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第64話 初めての夜を越えて

 結婚式は夕方まで盛り上がり、その後は皆で仲良く大広間の片づけをした。

 夜ご飯は魔物さんたちからの贈り物の食器で頂き、楽しい話はいつまでも尽きなかった。


 本当に幸せな一日だった。

 以前の私なら、これは夢ではないかと不安になっただろう。


 でも、今は違う。

 確かに私は現実の世界にいて、彼の妻となり、家族と帰る場所が出来たのだと実感できる。



 ――そして私は今、彼の部屋の扉の前にいる。

 式の重たい衣装を脱いで、白いナイトドレスに身を包んでいた。

 左手の薬指には勿論、銀の指輪が光っている。


「サリオン様」


 呼びかけと共にノックの音を響かせて少し待つと、ゆっくりと扉が開かれた。


「カナリヤ、来てくれてありがとう」


 サリオン様は紫色の瞳を細めて、私を優しく招き入れてくれた。

 部屋へ足を踏み入れ、扉が閉まった瞬間、待ち侘びたように抱きしめられる。


「可愛い。もう離したくないな、僕の可愛いお嫁さん」


 彼の長い指先が、慈しむように私の頬を撫でる。

 熱のこもった眼差しに、私の鼓動が高鳴る。


「はい。貴方の……、貴方の、カナリヤです」


 恥ずかしさに頬を赤らめながらも、私は幸福に微笑んだ。

 サリオン様は息を飲み、私を抱きしめる腕の力が強まる。

 

「……愛してる」


「私もです」


 静かにサリオン様の端正な顔が近づいてくる。

 私は瞳を閉じて、重なる唇を受け入れた。


 こうして、二人の夜は静かに更けていく――。


◇ ◇ ◇


 窓から淡く朝日が差し込んで来る。

 私がふわふわと目を覚ますと、広いベッドの上で、サリオン様の腕の中にいた。


「おはよう。よく眠れた?」


 サリオン様は少し低い優し気な声で、私の耳元に囁く。

 向けられた柔らかな眼差しが、自然と私の表情を綻ばせた。


「はい、とても」


 私は甘えるように彼の胸へと擦り寄った。

 ――夫婦になったのだから、これ位は、許されるだろうか。

 しっかりと抱きとめてくれる力強い腕に、心が満たされていく。


「サリオン様……」


 そして同時に、心配が胸を掠めた。

 幸せを実感すればするほどに、あの神殿での出来事が、元神官の言葉が思い出される。


 無意識に、私は左手の薬指に光る指輪を見つめた。


「私、とても幸せです。でも、このままで大丈夫なのでしょうか」


「何を言っているんだ、カナリヤ。良いに決まってる。このまま居てくれなきゃ困る」


「勿論、そのつもりです。けれど、どうしても思い出してしまうのです。あの魔導砲という武器は、私の、賢者の魂が燃料になると言われていました。私が皆さんに害をなすことになるのが、何より怖くて――」


「なんだ、そんなこと。大丈夫、君をそんな恐ろしい目になんて合わせないよ。それに」


 サリオン様は私の頭を優しく撫でながら、言葉を続ける。


「あの場で魔導砲が使われていたとしても、僕が傷つくことは無かっただろう。魔導砲の存在は、リュミエたちから聞かされたことがある。あれは確かに低級魔物へは脅威になるが、僕は勿論、他の黒曜城の魔物たちにも致命傷にはならない」


「そうなんですか?」


「ああ。銃口を向けられた時にも確信していた。僕なら十分、防ぎきれる攻撃にしか過ぎないと」


「それなら、良いのですが」


「ただ、魔導砲が存在するとなると、気になることはある」


「気になること……?」


「かつて人間が魔物との戦争中に作り出した兵器はいくつかある。その中には、世界を滅ぼしかねないものもあったらしい」


「あまり聞いたことがありませんね」


「昔の話だし、大戦の影響で技術の大半は失われたそうだからな。この話が人間側にどの程度伝えられているか分からないし、あったとしても機密事項なのだろう」


「サリオン様は、詳しくお話を聞かれているのですか?」


「それが、リュミエたちは実際に戦争を経験しているから、詳しいはずなのだがな。必要最低限の情報以外は、皆、話したがらないんだ。あのヴァルクでさえ」


 私は思案気に目を伏せるサリオン様を見つめた。


 魔物さん達にとって彼は子供のような存在でもあり、凄惨な戦争について詳細を語りたくないというのは自然なことかもしれない。

 ――特に、彼の魂の元の持ち主である魔王を失ったという戦争については。


「まあ、今の魔物と人間は、あからさまな対立関係にある訳ではない。だからこそ、国は僕を辺境伯として扱っているのだしな」


「確かにあの神官は国で裁かれるようですし、王も争いを好まない方だと伺っています」


「僕がこれからも仕事に励んで国に貢献すれば、魔物が刃を向けられることもないだろう。だからカナリヤは安心して、いつまでも僕の傍にいておくれ」


「……それでは、ますますサリオン様をお支えしなくてはいけませんね」


「うん。頼むよ、僕のお嫁さん」


「はい。サリオン様」



 サリオン様の微笑みは穏やかながらも自信に満ちていて、心配を全て洗い流してくれるようだった。

 この時の私たちは、ずっと続く平穏を信じて疑わなかったのだ。


お読みくださりありがとうございます。

ここで第3章完結となります。


面白かったら、フォロー、★評価、コメントなどで応援いただけると励みになります。


次話から始まる第4章が、最終章となります。

舞台のスケールが一気に広がり、

これまでの全ての謎が回収される予定です。


登場人物たちそれぞれに活躍の機会もあります。

何より3章までで生きる意味を取り戻したカナリヤが、

守るべきものの為に立ち向かうお話となります。


どうか最後まで、カナリヤとサリオン、

黒曜城の仲間の頑張りを見守って頂けると幸いです。

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