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シルバー・ブレス 〜彼の者は祝福を授かった〜  作者: 赤石
-第2章 邂逅の海面汽車-
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第23話 避雷針

「ジャーン! どうです? 似合うでしょう」


 あらかた部屋が片付いた頃。最初に扉を開けて飛び込んできたのはユティスだった。

 自慢げにその場でくるりと一回転。ひらりと服の裾が舞った。


「いいね、似合ってるよ」


 当たり障りない言葉をかけたが、実際似合っていた。

 

 丈の短い黒い上着にワインレッドのショートパンツ。ブーツは自前のものだろう。堅苦しい軍服よりよっぽど年相応に見える。

 あまりに嬉しそうに笑うので自然とアスレインの顔も綻んだ。


「気に入ってくれて良かったわ」

「私、一生大切にします!」

「ふふ、大袈裟ね」


 ユティスに続くかたちでやってきたアミリは、頬に片手を添えた。

 二人が並ぶと、まるで姉と妹のようであった。


「あまり馴れ合うなよ」


 シロマは埃を払った長椅子に、ドカリと音を立てて座った。

 かったるそうに懐から巻きタバコを取り出し、火をつける。


「また言ってる。ユティちゃんは嘘ついてないって分かったでしょ?」

「そうそう。私嘘ついてませーん」


 ベーッと舌を出し、これ見よがしに腕輪を高々と掲げた。もちろん腕輪はピクリとも鳴らない。

 シロマは一瞥もくれず、ただ煙を吐き出した。


「それで足元を掬われなきゃいいな」

「シロマ君」

「これ、喧嘩はやめんか」


 部屋へ入ってきたロイドが二人を嗜めた。ラグラスも続く。貰ったばかりのゴーグルの長さを頭の後ろで調整し、小さく息を吐いた。

 もう、彼の金色の瞳は見えない。


「言ったろう、話し合いが必要じゃと。皆座りなさい」


 そう言ってロイドは席に着くよう促した。

 

 片付いたテーブルを囲うように座るのはロイド、アミリ、ユティスの三人。

 少し離れた長椅子にはシロマが。椅子が不足したので、ラグラスとアスレインは細長の衣装箱の上に並んで腰掛けさせてもらった。


「まずは……君達は、わしらのことをどこまで知っておる?」


 最初に、視線はアスレインに向けられた。

 肩をすくめる。


「正直、何も。シロマが兄の友人ってことくらいかな」

「私は、三人とも重要指名手配犯だと聞いてましたけど」

「指名手配、ね」

「あっもちろん今はそう思ってませんよ!」


 ユティスは慌ててアミリに向かって弁明した。勢いよく首を振るので、切り揃えられた黒髪が大きく波打った。


「ふむ。ラグラスはどうじゃ?」

「大体のことは、エルダから聞いてます」

「大体とは?」


 一つ呼吸を置く。


「貴方達が、予言にある未来を回避しようとしているって」

「予言?」


 そう言って首を傾げたのはユティスだけだった。

 ロイドは何も言わない。

 アスレインにも驚きはなかった。予想した通りである。


「ユティちゃんは、予言って何か分かる?」

「うーん、さっぱり」

「それじゃあユティちゃんの勉強も兼ねて、話を整理しましょ」


 いいかしら、と見回す。

 皆、アミリの言葉に賛成した。


「昔、ノクティムって人がいてね。その人は四つの予言を天使様から貰ったの」


 



 

 一つ、『あなたの故郷に、次に嵐が訪れた頃。大陸は割れるだろう。民は分断され、その土地、その人々で、新しく文化が栄えるだろう』


 二つ、『砂漠の土地に星が落ちた頃。あなたの子孫は西の最果てで泥を見つける。それは闇を照らす火を焚べる、薪となるだろう』


 三つ、『太陽が七度欠ける頃。黒い雷が大地を覆うだろう。逃げ場はなく、多くが死に絶える。祝福を受けた者だけが、次の世に進むだろう』


 四つ、『あなたに祝福を与えよう。あなたの子孫、あなたの望む人だけを導こう。次の世で、あなたは楽園の主人となるだろう』




 


