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シルバー・ブレス 〜彼の者は祝福を授かった〜  作者: 赤石
-第3章 狂乱オークション-
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第26話 開場

-人物紹介-


アスレイン

ゼレステラの末裔。人当たりの良い好青年だが、非情な一面も併せ持つ。不死身に近い体であり、よく食べる。


ラグラス

未来予知の祝福者。口は悪いが根は善良。負けず嫌い。ユティスとは犬猿の仲。


ユティス

壁生成の祝福者。元は自我なき人形だったが、恋をして心を持つ。破天荒な自由人。ラグラスとは犬猿の仲。


シロマ

瞬間強化の祝福者。皮肉屋だが一度懐に入れた人間には甘い。セオドア、エルダとは旧知の仲。


アミリ

心優しく強かな女性。家事全般が得意で手先の器用さにはロイドも舌を巻くほど。


ロイド

アミリの祖父。発明家であり研究者でもある。人類滅亡を防ぐため避雷針の研究に励む。老人だがガタイがいい。


セオドア

アスレインの兄。シロマ、エルダとは旧知の仲。現在行方不明。


エルダ

ラグラスの師。シロマ、セオドアとは旧知の仲。現在生死不明。


ミカル

元レジスタンス所属。軍に囚われていたところ、幼きアスレインと出会う。数年前に独房で自決している。


---














 知る人ぞ知る闇オークション──通称、"影競り"。

 

 それはアークティア号に位置する巨大な会場で行われる。

 最下層に位置する舞台には商品と司会者が並び、その周りをぐるっと上から座席が囲っていた。

 客はここから商品を見定め、値段を提示するのだ。


 アスレインは人をかき分け、どうにか目当ての人物を見つけた。空いている隣の座席に腰掛けながら「お待たせ」と話しかける。


「もう始まった?」

「や、まだや」


 目当ての人物こと、"先生"はそう言って頬杖をついた。

 司会者は今回の目玉商品を高らかに宣言している。

 販売前の軽い紹介だ。まだ開幕したばかりのようだった。

 "先生"は前髪で隠れた両目を向けていた。冷やかしの視線だった。


「中々おもろいで。見たら死ぬ絵画やろ、呪いの指輪、惚れ香水……」

「で、彼は?」


 アスレインの問いに"先生"は声を殺して笑った。意地が悪い。揺れる肩を見て、(この人は……)と心の中で呆れた。


『──、そして世にも珍しい金の瞳を持つ男! その輝きは果たして本物か、是非ご自身の目でお確かめください!』


 マイク越しに司会者はそう言って、また次の商品を読み上げた。


 金の瞳を持つ男──、十中八九彼のことだろう。

 アスレインは痛む頭を抑えた。


(どうしてこんなことになったんだっけ)


