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第66話 メアリーの没落(後)(★メアリー視点)

 ラグフェン開拓地に到着してすぐに、私とお母様には粗末な作業服が与えられた。

 元々身に付けていた衣服や装飾品は全て回収され、もう返却されることはないと説明された。


 納得いかないと声をあげても、誰も聞いてはくれない。

 

 そして、その場でお母様とは離れることになった。

 ラグフェン開拓地には幾つか集落があり、私たちは別々の場所へ配置されるらしい。


 お母様は最後まで私を睨み付けていた。

 私も殴られた怒りを思いだし、睨み返していた。

 それきりの別れになった。



 私は西方労働登録民084番として、第2開拓集落に送られた。

 何もかも味気ない名前で、嫌気がした。


 最初に与えられた仕事は、共同宿舎の掃除や炊事だった。

 けれど、これまでそんな雑務は使用人やカナリヤにやらせてきたのだ。

 全くやり方がわからない。


 だから適当にやった振りをして済ませていたが、すぐばれて怒鳴られた。


「仕方ないでしょ。こんな下等な仕事、自分でしたことないもの!」


「だったら、何なら出来るんだ」


 呆れたような監督官の言葉に私はムッとしたが、返答につまった。

 ……私が出来ることって、何かしら。


「わ、私は可愛いわ。天使みたいだって、王都では評判だったんだから!」


 私の言葉に、監督官は失笑して見せた。


 ――腹が立つわ。何なの!? 

 本来なら私は、アンタなんかが言葉を交わすことすらできないような存在なのよ!


「どうしようもないな。倉庫整理と防護柵の補修でもしていろ。あれなら誰でもできる」


 馬鹿にしたような監督官の物言いに、私の頭は怒りでカーッと熱くなる。

 言い返してやりたかったけど、その前に監督官はさっさとどこかへ行ってしまった。



 それからは、薄暗くて埃っぽい倉庫で荷物を運ぶことと、寂れた集落の外周を杭で囲むことが私の仕事になった。


 同じ作業グループの労働登録民たちは、殆どが無気力な顔をしたおじさんやおばさんで、言葉を交わす気にもなれなかった。

 彼らがどうしてここに辿り着いたかすら、興味がもてなかった。


「おい、南東の柵が壊れた。補修に行くぞ」


 私の仕事は基本的には倉庫作業で、防護柵が壊れた時に外へ出て補修することになっていた。


「またなの? この前、直したばかりじゃない!」


 最初は防護柵の補修は数日に一度程度だったのに、最近では毎日のように呼び出されている。

 不機嫌そうに声をあげてみるが、監督官の表情は硬いままだ。


「文句を言うな。必要な仕事だ」


 私以外のメンバーは無言のまま、ぞろぞろと監督官に続いて倉庫を出ていく。

 大きなため息を吐くと、私もその後へ付いて行った。

 

 壊れたという防護柵の元へ向かう道すがら、この集落の責任者である役人たちが会話している声が聞こえてきた。



「最近、瘴気の森が拡大しているという報告がある」

「ああ。魔物の動きにも注意が必要だ」

「本来ならば王都から警備要員が欲しいが、この僻地では……」



 思わず足を止めて聞き入っていると、監督官に怒鳴られる。


「084番、何をしている。早く来い!」


「わっ、分かったわよ!」


 ――本当に、この先、どうなってしまうのかしら。


 私は誘導された先で雑に杭を打ち込みながら、必死に心の中で祈った。



 お願い、ロイド、早く来て!

 早く私を迎えに来て、こんな薄汚れた場所から救い出して!


 そして、私をひどい目に遭わせた、お母様も、お父様も、この集落の奴らも、カナリヤも、みんなやっつけて!


 私はお姫様なのよ。勇者様に救われる、お姫様なのよ。

 ずっとそうだって、決まっていたんだから。



 ロイドからの連絡は、ついに永遠に、私に届くことは無かったのだけれど。

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