「一つ目の予言。これはノクティムが現れた次の年に起こったわ」

「大地震だね」


 アスレインが言葉を引き継いだ。


「元々この大陸は一つだったんだ。だけど地震によって土地が割れて、多くの島ができた。それが今の地形だよ」

「へー、なんかおとぎ話みたいですね」


 いまいち実感が湧かないのだろう。ユティスはあくびを噛み殺しながら伸びをした。


「けどね二つ目の予言。これは割と最近の出来事なのよ。何か分かるかしら?」

「泥……確か汽車がそれで動いてましたね」

「正解! ユティちゃんって記憶力があるのね」


 大袈裟に褒めてやるとやる気が戻ったのか、ユティスは姿勢を正し背筋を伸ばした。

 「まあ、これくらいのことは」と強がりながら堪えきれない笑みが溢れている。


「エーブ砂漠で見つけた泥。これが色々なものの燃料になったんじゃ」

「大陸が割れて、泥が見つかった。そして祝福を持った子どもも生まれる。ノクティムの予言は本物ってわけさ」

「なるほど。じゃあ三つ目の予言は?」


 その問いに答えられる者はいなかった。

 場に沈黙が流れる。

 誰もが目を床に伏せたので、ユティスは困惑したように皆を見回した。


「あの、三つ目は……?」

「これからに決まってんだろ」


 答えたのはシロマだった。

 彼は長い足をテーブルに放り出しながら、億劫そうに声を上げた。


「それも間も無くってところだな」


 シロマの言葉に、ユティスは「おぉ…」と感心したような声を出した。「おぉ、じゃねーよ」とすかさずラグラスが突っ込む。

 話が流れそうな雰囲気を察知し、「でもさ」とアスレインが先制を打った。視線が彼に集まった。


「ラグラスが言ったろ、予言を回避しようとしてるって。貴方達には何かしらの策があって動いてるんじゃないかと思うんだけど」

「対策はある」


 ロイドはそう言ったが、どこか暗い声色だった。


「三つ目の予言に関して、一体何が問題じゃと思う?」

「そりゃ、『死に絶える』ってところでしょう」

「そうじゃな。では、それは何が原因か?」

「雷」


 アスレインの答えにロイドは頷いた。


「そう。つまりは雷さえなんとかすれば、まだ希望は持てるやもしれん」

「なんとかするって、どうやって?」


 雷も、地震も、全て自然災害である。

 いくら祝福を持った人間が集まったとしても、抗う術はない。はずだ。


「分かった! シェルターを作りましょう!」


 ユティスが名案だとばかりに指を鳴らした。


「雷で壊れないくらい頑丈なのを作って、人を囲っちゃえばいいんですよ!」

「それもいいの。だがそれは何年かかる?」


 ロイドの指摘はもっともだ。ラグラスが口の動きで「バーカ」と煽ったので、ユティスが睨んだ。アスレインは喧嘩が始まらないうちに、彼の肩を軽く小突いてやった。


「発想を変えてみなさい」


 ロイドは教師のような口調でそう言った。


「雷を防ぐのではなく、あえて落とすのだとすれば?」

「落とすのだとすれば……」


 顎に手を当てた。

 防ぐのではなく、落とす。

 …………一つだけ、思い浮かんだことがある。


「落ちる場所を誘導して、そこに近づかない……とか?」

「半分正解じゃな」


 彼は深く頷いた。アスレインが引き出した答えに満足している様子だった。


「雷っちゅうのは、なにもデタラメに落ちるわけじゃない。あれは電気じゃ。電気は()()()()()()を選んで落ちる」

「道?」

「そう。それが金属じゃよ」


 教えることが好きなのか、雷について話すロイドは心なしかイキイキとして見えた。

 しかし興味があるのはアスレインだけのようで、ユティスは自身の椅子をグラグラと揺らしている。

 ラグラスも真剣に聞いている様子だが、実際意識は遠く飛んでいた。


「同じ高さに木と金属があったとする。条件が同じなら金属の方が電気は流れやすい。自然、雷も金属の方に落ちると言うわけじゃ」


 ロイドは両手の人差し指を立てて、それぞれを木と金属に例えた。アスレインも、ふんふんなるほどと頷く。


「金属を島で一番高い場所に設置し、その金属棒から地面まで導線を垂らす。雷は導線を伝って地面に落ち分散される、という流れじゃな」


 一息に説明を終わらせたロイドは少し間を置いてから、「ワシらはこれを避雷針と呼んどる」と言った。


「避雷針……」

「でもさぁ、そう都合よくいきますかね」


 話半分にしか聞いていないくせに、一丁前に文句は言う。しかしそんなユティスの言葉にもロイドは嫌な顔一つしない。


「普通の雷であれば検証済みじゃ、上手くいく。……問題は、黒い雷じゃな」


 予言にある雷は、おそらく普通の雷のことではない。

 それを避雷針だけで防ぎきれるとは到底思えなかった。


「こればっかりは、再現性もないからの」

「あの」


 ラグラスが言葉を発した。自然、注目が彼に集まる。

 彼は拳を握り込んでから、はっきりと言った。


「それに関しては、俺が力を貸せると思います」

「力を貸す? 一体どうやって」


 彼は真っ直ぐ前を見据えた。

 アスレインには、ゴーグル越しに金色の意思が見えた気がした。


「俺の祝福は未来予知です。それで避雷針が機能するかどうか、確かめます」

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