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第85話 虚しい供述(★ルージュ視点)

 昼過ぎとなり、騒然としていたランベルトの人々も少しずつ落ち着きを取り戻していた。


 大挙してきた魔物の群れは、全てリュミエさんにより追い返された。

 倉庫の爆発そのものでの怪我人は出たようだが、幸いにも死者はいなかったらしい。

 

 河岸一帯の倉庫区画は、高度な瘴気の蔓延により立ち入り禁止となった。

 今は王都へ浄化の救援を要請しているところだという。

 

 ――そして私たちはと言えば、その人の気配の失せた倉庫区画の片隅にいる。

 縄でぐるぐる巻きに縛り上げたラルゴを囲んで、尋問をしているところだ。


「つまり、貴様はロイドに家を救われた恩義があり、言いなりになっていたと」


「はっ、はい、そうです。ヴァレンティーヌ家は、不祥事のせいで取り潰し寸前。フレアリス家の威光がなければ、もはや存続はできず……」


「犯行に使った瘴気を吸った魔石は、ロイドが用意したのね? 貴方ではなく?」


「私にそんなことはできませんっ!」


「指示は口頭、魔石は現場に直接移送……徹底的に証拠を掴ませないようにしているにゃ」


 忌々し気に顔を歪めたミュラさんが、威嚇しながら羊皮紙とペンを叩きつける。


「とりあえず、お前、一筆書いとけ! ロイドとお前が全部やったって、知ってること全部書くにゃ!」


「ひ、ひい! はいっ!!」


 地べたに這いながらペンを走らせるラルゴを見下ろしつつ、リュミエさんが困ったように呟く。


「何もないよりは良いけれど、これは証拠としては弱いでしょうね」


「そもそも、犯人のロイドが王都側のトップだ。余程のものでもない限り、もみ消されて終わりか」


 ヴァルクさんの言葉を聞いて、私は王都での演説を思い出した。

 あのときの恐怖が蘇り、羽が震える。


「ロイドの人気は凄かったのです。誰も、彼を疑わないかも……」


 しばらくの沈黙を挟んで、リュミエさんが私を抱きしめてくれた。


「大丈夫。それでも、なんとかしましょう。だって陛下もカナリヤ様も、私たちの大切な人なんですから」


「……! はいっ!」


「それで、こいつはどうするにゃ?」


 証言を書かせた羊皮紙を確認したうえで仕舞いつつ、ミュラさんがラルゴに冷たい視線を送る。


「不本意だが解放するか。拘束し続ければ、こちらを悪者としてロイドが喧伝するかもしれん」


「ひっ、ひひ、助けて頂けるんです?」


 媚びるように薄笑いを浮かべるラルゴを、ヴァルクさんが睨みつける。


「ただし、ここで俺たちに話したことは全てロイドには内密にすること。そして、もう二度と魔物の暴走騒ぎの片棒を担がないこと」


「え、あ、でも、それだと、家が!」


「ならここで死んでおくか? 別に魔物の暴走事件に巻き込まれて一人くらい死人が出ても、そう違和感はないだろう」


「ひいいいいっ、わ、わかりました。もう事件に関わりませんっ!!」


 こうしてラルゴは乱雑に縄を解かれた。


「いいか、約束を破ってみろ。お前を死ぬより辛い目に遭わせてやる」


「ひゃっ、ぎゃああ、助けてっ……!!」


 ヴァルクさんのどすをきかせた声に追い立てられるように、ラルゴはふらつく足取りで去っていった。



「――あんなのが、カナリヤ様の父親だなんて」


 ラルゴの姿が見えなくなってから、リュミエさんが溜息交じりに零した。


「カナリヤのこと、ひとことも聞いてこなかったね」


 同調するように、ミュラさんが顔を顰める。


 そういえば、そうだった。

 あのラルゴはカナリヤ様の父親だったのだ。

 全然似ていないし、騒動が激しすぎて、頭からすっぽり抜けていた。


 そしてそう思うと、とても腹が立ってきた。

 カナリヤ様をずっと酷い扱いをしてきたのが、あの男なのだ。


「あいつ、嫌いです!」

「似てない親子です!」

「カナリヤ様を守るのです!」


 ふんふんと息巻く私たちを、リュミエさんが宥めるように撫でてくれた。


 そして私は、一つ思いつく。


「そうだ。このことを、カナリヤ様にお伝えしましょう!」


 私たちはカナリヤ様が送ってきてくれたハンカチの裏面に、今回知り得た情報を書き込んだ。

 

「お願い、カナリヤ様まで、どうか届いて」


 そして全員で祈りながら、それを空へと飛ばすのだった。

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