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シルバー・ブレス 〜彼の者は祝福を授かった〜  作者: 赤石
-第2章 邂逅の海面汽車-
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第22話 掘り出し物

 ゲルバードに港らしい港はない。

 そのため適当な浜辺に乗り上げるしかなかった。ボードは解体して破棄するらしく、アミリとロイドが手際良く片付けた。


 よく晴れた朝だ。空は青く、高く広がっている。

 空気は澄み渡り島の遠くの方まで見渡せた。程よい気温だった。


「久々ねぇ、この島」


 砂浜を歩きながらそう言ったアミリに、ラグラスは意外そうに答えた。


「来たことあるんですか?」

「ええ。少し前までこの島を拠点にしてたのよ」

「へ、へえ。それはまた……度胸がありますね」

「度胸?」

「分からないならいいんです」


 背後からシロマの視線を感じて、ラグラスは早々に会話を切り上げた。

 アスレインにだけ聞こえる小声で「過保護かよ」と言ったので曖昧に笑っておく。


「最後に寄ったのは三、四年前かな。"家"がまだ使えるといいんだけれど」

「家?」

「そう! 拠点にするには、住む家が必要でしょう?」


 「1、2、3…」と指折り数える。人数が六人いることを確認すると、アミリは困ったように首を傾げた。


「少し狭いかしら」

「大丈夫ですよアミリさん。いざとなったらそこの二人を追い出しましょう」

「お前が出てけよ」


 ラグラスが舌を鳴らす。しかしユティスは素知らぬ顔をするどころか、挑発的な態度で迎え撃った。


「口だけじゃなくて態度も悪いんですねぇ」

「あ? わりー聞こえなかったわ。もっかい言えよ」

「加えて耳も悪い、と」

「二人とも、喧嘩しないの」


 そう言ってアミリは二人の間に割って入った。咎める口調ではあるものの、その顔はどこか楽しそうである。

 物好きな人もいるものだ。アスレインはその様子を黙って眺めた。


 浜辺の先は樹木が生い茂っており、雑草は膝の高さまで伸びている。街に繋がるであろう、整備された道が一本だけあった。

 しかしその道とは反対に雑草にまみれた道を六人は歩く。出来るだけ跡を残さないよう注意を払った。

 南西に向かって進むと、樹木の背がどんどん高くなる。

 見上げると遥か上の位置まで葉をつけた枝が、青い空を覆い隠していた。


「あれ?」

「アミリ? どうかしたかの」

「なんだか、人が歩いた跡があるような……」


 ほら、とアミリは指を指した。

 たしかに、そこだけまるで避けたように雑草が生えていない。いわゆる獣道というやつだった。


「野生動物じゃないですか?」

「いいえ、この島にはいないはずよ」

「じゃあ誰かが日常的に通ってるとか」

「うーん、でもここには何も無いし。私たちの家以外は……」


 そこまで言って、思い当たる節があったのだろう。アミリは口に手を当てて考え込んだ。

 会話が聞こえたはずのシロマは気にすることなく、どんどん先へ進んでいく。アスレイン達は早足になりながらその後を追いかけた。こっそりラグラスに耳打ちする。


「罠かな」

「さあな」

「さあなって……」

「なんにしても着いてくだけだろ。今さら引き返せねー」

「そりゃそうだけどさ」


 二人して小声で話し合っていると、不意にシロマが足を止めた。つられてアスレイン達も立ち止まった。


 目の前に苔の生えた大きな岩がある。

 ……いや、そうではない。

 それは石造りの壁であり、苔とつる植物が巻きついた家だった。これは目を凝らさないと気が付けない。

 まさに隠れ家だ。

 どうするか、とシロマの行動を見守るつもりでいたが、彼は躊躇なく扉を開けた。


「ちょっと、シロマ君!?」


 アミリが驚き声を上げる。聞こえないとばかりにシロマはずかずかと家へ入っていった。

 

