第68話 王城に眠る神核炉(しんかくろ)(★ロイド視点)
――神核炉。
500年前の戦争で、人間が魔物に対抗するために生み出した禁忌の兵器。
神の名を冠するその兵器は、多くの犠牲を伴いつつも魔王を打ち倒したのだという。
既に市井では神話と化したその物語だが、実はこの神核炉は実在する。
ただし、あまりに危険な兵器である為、歴代の王と勇者の末裔の血族にのみに伝えられてきた。
「神核炉は、この神像の下に眠っています。この城は、それを500年間も守り続けてきた」
「しかしロイド、神核炉は過去の王も何度も再現を試みたが、みな失敗に終わっている。500年前の時代の技術は、大戦の終了と共に大半が失われてしまったのだ」
「存じております。けれど、その失われた技術が再発見されたのです」
「なんだと!?」
「ノースフェル辺境伯が破壊活動をおこなった遺跡の神殿。あれこそが、その技術が再現された場所」
「なっ……!」
「カナリヤ嬢を誘拐したのは、神官崩れの過激派の男でした。余罪がいくつもあり、多数の民を殺めたことが確認されています。奴は悪逆非道の許されざる罪人です」
老王の瞳が動揺に震えている。
俺は静かに言い聞かせるように、言葉を続けた。
「ただ、その遺物研究の能力だけは本物でした」
王へ告げた言葉に嘘はない。
マルコスというあの元神官が蘇らせた「魔導砲」は、紛れもなく500年前に失われたはずの遺物兵器だった。
奴は魔導砲こそが人類最大の兵器だったと誤解していたようだが、実際は違う。
魔導砲はあくまで研究過程で生み出された副産物。
本命は「神核炉」の開発にあったのだ。
「奴の再現した魔導砲の技術を用いれば、王城に眠る神核炉を再び動かすことができるでしょう!」
俺が断言すると、王は複雑そうな表情で顔を伏せた。
いくばくかの沈黙を挟んで、王は重い口を開く。
「ロイドよ、確かにお主の言葉が事実なら、神核炉の再現が出来るかもしれぬ。しかし、あれは多くの犠牲が必要な代物だと言い伝えられている。安易に動かし、万が一のことがあれば――」
「勿論でございます、聡明な我が王よ!」
王の不安を払拭するように、俺は微笑んで見せた。
「これはあくまで、危機に備えるためのものです。ノースフェル辺境伯が人間に宣戦布告をしてきたときの為、使える切り札は多い方が良いでしょう」
「宣戦布告など! まさか、そんなことが!」
「ええ。勿論、ご安心ください。アルベリク陛下のご心配は、このロイドが全て解決して見せましょう」
「頼むぞ、ロイド。先代より受け継いだ500年もの平穏、ワシの代で絶やすわけにはいかん」
狼狽する王へ、俺は力強く頷いた。
「その為にも、先手を打ってノースフェル辺境伯の調査を綿密に行いましょう。そして、陛下は神核炉の封印の解除を」
「ああ。……ああ、分かった」
王からの了承の宣言を得て、俺は密かに口許へ笑みを浮かべた。
神核炉は強大な力を持つため、厳重に稼働条件が管理されている。
長年にわたり両家で継承されてきた文章の内容は、こうだ。
神核炉は王の末裔が承認することで封印が解除され、勇者の末裔が魂を接続することで起動する。
――つまり、封印さえ解いてしまえば、修復後は俺の意志で稼働が可能となる。
「では私は早速、調査と神核炉の修復作業へ移ります」
俺は恭しく頭を下げた。
「……我が王に置かれましては、このことはくれぐれも御内密に」
念のために釘を刺した言葉に、王は力なく頷く。
その姿を確認すると、俺は王宮大広場を後にした。
これから忙しくなりそうだ。
北の街へ滞在中、カナリヤがノースフェル辺境伯の屋敷にいることを確認した俺は、すぐに貴族連中への根回しに努めた。
絶大な魔力を有し、魔物を従えているという辺境伯相手に、正面から衝突しても勝てないと判断したからだ。
だが、政治の世界でなら俺の方が圧倒的に優位だ。
時間がかかってしまい、その間にメアリーが騒動を起こしてしまったのは計算外だったが、結果としては悪くない状況に収まってくれた。
"俺の流した噂"を信じて、貴族連中は、辺境伯への警戒を強めている。
しかも、神核炉という武力的な切り札まで手に入りそうだ。
――俺は望むものをすべて手に入れる。
己の有能さに酔いしれつつ、俺は颯爽と王都を歩いて行った。




