第84話 ラルゴの捜索(★ルージュ視点)
地方都市ランベルトは、三つの街道と河川が交わる地点に築かれた交易の拠点だ。
王都ほどの壮麗さはないが、常に人と物が行き交うことで街は昼夜を問わず活気にあふれている。
「ラルゴの姿はあったか?」
空から舞い降りた私は、ヴァルクさんの問いかけに力なく首を振った。
「いいえ、見つからないです」
この地でカナリヤの父――ラルゴ・ヴァレンティーヌが魔物の暴走事件を起こすのではと考えた私たちは、全員で手分けしてその姿を捜索していた。
しかし想像以上に街の規模が大きく、目的の人間一人を探し当てるのは至難の業だ。
「ボクも近隣の魔物に確認してみたけど、少なくともそれらしい貴族の馬車は来ていないみたいにゃ」
「従者を引き連れずに、単独で動いているのかもしれないわね」
「どうするにゃ。もう日が昇ってる」
「これまでの傾向から考えて、事件はおそらく日中に起こる。民衆に魔物の暴走を印象付けたいんだろう。卑怯な奴らだ!」
朝の光に照らされ、ますます賑わいだした街を見つめながら私は口を開く。
「あの、皆さんの力で、暴走させられる前に低級魔物を制御することはできないですか?」
この場にいるリュミエさん、ヴァルクさん、ミュラさんは、魔物の中でもかなり強い力を持っている。
彼らは低級魔物をある程度操ることができるのだと、ババ様が言っていた。
実際、ミュラさんはこの街でも、魔物を使って捜索を行っている。
「出来なくはないと思うけどにゃあ」
私の言葉に、ミュラさんが困ったように呟く。
「そうすれば魔物の暴走事件は回避できるけど、ロイドとラルゴの悪事を暴けないかもしれないにゃ」
「うう、確かに」
「これは真相を究明するチャンスよ。街の被害は抑えたいけど、出来れば証拠も確保したいわ」
私たちが街道の隅で話し合っていると、慌てたように二羽の黒いカラスが飛び込んできた。
ブルーとジョーヌだ。
「大変、大変です!」
「異常な魔力の気配です!」
その言葉に、全員が一斉に動き出す。
「よく見つけた、どこだ!?」
「河岸にある倉庫の近くです!」
「沢山倉庫があるところです!」
「急ぐにゃ!」
私たちはブルーとジョーヌを先頭に、河岸の倉庫街へと駆けだした。
◇ ◇ ◇
沢山の店が開かれる広い街道から少し離れた位置に、河沿いの地区がある。
ここはランベルトの心臓部と呼ばれていて、小型の運搬船や荷船が絶え間なく往来している。
辺り一帯にはその荷物を収めるため、沢山の倉庫が立ち並んでいた。
王国公認の商人が所有する石造りの頑丈な保管庫から、地方商人用の簡素な木製の小屋まで、大小さまざまな種類に及んでいる。
「確かに魔力の流れが淀んでいるわね」
「特定できるか? リュミエ」
「待って、一つに絞るのは難しいわ。いいえ、違う、これは……!!」
リュミエさんが叫んだ、その瞬間だった。
――ドォン!!
木製の小屋の一つが、大爆発と共に吹き飛んだ。
炎と共に立ち上る煙は暗緑色に渦巻いていて、強烈な瘴気を巻き散らしている。
倉庫で仕事をしていた人たちや、その裏手に密集している宿屋と酒場から、悲鳴と怒号が轟く。
荷物を捨てて一斉に逃げ惑い始める人の波に巻き込まれながらも、リュミエさんが声をあげた。
「駄目、ここだけじゃない。辺り一帯に仕掛けてある!!」
――ドォン!
――ドォン、ドォン!!
無機質で壮絶な爆発音が、断続的に響いていく。
河岸が炎と瘴気の霧に覆われていく。
豊かな交易街が、一瞬で地獄絵図のように変わっていく。
そして広がり続ける瘴気に引き寄せられる様に、遠くの空が黒く染まった。
近くの瘴気の森から、低級魔物の群れが呼び寄せられているのだ。
「いけない、ここは私が。ヴァルク、犯人は頼みましたよ!」
叫ぶと同時にリュミエさんは巨大な翼を持つ白蛇の姿へと変化した。
目にもとまらぬ速度でそのまま空へと飛び進んでいき、魔物の群れと対峙するように大きな翼を広げる。
「行くぞ、お前達。アイツは逃がさん!!」
突然の展開に見ていることしかできない私を、ヴァルクさんが抱える。
気づけば彼もゴーレムの姿へと変化していた。
そして、ブルーとジョーヌ、ミュラさんまで軽々と腕に抱えて、恐ろしい速さで倉庫の裏手へと駆けていく。
「ヴァルク、ラルゴがいたのかにゃ!?」
「ああ、爆発の中、逃げていく貧相な男が見えた!」
住民が避難した後なのか、人気のない宿場通りを抜けて、裏路地に差し掛かったところで小さな男の背中が見えた。
男は塀を乗り越えて、別の区画の市場の方へ紛れ込もうとしている。
「させるかァ!!」
ヴァルクさんが怒りのこもった声と共に、舗装された石畳を激しく踏みつける。
その衝撃は逃げる男に向かって真っ直ぐ地を割り、彼は情けない声をあげながら転倒した。
「行くにゃ、ルージュ、ブルー、ジョーヌ!!」
ミュラさんが私たちに網を差し出しながら叫ぶ。
私たちはすぐに合点がいって、頷きながら飛び立った。
「「「はいです!」」」
網を咥えたまま私たち三羽は勢いよく飛んでいき、立ちあがりかけた男に投下する。
彼は悲鳴をあげながら、網に絡まり身動きが取れなくなった。
「ひいいっ、ば、化け物っ! 来るな、来ないでくれええっ!!」
這いずる男の傍に、私たちは静かに着地する。
顔をあげれば、巨漢のヴァルクさんがゆっくりと近づいて来る。
その眼差しには怒りと憎しみに満ちていて、視線だけで人を殺せそうな迫力があった。