 彼の背中越しに家の中の様子を覗くが、薄暗くてよく見えない。けれども人の気配はあった。忍ぶつもりもなさそうだった。

 机の上に置かれたランタンがほのかに照らして、辛うじてそこに二人いるのが分かった。酒瓶が何本も並んでいる。汚いいびきも聞こえた。

 シロマがすぐ近くまで寄っても二人は微動だにしない。

 随分間抜けな泥棒だ。そこへ拳が振り下ろされた。


「グフッ!」


 重低音を響かせて男達は椅子から転がり落ちた。

 ついでに床に体のあちこちをぶつけたらしい。二人はピク、ピク、と痙攣しながら痛む箇所を押さえた。

 それでも意識がハッキリしたのだろう、茶緑色の長い髪をした一人が慌てて立ち上がりシロマに掴みかかった。


「なっ、何しやがんだテメェ! 俺を誰だと思っ………………」


 怪訝な顔をした男に、低い声が返ってくる。


「お前こそ、俺を誰だと思っている?」

「あ、……あああああ兄貴!? ご、ご無沙汰してます!! まさかおかえりになられるとは!」


 男はパッと掴んでいた手を離した。

 媚びへつらうような笑顔を浮かべて、床に倒れ込んだままのもう一人の肩を蹴った。「いつまで寝てんだ!」と声を荒げる。

 嫌々顔を上げたツンツン頭の金髪男は、シロマを見上げて固まった。


「やっぱり、貴方達だったのね」


 アミリがそう言って家の中へ入った。先ほどまでの柔らかい雰囲気はもうそこには無い。

 長髪の男は怯えた目をしてアミリを見つめた。


「あ、姉御」

「家を守ってね、とはお願いしたけど、部屋を荒らしていいとは言ってないわよ」

「はい……」

「道も作っちゃダメじゃない。知らない人が辿り着いてしまうでしょう」

「おっしゃる通りで……」


 大の大人が、一回りは年下の女性に叱られている。

 アスレインは見ていられなくて目を逸らした。ユティスだけは「怒っているアミリさんも素敵だなあ」と笑っている。

 

「ああもう。こんなに散らかして」


 部屋の電気を付けると、そこかしこに空き瓶が転がりゴミが散らかっていた。

 肩をすくめたアミリは「掃除をしなくっちゃ」と言って別の部屋へ行ってしまった。掃除道具でも取りに行ったのだろう。


「相変わらずじゃの」


 唯一取り乱した様子のないロイドが微笑みながらそう言った。それからアスレイン達を見て「紹介がまだじゃったな」と頷いた。


「アミリに叱られてるのがウグイ、床に転がって何も喋らん金髪がニシキじゃ」

「はあ、どうも」


 アスレインは会釈をした。ラグラスも渋々と言った様子で頭を下げる。ユティスは目下した目をして口角を吊り上げた。

 ウグイはそのどれもに返すことなく、ロイドに縋るような目を向けた。


「ロイドのじいさん、これは一体どういうことだよ?」

「お前らに話すことは何もない」


 シロマがそう言って空き瓶を何本か投げて寄越す。


「さっさと出て行け」


 睨まれた二人は慌てて抱えられるだけの空き瓶を抱え、外へ飛び出して行った。


「なにあれ」

「ほっほっほ。昔シロマが二人と喧嘩したことがあっての。それ以来ずっとああなんじゃ」

「ああ、舎弟か」


 確かに、シロマには逆らえない圧を感じることがある。いくら年下とは言え、敵わない相手には逆らわない。それが世の常だ。

 二人が出て行ったのと入れ違いに、ホウキや雑巾を手に取ったアミリが戻ってきた。


「二人は?」

「帰らせた」

「そう、悪いけどそれがいいわね。今日は掃除に集中しなくちゃ。他の部屋も、ちょっと……アレだったから」

「やっぱり殺すか、アイツら」

「物騒なのはやめて。いいから掃除!」


 アミリはシロマにホウキを一本押し付けると、部屋の中を好き勝手に動き回っていたユティスの名前を呼んだ。


「ユティちゃんは、私と一緒に向こうの部屋を掃除してくれる?」

「え? はい。喜んで!」

「ついでに着替えましょうか。いつまでも軍服着てる訳にはいかないでしょう? 私のお古で良ければあげるからね」

「なっ……、アミリさんの……? だ、大事にします!」


 飛び跳ねる勢いでユティスは答えた。その後ろで、ロイドが顎に手を当てる。


「ふむ……、それならラグラス。お主はワシの部屋を掃除せんか? ゴーグルを欲しがっていたろう。探せばあると思うんじゃが」

「え? いいんですか?」

「おお、どうせ使わんしの」


 そう言って二組が部屋を出て行ってしまったので、自然とアスレイン、シロマが部屋に残される形となった。沈黙が空間を支配する。


「えっと、貴方は僕に何か……くれるものがある?」

「ある訳ないだろ」


 黙って手を動かせ、と雑巾を手渡されたので大人しく受け取った。

 が、アスレインは貴族の生まれなので、掃除など生まれてこの方したことがない。


「どうすれば良い?」

「床でも拭いてろ」


 言われた通り床を拭いた。やり方が合っているのか分からないが、シロマが何も言わないのでこれでいいのだろう。

 ちまちまと床を濡らすアスレインとは対照的に、シロマは手際良く掃除をこなしていく。


(人は見かけによらないなぁ)


 なんて失礼なことを思いながら拭いていると、本棚と壁の隙間、そこでキラリと何かが反射して光った。


(なんだろ)


 手に取ると、ピンズのようである。

 黒い円に、金で模様が描かれた上品なものだった。ウグイやニシキには似合わない。おそらくはシロマ達の持ち物ということになるのだが……。


(なんか、見たことが……あるような)


「そこ、終わったのか」

「えっ? いや、まだ」

「早くしろ、日が暮れるだろ」

「うん、ごめんね。今やるよ」


 返すべきだ、と思いながら。

 アスレインはピンズを内ポケットへと忍ばせていた。

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