第95話 処刑宣告
ロイドによって私の死の真実が明かされた後、私はフレアリス家の地下室へと隔離された。
部屋は清潔ではあるが、余計な装飾品などは一切置かれていなかった。
窓もなく、扉も常に鍵がかけられている。
家庭教師による教育も中断され、ジゼルさんが訪ねてくれることも無い。
ただ、一日に一回、僅かな食事が差し入れられるだけだ。
『ここで、君が本当にすべきことを、よく考えると良い』
ロイドはそう言ったきり、姿を見せなくなった。
薄暗くて狭い空間に、私はずっと閉じ込められ続けた。
昼夜の判断すらつかず、恐怖と緊張で眠れず、自分が衰弱していくのが分かった。
「サリオン様……」
何とか正気を保とうと、彼の名を呼ぶ。
サリオン様が王国牢で騒ぎを起こしたのは、きっと私の指輪が反応したからだ。
ロイドが対処に向かったが、サリオン様が負けるとは思えない。
――だから、サリオン様が助けに来てくれるのではないかと。
彼の無事な姿が、見られるのではないかと。
そう密かに期待し、祈るように待っていた。
けれどいつまでたっても、その時は訪れない。
それどころか最近、地響きのような音や、轟く唸り声が聞こえてくる気がした。
ここは地下の部屋で、地上の様子は何も分からない。
今、一体、何が起こっているというのだろう。
私は無力感に苛まれながら、膝を抱えることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
そうして、何日過ごしていたのだろうか。
突然、勢いよく扉が開いた。
驚いて顔をあげると、そこには悠然と笑うロイドの姿があった。
「やあ、カナリヤ。きちんと考えは改まったかい?」
私は唇をかみしめ、気力を振り絞って彼を睨みつけた。
「改めることなんて何もない。私がサリオン様を想う気持ちは変わらない!」
「へえ」
ロイドはつまらなさそうに私を見下ろした後、愉快そうに口元に弧を描いた。
「でも、いいさ。今日は素晴らしい知らせを持ってきたんだ」
「……今度は何を言い出すつもりなの」
「随分な扱いだな。特別に、君には一番に教えにきてあげたのに」
もったいぶるようなロイドの口ぶりに、背筋が冷えていく心地がした。
息をのむ私をあざ笑うかのように、彼は告げた。
「サリオン・ノースフェルの処刑が決定したよ」
その言葉は確かに耳に届いたが、意味を理解するのに数十秒かかった。
信じられない。信じたくない。
私の中の希望が、ガラガラと崩れ落ちていく。
「罪状は国家反逆罪。処刑は王宮の大広場――白の聖殿で、大々的に公開されて執り行われる」
私の頭の中で、勝手に処刑の様子が再生される。
多くの民衆の罵声を浴びながら、処刑台に立たされるサリオン様の姿。
偽りの罪をきせられて、反論も許されず、裁かれていく光景。
――あんなにも優しくて温かい人が、何故。
「ふざけないで!! 全部、冤罪じゃない!」
「冤罪? その証拠はどこにある?」
「……っ、貴方。自分がしていることが、恥ずかしくないの?」
「ははは、俺は国のことを思って動いているのさ。俺は英雄だよ」
「貴方なんて英雄じゃないわ。嘘吐きの詐欺師!!」
私の言葉にロイドが舌打ちした。
彼は憎悪に濡れた眼差しを私に向けて、殴りかかろうと拳を振り上げる。
しかしすぐに指輪の加護を思い出したのか、その腕を下ろした。
「まあいいさ。今のうちに好きに言っていると良い。アイツがいなくなれば、この忌々しい防御魔法もなくなるだろう。そして、君は俺を頼るしかなくなる」
「誰が、貴方のことなんか。それにサリオン様は死なないわ。強い人だもの」
私が言い返すと、ロイドは大げさに瞬きをした後、馬鹿にしたような高笑いを始めた。
「ああ、ああ。そうか、そう思うのかい、カナリヤ!」
彼は私に近寄り、心を見透かすように、じっと瞳を覗き込む。
「だけど、その強い辺境伯は、どうして君を助けに現れないんだ? 処刑が決まっても、大人しく捕まったままでいる?」
「そ、それは……」
「それはな、アイツが俺に負けを認めたからだよ。もう抗う気力もないのさ」
「馬鹿なことを言わないで。サリオン様が、そんなはずは」
「可愛いカナリヤ。可哀想なカナリヤ。残念だけど、これが真実だ」
私は言葉を続けることが出来なかった。
確かにサリオン様が行動を起こしていないのは事実かもしれない。
けれど、何故?
嫌な予感が胸の中で騒めく。
――まさか、ロイドに何かとんでもないことをされたのでは。
「この地下の暮らしも疲れただろう。俺と結婚すると認めれば、いつでも解放してあげるよ」
にこやかに微笑むロイドへ、私は冷たい視線を返した。
「お断りです。何があっても、貴方と結婚なんて」
「困ったね。随分と強情なお姫様だ」
ロイドは呆れたように軽く腕を振って、踵を返す。
ただ、その途中、ふと思いついたように振り返った。
「そういえば、君はあの辺境伯に蘇らされた死体だったな。彼が死んでも、動き続けるのだろうか」
それは興味本位にしては、あまりに趣味の悪い疑問だった。
彼は悪びれる様子もなく続ける。
「まあ、どちらでもいいさ。動かない方が、逆に都合が良いかもしれない」
真っ赤な瞳を薄く細めて、ロイドは笑う。
「今度こそ、僕のものに出来るからね」
一方的にそう告げて、彼は扉を閉ざして行ってしまった。




