオンがまとめた内容を確認し、不足があれば補い、問題がなければ正式に承認するための場だ。


「レオン、誰を連れて行くかは決まった?」


 アルスが尋ねると、レオンは迷いなく頷いた。


「はい。候補者には既に内諾を得ています。後はゼダンさんたちに確認していただき、砦主に承認をいただくだけです」


 思っていた以上にはっきりとした返事だった。


 ここまで準備を進めていたということは、それだけ真剣に考え続けていたのだろう。


 頼もしさを感じながら、アルスは頷く。


「分かった。なら、その内容を一つずつ確認していこう」


「はい」


 短く返事をしたレオンの表情には、緊張よりも責任者として計画を説明する覚悟が見えていた。


「では、人選から説明します」


 レオンは一枚の紙を広げながら口を開いた。


「同行者はローザ、それから避難民の中から四名。それにゲーフさんと、元ナユリ兵五名です」


「ゲーフ?」


 その名前に、ゼダンが小さく眉を動かした。


「ええ。今回の任務には、ゲーフさんが必要だと判断しました」


「悪いとは言わん。一応、その理由だけ聞こうか」


「はい」


 レオンは一つ頷く。


「まず一つ目です。今回の任務は潜伏して情報を集めるだけではありません。旧ミュラー家の家臣や領民を見つけた場合、順次この拠点へ送り返すことも目的になっています」


「そうだな」


 ゼダンも頷く。


「救出した人たちを潜伏任務が終わるまで抱えていては、動きが制限されます。見つけ次第送り返した方が安全ですし、その方が多くの人を救えます」


「それでゲーフか」


「はい。送り返す際の護衛や道案内には元ナユリ兵を使う予定です。その指揮を任せるなら、ゲーフさんが最も適任だと考えました」


「なるほど」


 ゼダンは腕を組んだまま静かに頷く。


「他の元ナユリ兵も従いやすいだろう」


「それだけではありません」


 レオンは続けた。


「二つ目に今回、ローデンに家族を残している人や、顔を知られている人は最初から候補から外しました」


 その言葉にアルスも頷く。


 潜入任務だ。個人的な事情で動きが鈍る可能性は避けなければならない。


「さらに、お尋ね者や町へ入れない人も除外すると……」


 そこでレオンは苦笑した。


「ゲーフさん以外、残らないんです」


 ゼダンも苦い顔になる。


「……そういうことか」


「ウォルフさん、ヘルガさん、リッキーさんは腕は立ちます。でもリッキーさんはお尋ね者ですし、ウォルフさんとヘルガさんも色々と町へ入れないことが多いという話ですよね」


