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シルバー・ブレス 〜彼の者は祝福を授かった〜  作者: 赤石
-第3章 狂乱オークション-
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第29話 コール・コール・コール!

「人数は五人。プレイは十ゲーム。テメェが一回でも勝てたらその女の金は返してやるよ」

「一回? 五回でいいですよ」


 調子に乗った態度に、髭面の顔に青筋が浮かんだ。

 

 なんて馬鹿なことを言うのだろう。藍色の女性は頭が痛いとばかりに額に手を当てる。

 一方で周囲は一斉に賭け金を増やしていた。

 あまりに予想が偏るので、何人かはすっかり興味を失って酒盛りに戻ったようだ。

 

 髭面の男がカードを切る。

 薄ら笑いを浮かべ、「その代わり」と続けた。


「テメェが負けたらそこの銃は貰う。あとはそうさなぁ、裸で給事でもしてもらおうか」

「なっ……!」


 言葉を失ったのは、藍色の女性の方だった。どこまで下品な奴らなんだろう。怒りで肩が震える。

 周囲は色めき立ったり、「ガキなんかに興奮しねぇよ」と茶化す者など様々な反応を示した。

 女性が髭面に食ってかかる。


「子供相手だ! 今すぐ取り消せ!」

「嫌なら降りな」

「別にいいですけど、食事運びなんてできるかなぁ」

「そこじゃないだろう!」


 のほほんと返すユティスは、危機感などまるで抱いていない様子だ。

 藍色の彼女は身をかがめ、ユティスにこそりと耳打ちをする。


「いいかい、奴らはイカサマを使う。拙いものだが、普通にやればまず勝てない」

「ハハ! くすぐったいですよ」

「真面目に聞け!」


 どこまでもふざけた態度にだんだん腹が立ってきた。

 自分がこの子に抱いた期待など、やはり幻想だったのではなかろうか。そうは思いつつ、人としての善性が見捨てることを拒む。

 込み上げる怒りを落ち着かせてから、再度耳元で囁いた。


「私が奴らのイカサマを見抜く。合図をしたら君は降りるんだ。分かったね?」

「相談は終わったかよ」


 ユティスが頷くと、男は彼女の前に二枚のカードを滑らせた。「簡単なルールだ」と片眉を上げる。


「レイズは無し。使うのはコール、もしくはフォールドだけ」

「レイズってなんでしたっけ」

「そこからか!」


 女性はガクン、と肩を落とした。アクションの用語も知らないとは、いよいよ雲行きが怪しい。

 不安を抱えつつ、重い口を開いて説明してやる。


「レイズは『賭け金の吊り上げ』、コールは『勝負』、フォールドは『降りる』、だ」

「オッケーです。それさえ分かれば大丈夫!」

「本当か……?」


 心配する女性を他所に、ユティスは自らの手札を確認した。

 クラブの3と、ハートのK。

 数字が離れている。女性は眉を寄せた。


(幸先が悪いな)


 女性の位置からだとユティスの手札は見えるが、他四人の分は分からない。

 しかし、あのニヤケ顔を見るに何かしら仕掛けてきているだろう。

 全員がコールを唱えた。ユティスの番になる。


「コール」


 もう一枚カードが寄越される。

 スペードの5。

 残りは二枚。良くてスリーカード、悪くてノーペアだ。

 二人降りた。ユティスは変わらず"コール"。

 ダイヤの10。

 "コール"。

 ダイヤの7。

 ノーペアだ。


「やった、ストレート!」


 小柄な男が自身の手札を表にした。数字は小さい方から順に、4、5、6、7、8と続いている。

 髭面の男も顔をにやけさせながら手札を提示した。


「フォーカードだ」


 お前は? と、聞かなくても分かっているくせに、わざわざユティスの口から言わせようとする。女性は思わず舌を鳴らした。


「揃いませんでした」

「ハーハハ、まァそういうこともあらァ。次頑張んな」


 カードが回収され再び配り直される。その一連の流れを見ながら、女性はどこで「イカサマを指摘してやろうか」と考えを巡らせていた。


 最初に言った通り、男達のイカサマの腕は未熟なものだった。

 袖からカードの端が見えているし、カードを切っているように見せかけて一番上の数枚は混ぜていない。他にもバレバレの手口がいくつか。


 何故それを一番に指摘しないか。これはタイミングが重要だからである。この手の輩に、負けている状態で「それはイカサマだ!」と叫んでも負け犬の遠吠えと流されておしまいだ。

 チャンスが巡ってくるまでは、耐え続けなければならない。


 それなのに、この子ときたら。


(合図全部無視するじゃないか!!)


 既に何度か、彼女の椅子をこっそり叩いていた。

 その振動に気づいているはずなのに、ユティスはコールすることをやめなかったのである。

 それどころか、叩く度に少し困った顔をして女性をチラリと見上げていた。


(迷惑そうにするんじゃない!)