 全ての始まりは、十数時間前まで遡る。














***













 ヴァーミリオ島の、とある店内。

 三人はテーブルを囲い早めの朝食をとっていた。


「やる気出ませ〜〜〜ん……」


 ユティスは間延びした声でそう言って、背もたれにグデーっと体重を預けた。ぴょこん、と跳ねた寝癖を適当に撫で付けている。


「なんでよりによってこの二人と……。アミリさんに会いたい……。もうバックれちゃいたい……」

「バックれろ、そしてそのまま帰ってくんな」


 バゲットを口へ運びながら、ラグラスはぶっきらぼうにそう答えた。彼の後頭部にも寝癖が跳ねている。


「そんなこと言って、一人じゃ何もできないじゃないですか。さっきも変な人に絡まれてたしぃ」

「あんなんどうとでも出来るわ」

「またまた」


 ラグラスはテーブルに肘をつき、ビシリとフォークの先をユティスへ突きつけた。


「それよかお前のお守りのが大変だぜ。目を離すとすぐ消えるんだからな」

「アミリさんへのお土産探してるだけですもーん」

「勝手なことすんな、一人で行くな、行くなら戻ってくんな」

「連れ戻してるのはそっちのくせに」

「そこまでにしてよ」


 空いた皿を重ねながら、アスレインは会話に割って入った。彼の前にだけ高く皿が積まれていく。


「相変わらずよく食うよな……」

「成長期だから」

「まだ大きくなるつもりなんです?」


 アスレインから言わせれば、二人が少食なのである。数切れのフルーツとバゲットでよく昼まで耐えられるものだ。

 朝からしっかりと身なりを整えたアスレインは「それよりも」と話を戻した。


「二人とも、いい加減仲良くしようよ。一体何が気に入らないのさ」

「雑魚のくせに私に突っかかってくるところ〜」

「この態度」

「……うん、誤解があるのかもね」


 アスレインは姿勢を正した。「いいかい」とオレンジをかじるユティスの目を見つめる。


「まずラグラスは雑魚じゃない。オッケー?」

「いいえ」

「いいえじゃねーよ」


 殴り合いに発展しそうな雰囲気が漂う。実際ヴァーミリオに着くまで既に二回、手が出ていた。

 アスレインは「分かった!」と言って、今まさに振り下ろされようとしていた二人の拳を掴んだ。


「お互いを知るところから始めよう。自己紹介とか!」


 二人がまた口を開く前にアスレインは有無を言わさない笑みを浮かべ「じゃあ僕からね」と進めた。


「名前はアスレイン。年は十九で、大陸のフィルドゴード出身。一番の好物はローストビーフかなぁ。あと、こう見えて十四人兄弟の末っ子」

「へぇ! 多くないですか?」

「まあ、ほとんど母親が違うけどね」


 関心がそちらに向いたのだろう。ユティスはなんとも言えない顔をして「複雑ですねぇ」と呟いた。

 ラグラスもこれは初耳だったようで、少し面食らった様子だった。


「セオドアも腹違いなのか?」

「いや、あの人は同じだよ。二人とも母親似」

「ふーん……」

「そう言えば気になってたんですけど、アスレインの家って貴族? なんです?」


 アスレインは「ああ」と頷いた。ルカから聞いたのだろうか。


「星夜の七貴族、ね」

「そんなんも知らなかったのかよテメー」

「一般常識も知りませんよ私は」


 彼女はそう言って胸を張った。

 

「開き直んな」

「まあ知らなくても無理ないよ。古い考えだし」


 珍しくユティスが興味深げに耳を傾けたので、アスレインは軽く説明してやる。と言っても、本当に古い考えだ。


「ノクティムは覚えてる? 四つの預言者。彼には子供が七人いてそれぞれが子孫を残してるのさ。その中の一つがゼレステラ」

「七つの家系全部が大陸の中枢機関に関わってんだよ。経済だったり政治だったり。で、ゼレステラが軍事力」

「ああ! そう言えば元帥? だかがそんな名前だったような……」


 ユティスはそう言って目を閉じた。人の名前を覚えるのは得意ではない。それが男性ならなおさらだ。

 アスレインはグラスを手に取り水を一口、口に含んだ。


「父さんも最近死んじゃったみたいだけどね。今は兄さん……長男が継いでるんじゃないかな」

「じゃ、親の死に目に会えなかったんですね」

「おい」


 ラグラスが遮るようにユティスを睨むが、彼女は首を傾げるだけだ。何が悪いのか分かっていない顔である。

 アスレインは「別に良いよ」と笑った。


「勘当されてたようなもんだし、向こうも会いたくなかったろ。それに……」


 父にとって、望んで生まれた子は一人だけだ。

 幼少期の苦い経験が思い出される前にアスレインは顔を上げた。


「僕のことはこれくらいで。さっ、次はどっちがする?」

「はい! 私いきます!」


 ユティスが勢いよく手をあげた。そして得意げな顔をしてラグラスを見やる。


「こういうのは、先にやる方が大人ですからね」

「うざ」


 ラグラスはそう言って、すっかり氷の溶けたグラスをクルクルと回した。


「ご存知の通り、天才でかっこよくて可愛くってとーっても強い、ユティスちゃんですよ。外見年齢は十五? 六? だそうですけど、実際作られたのは三年前でしたね」

「マジでクソガキかよ」


 鼻で笑うラグラスを予想していたかのように、ユティスがその眼前に指を突きつけた。

 コツン、と爪がゴーグルを弾く。

 