「つまり消去法でもゲーフになるわけだ」


「はい」


 アルスも納得した。


 戦える人間を連れて行けば良いという話ではない。


 潜入任務に適した人材を選ぶ必要があるのだ。


「三つ目の理由は砦主やゼダンさんがゲーフさんを警戒しているという事です」


「良く見てるな」


「さすがに俺もそれなりに長い期間、砦主やゼダンさんと付き合ってますので分かりますよ。なので連れ出そうかと」


 これにはアルスも思い当たるところが有るし、横を見るとゼダンも同じ感情のようだ。


 最近のレオンは、何か考え込んでいることが増えたと感じていたが、しっかり見るべきところは見ていたんだなと、素直に感心する。


「そして最後の理由です」


 レオンは少し身を乗り出した。


「ゲーフさんは、最悪武器を持たなくても戦えます」


「あの膂力か?」


「それもあります。でも一番大きいのは、武器を持たずに町へ入れることです」


 その言葉にゼダンが目を細めた。


「ああ、なるほど」


「剣を持った男より、丸腰の男の方が警戒されにくいですから」


 しばらく考えていたゼダンが、小さく笑う。


「一つ一つ理由を積み重ねて選んだのだな。レオン、成長したな」


 その言葉に、レオンは照れくさそうに頭を掻いた。


 だが次の瞬間、ゼダンは口元を緩めたまま続ける。


「……ただ、少し足らんな」


「え?」


「確かに武器が無ければ警戒は薄まる。だが、俺たちは見慣れたが、あの顔の傷だけで十分警戒されるぞ」


「あ……」


 レオンの表情が固まる。


 そこまでは考えが及んでいなかったらしい。


 その表情には、指導してきた者の成長を見た満足感と、まだ教えるべきことが残っていることへの嬉しさが浮かんでいた。


「まだまだだな」


 その笑みに悔しそうな顔を浮かべながらも、レオンは素直に頷いた。


「勉強になります」


 そのやり取りを見ながら、アルスも思わず頬を緩める。


 計画にはまだ粗さもあるが、こうして理由を積み重ね、一つ一つ考えて結論へ辿り着いている。


 以前のレオンなら、ここまで論理立てて説明することはできなかっただろう。


 レオンの人選について確認が終わった後、話題は具体的な移動経路へと移った。


「では次に、現地へ向かうまでの経路について説明して」


「はい」


 レオンは頷くと、机の上に広げた簡単な地図へ視線を落とす。


「出発時は荷馬車を四台、騎馬を二騎使用します」


「荷馬車四台か。隠密行動というより、ある程度まとまって動く形だね」


「ええ。最初は少人数で潜入する案も考えましたが、今回の目的を果たすにはそれでは厳しいです」


 レオンは続ける。


「人を増やすという目的を満たすには、どうしても運ぶ手段が必要になります」


「なるほど。それで荷馬車か」


「はい。そして移動経路ですが、最短で向かうなら拠点裏手の街道をそのまま進むことになります」


 レオンは地図上の道を指でなぞる。


「ただし、その場合はエリクセン家の支配地域を縦断することになります」


「それは避けるべきだね」


 救出に向かったはずが、その途中で捕まるようでは意味がない。


「なので、遠回りになりますが南東へ向かいます。バウム領を通過し、その先幾つかの領を越える形で、ブラウナー領を経由してミュラー領へ入る行路を取る予定です」


「かなり大回りになるね。途中でバウムゼンを使って補給するわけか」


「いえ、今回はバウムゼンを避けたいと思っています」


「理由は?」


「ゲーフさんを含む元ナユリ兵も連れて行くからです」


 その一言で、アルスも理解した。


「……そうか」


 南西にある街道を進んでいた奴隷商隊。その目的地はバウムゼンだった可能性が高い。そこへゲーフたちを連れて行くのは危険だ。


 ゲーフは目立つ。もし奴隷商店主が、自分の買った奴隷が生きていると知れば、余計な問題を招く可能性がある。


「なので、別の街で補給を行いながらブラウナー領を目指します」


 レオンの説明を聞き、アルスは頷く。


「分かった。その経路で進もう」


 すると、ゼダンが少し考えた後に口を開いた。


「砦主。一つ提案があります」


「何かな?」


「ブラウナーへ向かう途中、少し遠回りをしてローゼンベルク家へ手紙を届けるという手もあります」


「お爺さまのところへ?」


「はい。これだけ時間が経っていれば、ミュラー家の陥落は既に伝わっているでしょう。助力を願うのも選択肢の一つかと」


 予想していなかった提案に、アルスは少し考える。


 確かにローゼンベルク家は頼れる存在だ。


 だが――。


「今の段階では止めておこう」


「理由をお聞きしても?」


「助けを求めれば、恐らく力を貸してくれる。でも、その場合は別の形になると思う」


 アルスは言葉を選ぶ。


「お爺さまは悪い人ではない。ただ、筋を重んじる人だ。グライフ領で勝手に拠点を作り、賊のような真似をしている今の状況を知られれば、ローゼンベルクの名の下に保護という名の討伐をされる形になる可能性が高い」


「それでは……」


「従属状態でのミュラー家の復興なんて、父上や兄上たちも出来れば避けたいだろう」


 ゼダンは少し考え、静かに頷いた。


「分かりました。現状では接触しない方が良いという判断ですな」


「うん。提案自体はありがたいし、一つの選択肢であるのも事実だから。ただ、ゼダンはお爺さまの性格までは知らないからね」


 そう言って話を戻す。


「では、現地に到着した後は?」


「村へ潜伏します。そして旧臣や移転を希望する領民を見つけ次第、順次こちらへ送り返します」


「その時に荷馬車を使うわけだね」


「はい。一度こちらへ送った後、荷馬車を再び戻してもらえれば、継続して人を運ぶことができます」


 見つからない程度にしなければならないが、一人でも多く引き込むには必要な行為だ。


「分かった。その形で準備を進めよう」


 アルスは頷いた。


 レオンは一礼するが、その表情はまだ少し硬い。


「ただ、その際に問題があります」


「問題?」


「ここからバウムゼンへ向かう街道周辺に出没していた賊です」


 その言葉で、アルスも表情を引き締めた。


「……襲われる可能性か」


「確証はありません。ただ、いなくなったという情報もありません」


 以前バウムゼンへ向かった帰り道。


 立ち寄った村には、村人とは思えない戦い慣れた者たちが混じっていた。


 そして、その周囲には襲撃を受けた痕跡が残っていた。


「恐らく、以前見た村が関係していると思います」


「俺も、その可能性は高いと思う」


 あれを偶然とは考えにくい。


「行きは問題ありません」


 レオンは続ける。


「ですが、帰りは違います」


「……」


「こちらへ戻る荷馬車には、戦える者よりも移動する者が多く乗ることになります。護衛が十分でない状態で襲われれば、大きな被害が出ます」


 アルスは黙って頷いた。


 確かに、その通りだ。今回の作戦は、人を助けに行くものだ。そこで助けた人間を危険に晒すようでは意味がない。


「その対策は必要だね」


「はい。民を送り込む前に、何かしら手を打っておく必要があります」


 アルスはゼダンとマティアスへ視線を向ける。


 二人とも難しい顔で考え込んでいた。


 すぐに答えが出る問題ではない。


「分かった。その件はゼダンたちとも相談して決めるよ」


「お願いします」


 レオンは頷いた。


「他については、現地で判断するしかないと思います。村の状況も、実際に見なければ分からないことが多いので」


「うん」


 完璧な作戦など存在しない。


 情報が足りない以上、現地で予想外のことが起こる可能性はある。


「ただ一つだけ。危険だと思ったら、迷わず引いて」


「分かっています」


 レオンは即答した。


「向かった人間全員が無事に戻ること。それを最優先にします」


 その言葉を聞き、アルスは頷く。


 そして、最後の確認へ移る。


「では、明朝出発ということで準備を進めよう」


「はい」


 こうして、ローデン近隣村潜入作戦部隊の明朝出発が正式に決まった。

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