 次いで二回戦。

 彼女の手札は変わらず揃わない。ノーペアのまま五枚目を引いて負けてしまった。


 三回戦。三枚目、ノーペア。

 彼女の椅子を強めに叩く。

 やんわりと手で制されてしまった。

 五枚目を引くが数字もスートも揃うことはなく、当然のように負ける。

 ここでようやく、ユティスの顔に若干の焦りが見え始めた。


 四回戦。二枚目、ようやくワンペア。

 しかし、続く三枚目、四枚目は異なる数字が出た。

 祈るように引いた五枚目も、望まない数字だ。

 結果はワンペア。

 結果を申告する際、彼女は乾いた笑い声をあげながら気丈に振る舞っていた。テーブルに嫌な雰囲気が漂う。


 五回戦。

 一枚目、ハートのA。

 二枚目、スペードの5。

 三枚目、スペードの7。

 四枚目、ダイヤの5。

 五枚目、ダイヤのQ。


「俺はフルハウスだ。お前は?」

「……」


 震える手でカードを表にした。

 結果は5のワンペア。五回目の負けを迎えてしまった。

 残り五回。

 もう後はない。


「全裸で給事だっけ? 楽しみだなァ。何頼んでやろうかなァ」小柄な男がニタニタと下卑た笑みを浮かべてユティスの顔を覗き込んだ。彼女は顔を赤くさせ、俯いている。


「かわいそうだから教えてやるよ。後ろ見てみな」


 髭面が気分良さそうにそう言って、ユティスの背後を顎でしゃくった。振り返る。

 後ろには少し離れた位置に柱があった。そこには不自然な角度で鏡がつけられている。

 そう、ちょうど……男達から、ユティスの手札が見えるように。


「運が悪いナァ。そんなところにたまたま鏡があるなんて、普通思わないもんナァ」

「ああ、こりゃ店が悪いよ、店が」


 ゲラゲラ、クスクスと笑い声が上がる。藍色の女性は気がついていたが、教えてやるのをすっかり失念していた。

 すぐに鏡を取り外しに行こうと駆け寄るが、それよりも素早くユティスが走り寄っていた。


「待て、何を──」

「っ、!」


 ユティスは手に持ったグラスを、鏡に向かって投げつけた。

 パリィン! と悲壮なまでにガラスが砕け散る。


「こんなのがっ! あるからっ!」

「お、落ち着け! 危ないだろう!」


 ワァワァと喚きながら鏡の破片を踏みつけるユティスを取り押さる。

 女性は悔しさを顔に滲ませた。最初に言ってやるべきだったのだ。

 そうすれば、この子も無謀な挑戦はしなくてすんだかもしれないのに。

 暴れる少女を羽交い締めにすると、二人は嘲笑の的となった。そのまま追い出してくれれば良かったのだが、男達はユティスに、再びテーブルに着くよう指示した。


「今更逃げるなんて言わねぇよなぁ?」

「ま、逃げても追いかけてやるけどなぁ!」

「っ、この……!」


 大の大人が、子供相手にここまでやるとは。

 性根が腐っている。

 こうなったらなりふり構ってなどいられなかった。

 藍色の女性は隠し持った拳銃を取り出そうとしたが、その前にユティスが荒々しく椅子を引いて、勝負の席に着いた。

 俯いた顔のまま、「早く始めればいいでしょう!」と投げやりに叫ぶ。


「もういい。勝負なんてするんじゃない」

「嫌です! 全裸になっても、勝つまでしますし!」


 彼女がそう言うと、男は「そりゃあいい!」と嘲笑ってカードを切った。相変わらず雑な手捌きだった。


(……勝負がついたと同時に、テーブルでも撃ってやろう)


 女性がそう決意するほど、この場の人間は皆どうしようもないほどクズばかりだ。

 

 最初は、仲間を探すつもりだった。

 手先が器用で要領のいい人間が欲しくて、下手なイカサマにかかったフリをしてやった。しかし、どうやら自分の見込み違いだったようだ。

 こんな奴ら、こちらから願い下げだ。

 

 いつでも引き金を引けるように、拳銃に手をかける。


 三枚目が配られた。


「コール」


 男達は口を揃えてそう言った。

 ユティスもかき消えるような小声で続く。


 四枚目。


「コール」


 俯いた顔から、一筋の涙が流れた。

 テーブルにぽたり、と水滴が落ちる。


 五枚目。


「──コール!」


 四人全員が勝負の場についた。

 …………、ユティスも、躊躇いがちにコールを唱えた。


「スリーカード!」

「フルハウス!」

「フラッシュ」

「ストレートフラッシュ」


 四人が一斉に手札を展開した。

 全て強い組み合わせばかりだ。

 こりゃ残念、とばかりに憐れみと好奇の入り混じった多数の視線が、たった一人の少女に注がれる。


 少女は怯えたように両手を震わせながら、手元のカードをゆっくりとテーブルに並べた。





 


 

「──はい、ロイヤルストレートフラッシュ」





 



「………………は?」


 けろりとした顔で、彼女はそう宣言する。

 

 テーブルの上には、確かにスペードの10からAまでが、規則正しく並んでいたのだった。

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