「そのクソガキに負けたのはどこの誰でしょう?」

「負けたことねーよ!」

「負けてます、十戦して十戦とも負けてますぅ」

「三歳児は数も数えらんねーか?」

「ハイハイ、やめてね」


 ヒートアップしていく会話を遮ってアスレインはそう言った。どうあっても、この二人の仲は取り持てないらしい。

 話を変えるべく「そういえば」とわざとらしく質問を投げかけた。


「ユティスに聞きたかったんだけど、アミリ以外の人……例えば、シロマとかロイドのことはどう思ってるの?」

「別になんとも思わないですね」


 ユティスはバッサリと切り捨てた。


「アミリさんと話す時に邪魔だなとは思いますけど」

「ロイドのことも?」


 何となく、彼女がシロマを邪険にしているのは知っていた。しかしロイドはアミリの祖父である。気にかけている方だと思っていたが、そうではないらしい。

 まるで世間話をするような顔をして、ユティスは「でも」と続けた。

 

「あの人はいい歳ですし。あと数年我慢すれば死ぬだろうから、まだ許せる方ですかね」


 それを聞くと、ラグラスは一気に険しい表情になった。

 苦言を呈そうとしたアスレインの肩を引っ掴み、後ろを向かせる。自身も座席から身を乗り出して、彼にこそっと耳打ちをした。


「分かったろ! 俺がアイツを気に入らない理由!」

「まあ、薄々感じてはいたけど」

「改心したつもりだかなんだか知らねーけど、やっぱロクな奴じゃねーって」


 ラグラスはロイドに何かと良くしてもらっている。同じように世話になっているユティスの態度に、思うところがあるのだろう。


「適当な理由つけて、この島に置いて行こうぜ」


 それなりに腕も立つ。一人でやっていける。

 問題が起きる前に、出来るだけ円満な方法で解決させておくべきだ。

 ラグラスはそんな思いでアスレインの同意を求めた。

 

「でもさ」


 アスレインは一度そこで区切り、彼の肩を叩いてやった。


「君は汽車で、彼女を助けようとしてたじゃない」

「あの時はっ」


 無駄な人死にを出したくなかっただけだ。

 たとえ敵であっても、生きている方が良いに決まっている。その思いはずっと変わらない。

 けれど、それとこれとは全く別の話である。

 

「まあ、長い目で見てあげようよ」

「あっ、おい!」


 一方的に話を終わらせ、アスレインは椅子に座り直した。ラグラスはまだ何か言いたげに彼を見ている。

 

「終わりました? 食べ終わっちゃったし、そろそろ店出たいんですけど」


 ユティスはそう言って自身の爪を眺めていた。

 皿の上にはいくつか食材が残してあった。


「ああ、それとも最後にゴーグル君の話聞いときます?」

「そうだね、僕らは言ったんだし」

「いらねーよ別に」

「そう言わずに」


 正直な話、アスレインが一番気にしていたのはそこだった。

 彼は自分のことを話さない。この機会に、少しでも知れればいいと思ったのだが。


「出身とか、親や兄弟の話とか」

「…………てねー」

「うん?」


 彼は心底面倒くさそうに、片手を顔の前で振って答えた。

 

「覚えてねーんだよ、そういうの」


 先に出る、とだけ言って彼は席を立ってしまった。出口へと遠ざかっていく背中を見ながら、アスレインはポツリと小さく溢した。


「踏み込みすぎちゃったかな」

「これが私の理由ですよ」

「うん?」

「あの人のこと嫌いな理由。自分から距離取ってるとこ」


 ユティスはそう言ってニヤリと笑う。アスレインもつられてへらりと頬を緩めた。


「聞こえてた?」

「ユティスちゃんは顔も性格も耳も良いんですよ。よーく覚えといてくださいね」


 彼女が椅子を引いたので、アスレインも同じく立ち上がった。

 友人とは言えずとも、それなりに仲良くなれたと思っていたのは自分だけだったらしい。

 ユティスにはバレないよう、こっそりとため息を吐いた。

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