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第62話 世界一幸せな花嫁(前)

 色とりどりの花で飾り付けられた大広間の扉が、ゆっくりと開かれる。


「それでは、新婦様のご入場です――!」 


 リュミエさんの弾むような声に導かれて、私は足を踏み出した。


 大広間の窓から、陽の光が差し込む。

 私が纏っているのは、純白のウェディングドレスだ。

 

 過度な装飾はなく、柔らかな布地が身体の線に沿って落ちている。

 胸元から裾へと流れる銀糸の刺繍は、一針一針心を込めて自分で縫いあげたもの。

 黒曜城に暮らす魔物の皆さんの姿をイメージして作り上げていた。


 歩くたびに裾がふわりと揺れ、淡く光を反射する。

 それは宝石ではなく砕いた魔石の煌めき。

 朝露のような、ひそやかな輝きだった。


「カナリヤ」


 少し緊張した面持ちで歩く私の視線の先、大広間の中央でサリオン様が待っている。

 私とお揃いのような純白の礼装に身を包み、いつも以上に美しく優雅に見えた。


 二人の距離が縮まると、サリオン様は改めて私を見つめ、ふっと紫色の瞳を細めた。

 そして私へ柔らかく手を差し伸べる。


「とても綺麗だ」


 指先を重ねた途端に引き寄せられて、サリオン様が囁いた。

 その言葉がくすぐったくて、嬉しくて、幸せで、私は表情を綻ばせる。


 私とサリオン様は歩調を合わせて、そのまま誓いの祭壇の前へと進んだ。

 立ち止まってくるりと振り返ると、入場を見守ってくれた魔物さん達の姿が目に入る。


 神父役は居ない。

 ここにいる黒曜城の家族の皆が、結婚の証人だ。



「僕はカナリヤを愛している。今後、何があろうとも、僕は彼女と共に在る」


「私はサリオン様を愛しています。彼の幸せが、私の幸せです」



 誓いの言葉に、割れんばかりの拍手が起こった。

 私たちは沢山の祝福を受けながら、そっと口付けを交わした。



◇ ◇ ◇


 

 荘厳な雰囲気の儀式の後は、一転して、大広間は明るく賑やかな雰囲気になる。


「ご結婚おめでとうございます!」


 私とサリオン様は、あっという間に魔物の皆さんに囲まれた。

 今日は全員人間姿で、式典らしく礼装をまとっている。

 ちなみにグレースさんは日の当たらない特別席で、にこやかにその様子を見守ってくれていた。

 

 魔物さん達の中心にいたリュミエさんが一歩前へ進み出た。

 彼女は穏やかな笑みを浮かべつつ、綺麗に包装された箱を差し出す。


「皆からお二人への結婚祝いです。受け取ってください」


「ありがとう!」

「ありがとうございます!」


 嬉しいサプライズに、私たちは顔を見合わせつつ声を弾ませる。

 断りを入れてから中を確認すると、箱の中にはお揃いのグラスと食器が入れられていた。


「あの、あのっ……、とっても素敵です」


 私は感動で胸がいっぱいになる。

 ただでさえ、急な結婚式の準備で大忙しだったはずだ。

 そんな中、私たちに贈り物を考えてくださった皆さんの気持ちが、本当に尊いものに思えた。


「あのねカナリヤ。食器にしようと言ったのは、ボクの提案だよ!」


 身を乗り出してきたミュラさんへ、ノクスさんが言葉を挟む。


「オマエが選ぼうとしたのは、猫柄の食器だろうが」


「にゃんだと! 猫は可愛いから良いだろ! ノクスだって真っ黒な皿ばっかり選んで、リュミエに却下されていたじゃないか」


「黒は万能だろう、何がいけないんだ!」


「はいはい。おめでたい日に、喧嘩しない」


 リュミエさんの仲裁の横から、お揃いの三色ドレス姿のルージュさん、ブルーさん、ジョーヌさんが、にこにこ笑顔を覗かせた。


「グラスは私たちとババ様で選びました!」

「自信の品です!」

「これでお食事も、もっと楽しいです!」


「ははは、最高の贈り物だな。早速、使わせて貰おう」


 わいわいと弾む会話に自然と笑みがこぼれる。

 しかし少し経ってから、その中にヴァルクさんの姿がないことに気が付いた。


 私は心配になって、大広間を見渡してみる。

 すると、音楽隊をしている死体人形たちの傍らで、ひっそり背中を向けて佇むヴァルクさんを見つけた。


「ヴァルクさん……」


 彼は真面目な性格だ。

 誘拐事件のことを気にして、会話の輪から外れてるのだろうか。


 私の不安に気づいたサリオン様が、にっこりと優しく微笑んでくれる。

 それから、その笑みを僅かに悪戯っぽいものに変えて、そろりそろりとヴァルクさんの背へ近づいて行った。


「えっ、さ、サリオン様!」


 彼の行動に驚いている私をよそに、サリオン様はガシッとヴァルクさんの肩へ手を掛けた。


「ヴァルク、ほら、こっちへ来い。カナリヤも心配しているぞ!」


「いえ、陛下、私は」


「良いから良いから、ほら!」


「ですが、陛下、わ、私は――!」


 こうして半ば無理やり振り返らされたヴァルクさんは、両目から滝のような涙を流していた。

 その姿が意外過ぎて、私は目が点になる。


「あ、あらあら」


 思わずそう声を零したが、私以外の魔物さん達は、全員ヴァルクさんへ呆れ交じりの温かい笑みを向けている。


「ヴァルクはね、涙もろいのですよ、カナリヤ様。気を張り詰めている内は良いのですが、一度緩むと、もうこの状態で。サリオン様が初めて歩いた日だって、それはもう大変な……」


「ぐうっ、面目ない……」


 ちなみにヴァルクさんが誘拐事件を手引きしたことは、結婚式当日の朝には黒曜城の皆が知るところになっていた。

 それでも、ヴァルクさん本人は恐縮した態度をとっているが、他の皆は普段と変わらない様子だ。

 

 彼らの間にどんなやりとりがあったのか、詳しくは分からない。

 ただ、みんな王であるサリオン様の裁定を尊重していることは勿論、きっとこれまで積み上げてきた信頼や絆があっての結果なのだろうと思う。



「そうだ、サリオン様。私からもプレゼントがあるんです」


「僕からもだ。一番大切な物が、残ってる」 



 温かな雰囲気に包まれている大広間で、私たちは見つめ合う。

 くすくすと笑い合って、まずは私の贈り物からお披露目することになった。

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